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第三話 旅立ち

「せい!」


 襲ってきたジャイアント・ボアの突進攻撃を垂直ジャンプでかわす。

 そして頭に飛び乗り、スライムスキル【溶解】を発動。


 頭を失ったボアは、しばらく走ってどすんと倒れ伏した。


「よし」


 落とし穴に頼らなくても、ボアは仕留められるようになった。成長を感じる。


「ありがとうラルス! 助かったっス」


 一匹の青スライムがぴょんぴょん寄って来て、俺の肩にとまった。


「なかなかしつこいボアだったっス。もう少しでキレるところだったっス」


「じゃあ、俺が入るまでもなかったかな?」


 ジャイアント・ボアは時々、スライムを見つけるとつつき回す習性がある。


 物理的な攻撃は効かないので、スライムはボアの嫌がらせも基本、無視で通す。

 しかしあまりにしつこい場合は、スライムも多少は腹を立てる時がある。

 

 その場合は相手にへばりついて【溶解】スキルを使い、小ダメージを与えて驚かせ、退散させるのが常だ。


 今回のボアがはそれでも退散しなかったらしく、青スライムはひたすら森を転がされ続けたという。

 それを見かけた俺が割って入った……という経緯だ。


「やっぱりラルスは特別っスね。あっという間にドロドロっス」


 人間なのに、スライムスキルの使い方が上手いっス。


 ぼくたちだって、ボアをこんな早く溶かせないっス」


 確かに、俺のスキルの効果は発動時間が早く、効果範囲や威力も大きい。

 たぶん人間とスライムの体格差によるものだろう。


「仲間を呼べばよかったのに。みんなでやれば、ボアくらいあっという間だろ」


「面倒っス。荒事も苦手っス」


「まったく、スライムというやつは怠惰な平和主義者だな。


 そんなんじゃまたボアに転ばされるぞ」


「別に痛くもかゆくも無いっスから。うっとおしいだけっス」


 俺は肩をすくめ、森の道なき道を歩いて帰宅した。




「むぅ――そろそろ、お前も外の世界に出る時期と思うのじゃ」


 その晩、魔女の小屋にて。

 Gボアステーキに舌鼓をうっていると、スヴェンじいちゃんがそんな事を言いだした。


「スライムスキルもかなり上達したようじゃし。


 最低限、外を歩けるくらいにはなったと思うぞい」


「まだまだ、だと思うけど」


「もうボアは敵ではあるまい。モンスターではないが、あれもなかなかの強さ。


 軽くあしらえるなら、もうわしら『最弱種』スライムより、はるかにおまえは強い」


「そうかなあ……スライムたちは、もっと評価されるべきだと思うんだけど」


 ステーキを残さず平らげ、ふうと一息をつく。

 この森では問題なく歩き回れるようにはなったが、外ではどうだろうか。全然自信はない。


「あと言葉、ちゃんと通じるかなあ?


