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第三十九話 魔女カーリン

「な……なんだったの」


 カーリンたちが飛び去ってしばらく。

 最初に口を開いたのは、マルグレットだった。


「空、飛んでったな……あれが魔女か。いや、中身は魔族だが」


 俺もふう、と一息つく。


 モンスタースキルには空を飛ぶ技能が存在するが、魔法にはそんなものはない。


 その飛翔魔法を使っているのが魔女本人なのか、乗っ取っている魔族のものなのか

 そこまでは分からないが……


「魔女が、ガーゴイルやドラゴンの飛翔モンスタースキルを使ってるとか?」


 試しに言ってみる。

 マルグレットは首をふって「そういうのはラルスだけで十分」と返してきた。


 ガーゴイルの時と違い、魔力による衝撃波が発生していたので、

 魔法なのだろう。


 しかし久々に現れた魔族が、まさかの魔女の体であらわれ、

 そのうえ行方不明だったウルリーカの旦那を引き連れているという。

 頭がなかなか追いつかない。


 そのうえ言葉を交わす暇もなく、いなくなってしまうとは。

 戦士アロルドとは久々の対面であるはずの、ウルリーカとベリトを振り向いた。


 彼女たちはしばし固まっていたが、ベリトがようやく口を開いた。


「……あれが、お父さん、なの?

 

 魔族に、乗っ取られちゃった……?」


 ベリトのやや震える言葉に、ウルリーカは思ったより落ち着いた様子で答えた。


「確かにお父さんではあるね。魔族に乗っ取られているのも確かだが。


 その点は安心だね……魔族に乗っ取られながらも、元の人格を取り戻した


 クリストフェルの例があるし、なに、どうにかなるだろ」


「あ、安心とまで言いますか……?」


「殺しても死なないような奴だったからね。


 ラムエルダスでも、なんとかして生きてるだろとは思ってたし……


 その予想は当たってたわけだ。そして体が無事なら、やりようはあるさ。


 こんなことを思えるのも、ラルスのおかげだな」 

   

 驚いた様子のマルグレットに、ウルリーカは片目をつぶってみせる。

 なかなかタフな人だ。


「おう、久しぶりじゃのうラルス」


「じいちゃん!」


 小屋の中から出てきたのはスヴェンじいちゃんだった。

 他の仲間のスライムたちも、ぞろぞろと森から現れ、


「ラルス! 久々っス!」


「おかえりー! おかえりー!」

 

 とぴょんぴょん寄って来る。


「うむ、男前になったな」


 じいちゃんが足元で俺を見上げながら言った。

 俺がかがむと、よろっとした感じで跳ねたじいちゃんが俺の肩に乗る。

 年なので、跳ねまわれる高さが少し低いのだ。

  

「この方が、育ての親の……?」


「ああ。スヴェンじいちゃんだ。じいちゃん、俺の仲間たちだよ」


 俺が順々に紹介すると、「息子が世話になってますじゃ」とじいちゃんが

 体から触手を伸ばして手のように振った。


 それに対して「こちらこそ」と頭を下げるマルグレットたち。 


「で、どの方がラルスの嫁候補なんじゃ?」


 というじいちゃんの問いに、


 マルグレットの両脇に立っていたウルリーカとベリトが、それぞれ

 女騎士の片腕を掴んで上げさせる。


「この方です。わたしは愛人候補、わが娘は側室といったところで」


 続けてウルリーカがそんな事を言った。

 万歳の形になったマルグレットの顔がみるみる赤くなり、


「違いましゅ!」


 と盛大に噛みながら腕を無理やり降ろす。


 じいちゃんの気が早さもなんだが、ウルリーカたちも妙な冗談で返せるあたり、

 相手がスライムでも普通に対応してくれてるようで、ちょっと嬉しさを感じてしまった。


「完全に把握したのじゃ。それでは、気になってるであろう


 魔女たちの来訪について、話すことにするかのう」


「なにを把握されたんですかー!?」


 マルグレットが抗議の声をあげるが、俺の肩から降りて

 よいしょと切り株に腰をすえたスヴェンじいちゃんは、さっきあったことを

 ゆっくりと語りだした。




 じいちゃんの話によると、魔女カーリンはとつぜん小屋の中に現れたという。

 すさまじい地響きが起こり、小屋でくつろいでいたじいちゃんと、

 金属スライムのスタインブレカーは飛びあがった。


 しかし魔女はさっきとは違い、妙にほんわかした雰囲気を漂わせていた……

 というのがじいちゃんの感想だ。


「ただいまーっす! 魔女カーリンでっす! 