 外の人間たちに。一度も会話した事ないけど」


「むぅ、大丈夫じゃろ。おまえはちゃんと会話できとる。


 ときどき変な事を言いだすが、それは発想の問題じゃからな……」


「なんだそれ」 


 俺とスライムたちの間でかわされている言葉は、人間が使う共通語コモンだ。


 いつか俺が外の世界に出ても大丈夫なように、じいちゃんが教えてくれたのだ。 

 森のスライムたちも共通語を学んでくれたおかげで、彼らとも仲間になることが出来た。


「じいちゃんは、外で共通語を覚えたんだっけ」


 スヴェンじいちゃんはスライムの中でも変わり者で、昔はちょくちょく人間の世界へ冒険に出かけたという。

 あるとき人間の子供と友達になり、共通語を教えてもらったらしい。


「そしてその冒険の帰りに、お前を拾ったのじゃ。


 むぅ……スライム生、何が起こるか分からんもんじゃのう。


 お前の成長を見守るのが、これほど楽しいとは思わなんだ。


 充実した時間を過ごさせてもらったぞい」


 なんか、照れくさくて頭をかいてしまう。


「森での生活は楽しいし、仲間のスライムたちとも上手くやっていけてるし。


 ここを離れるのが名残惜しくてたまらないくらいだよ。


 こんな体験が出来るのは、捨てられて死ぬはずだった運命を、


 じいちゃんが変えてくれたからだよ。


 こちらこそ、感謝しかないよ。本当に、ありがとう」


 俺の言葉に、ゆらゆら揺れるスヴェンじいちゃん。

 少し感極まった様子だった。


「でも、じいちゃんを残していくのはちょっと心配だな。


 俺はまだ、ここに居ても……」


「むぅ。人間の子供を育てる、なんてことが出来たのも


 外の世界へ冒険しに行ったからじゃ。


 だからお前にも、色んな経験を積んでもらいたいのじゃ。


 経験がおまえのスライム生……いや人生を実りあるものにする。


 だから、恐れず前へ踏み出すのじゃ」


 と、ここでじいちゃんはいったん言葉を止め、


「……それに、人間はやっぱり人間と暮らすのが……」


 と少し小さな声でつぶやくように言った。


「待った。確かに俺も、外の世界には興味あるし、行ってみたい。


 けど、帰って来る場所は……故郷は、ここだよ。


 スライムの皆が平和に暮らしてる、魔女の森なんだ。


 そして、じいちゃんは俺の唯一の……家族だ」


「むぅ、そうか……そう、言ってもらえるのは嬉しいのう……


 泣けてきたわい」


「つっても未だに俺、スライムのどこに目があるのか分かんないんだよなあ」


 二人して笑い合い……そして、外への出発は明日と決まった。




 ▽



 次の日。


「むぅ、食料持ったか? 装備は万全か? 忘れ物は?」


「大丈夫だって」


 なかなかにしつこいスヴェンじいちゃんの事前チェック。

 昨晩はワクワクして目が冴えまくってたので、起きて何度も確認したからな。

 おかげで少し寝不足ぎみのはずだが、頭は晴れ渡っていた。

 

「いつでも戻って来いよっス!」


「元気で行って来るっス!」


「俺たちの事忘れるなっス!」


 見送りに来た森のスライムたちがきゅーきゅー騒ぎ立てる。


 俺はいつものボロ布の服ではなく、皮鎧に皮のズボン、肩からは皮のマント。

 そして皮のブーツと、皮シリーズで身を固めている。


 じいちゃんが、『魔女の小屋』に残されていた魔女の服やら何やらを素材にして、作ってくれたものだ。

 人のものを勝手に使って良いのかとも思ったけど、


「むぅ、もう16年も勝手に人の家で暮らしているんじゃ。


 今更どうって事ないじゃろ」


 というのがの答えだった。


「文句を言える立場の人も、大昔に亡くなったわけだしなあ」


 その魔女の残した『人払いの結界』は今も生き続けており、人間を拒み続けている。

 森に入ろうとすると、とてつもない恐怖を感じ、あるはずのない幻影すら見るという。


 俺が平気なのは、いったん入ってしまえば結界の効果はなくなる、という理屈らしい。

 まあ、中に連れ込んだのはスヴェンじいちゃんだけども。

 『人払い』というだけあって、モンスターには効果がない。


「今日のラルス、カッコいいっス!」


 一匹のスライムの感想に、ふふんと自慢げなじいちゃん。


 腰に吊り下げた剣は、じいちゃんが森の外で拾ってきたものだ。

 素手のままだと心もとないだろう、という気づかいがありがたい。

 鞘から抜いてみる。


「……さすがに、捨てられてただけあるな」


 刃こぼれしまくりの、あまり見栄えの良いとは言えない剣だ。

  

「まあ、“斬るには十分“かな」

 

 ひとりごち、剣を鞘に納める。

 しかし、これからの事を思うとちょっと身震いする思いだった。


 なるべくなら外のモンスターには出会わないようにしたい。本職の冒険者にも。

 俺程度など、赤子の手をひねるようなものだろうからな……

 なるべく、目立たないように行動しないと。


「じゃ、行って来るよ! みんな! 元気で!」


 最後の挨拶をかわし、俺は『外の世界』への第一歩を踏み出した。

 読んでいただきありがとうございます。


 面白かった、続きが読みたい、などと思われましたら、


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 作品作りの参考にもなりますので…… 


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