 久々にワープクリスタルを使って戻った、なつかしの我が家だねえ。


 あ、家賃とかべつに取んないから安心してねスライムさん。


 って、言ってる場合じゃないっしょ、これまでの経緯! あなたにポン!」


 魔女はそんなことを言って、スヴェンじいちゃんを指さしたところ、

 じいちゃんの頭の中に、魔女のものと思われる記憶があふれてきたらしい。

 (スライムのどこが頭なのか未だに不明だが)


 じいちゃんが突然の記憶に泡を食っていると、急に魔女は苦しみだした。


「うぐっ……せっかく眠らせたのに、お目覚め早いっしょ!

 

 も、もうお前にこの体の支配権、渡さないっしょ……! また眠れこら!」


 そう叫びながら、本棚を倒したり床の魔法陣を破壊するなど、

 ひとしきり暴れ回ったという。


「アロルド……! 来いっ……!」


 魔女がさっきとは別人の声で虚空に呼びかけると、また突然に

 一人の人間が小屋の中に現れた。


 それが戦士アロルドだ。

 だがアロルドは棒立ちのまま、暴れる魔女を見つめている。


「アロルド……! ち、強制転移酔いか。早く、例のものを……!」


 魔女が戦士に手を伸ばすが、その手は力なく落ち、また苦しげに暴れ出した。

 そのとき、スタインブレカーが森の外に俺がいるのを感じ取り、

 救いを求めて小屋の外に出ていった。


 ここでようやくアロルドは動き出し、後ろから魔女を取り押さえ、

 丸薬のようなものを魔女の口に放り込んだ。

  

「しまっちゃ! このことは対策済みかー!


 自由になれる時間が、もう終わるっしょ……無念!


 後を頼みまっす……! いろいろごめーん!」

 

 そして魔女は急に落ち着きを取り戻し、小屋の外に出ていき……



 あとは俺たちの見た通り、という具合だ。




「……なんだか、魔女って愉快な性格してそうだねえ」


 ウルリーカがのんきな感想をもらした。

 確かに、さっき見た魔女とはまるで違う印象ではある。


「ほんとに、何百年も生きてる人なのかしら」


 マルグレットが首を傾げた。

 ベリトもどう解釈したものかとばかりに、目をつぶって小さくうなっている。


「それで、魔女の記憶とは?」


 俺がじいちゃんに聞いた。


「うむ……魔女カーリンは、この国の何代も前の王に仕えていた、


 王宮魔導師なのは知っておるとおりじゃな。


 その天才的資質により重宝されておったが、ある時点から、


 王に忌避されるようになってきたのじゃ。


 何度も暗殺未遂事件が起こり……ついにカーリンは国を見捨て、


 森へ引きこもった」


「どうしてなんです? なぜ急に」


 マルグレットが問うと、じいちゃんがぷるぷる体を揺らして答えた。


「あまりにもカーリンが魔導師として力を伸ばし続けるため、王が地位を脅かされる、


 と感じるようになったようじゃ。この国がここまで発展したのは、


 半分以上カーリンの手腕によるものじゃったし」


「フィグネリア王国はもともと、この大陸――エクルンド大陸では


 他のどの国からも見捨てられた……ただの荒野だったはず」


 マルグレットが腕を組みながら、考え込むように言った。


「その広さだけは大陸一。しかし大陸一の不毛の大地。


 それこそ、モンスターがいないだけで、ラムエルダスと大差ないような。


 そんな場所を、数年もかからず人の住める緑豊かな大地にしたと……


 ”建国王”フランシスの偉業だとされてましたが……まさか」


 そこまで言ったマルグレットがはっと息をのむ。

 ウルリーカもベリトも目を合わせ、俺もうなずいた。

 どうやら皆、察したようだ。 


 その建国王とやらは、カーリンの功績を奪ったのだ。

 そして記録を書き換え、後世に残した……


「森へ引きこもった魔女に、さらなる討伐部隊が送られる始末じゃ。


 その時、『魔女の結界』が作られた……」


「ひどいな」


 俺の端的な感想に、じいちゃんはぷるぷると身を震わせて同意をしめした。

 そして、さらに話を続ける。 

  

「カーリンは森で魔法の研究に、以前よりさらに没頭したのじゃ。


 そして、『魔の地』ラムエルダスへと再び向かった。


 一度目は探検目的じゃったが、二度目はさらに魔法を極めるため……」


 異常脅威度モンスターが跋扈し、人を寄せ付けない魔の地。

 そこへ行くことが、魔法を極めることに繋がるのか?

 

「遥か昔に栄えていた、魔族が最後まで残っていた土地がラムエルダスなのじゃ。


 なぜそこへ向かったかといえば、もともと魔法は、魔族の技術じゃからな。


 魔族が最期を迎えた土地に、魔法を極めるための何かがあることを


 期待したのじゃ。じゃが、それが間違いだったと気づいた時には、


 遅かったのじゃ……」

リアル忙しさが増してきたので、次の更新は一週間後になります、すいません

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