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第三十五話 追放 -side・ランベルト-

「……!」


 一瞬の酩酊感ののち、ランベルトが目を開けた。


 すぐさま周囲を確認する。そこは、小高い丘の上のようだった。

 見下ろせば緑の草原が広がり、ゆったりと風がながれ、

 のどかな雰囲気をかもしだしている。


「村が、あるな」


 遠くに、草原の一部を切り取ったように、木の柵で囲われた家々が

 立ち並んでいるのが見えた。


 ほっと一息をつくランベルト。


「ふう……ラムエルダスは回避できたか。そこだけは、飛ばされた後に


 どうあがいても復帰できそうにないからな。


 たとえ俺であろうとも」



 ランベルトは、ラルス王が下した『ランダム転移の刑』を受け、

 この丘に飛ばされてきたのだ。

 

 トラベルクリスタルの不良品は、瞬間移動が出来るだけの性能しかなく、

 思った通りの場所に行けないという不具合がある。

 一度使ったが最後、世界のどことも知れない場所に飛んでしまうかもしれないのだ。


 ランベルトは、それを逆に利用した『国外追放』を受けたのである。


 『紅蓮の勇者』と称えられたランベルトでも、ラムエルダスだけは

 恐ろしい場所であるようだった。



「植生などを見る限り、少なくとも、ここは俺の国のようだ。


 そう、『俺の』国だ! すぐさま、取り戻してやるぞ。


 ラルスの手の内はほぼ全て把握した。次は負けぬ……!」


 ぎりり、と歯を食いしばる。

 そして村へ向かってランベルトは歩き出した。


「むう、妙に体が重い……しばらく、食べ物を口にしてないせいか。


 だとしても、この気だるさは一体……?」


 一歩一歩が、やたら億劫に感じる。

 ランベルトは顔をしかめるが、今はまず、村にたどり着かねば

 何も始まらないと考え、なんとか村へと歩みを進めた。


「まずは私兵を集めるか。この村から地方領主にでも使いを出そう。


 俺の威光を使えば、すぐにでも軍を組織できるだろう。


 攻め上ってやる、王都へ……! 俺は全ての国を支配できる器だ。


 こんなところで、つまずいている場合ではないのだ!」


 重い体をなんとか動かし、しばし歩いたのち、村の入口へとついた。

 立て看板には『リンドグレーン村へようこそ』と書かれてある。


「……覚えのない名前だ。よっぽどの田舎か……


 人口も少ないと見えるし、俺がわざわざ足を運ぶほどの価値は全くない。


 が、今は我慢の時……せいぜい、水と食料を提供させてやろう。


 田舎メシなど、食えたものではないだろうがな」


 ランベルトは木製の頼りない門をくぐると、いきなり大音声で叫んだ。


「村の者よ! 聞けい! フィグネリア王国の王、ランベルトだ!


 突然の来訪に驚き、感動したかもしれんが、恐れおののくことはない!


 黙って、水と食い物を出してくれるだけでよい! 平伏も今は必要ない!


 ……!?」


 ランベルトの声に驚いた村人たちが、近くへわらわらと集まってきたが、

 遠巻きにしたままひそひそと声をかわしあうだけで、何の動きも見せなかった。


 平伏するどころか、怪しい者でも見るような目で見てくる。


 その様子にランベルトは一瞬カッとなったが、村を滅ぼしたところで

 水と食料は確保できるわけではない。


 ラルスとの戦いで相当消耗したあと、最低限の食糧を食べたのみ。

 それからいったん牢獄に送られて五日。

 その間、追放処置を受けるまで水しか飲んでいない。


 トラベルクリスタルでの転移も、かなり体に負荷がかかるのだ。


「早急に、水と食料だ! ……おい、何をモタモタしている!?


 どうしたのだ貴様ら! 王の命令だぞ!?」


「ランベルトと言いなすったか」  

 

 そこへ、村の長老と思しき人物がやってきた。


「そうだ! 貴様、王を呼び捨てにするとはなんと……いや、ともかく。


 早く、水と食料をだな……!」


「それなら、まずランベルト本人であることを、確かめさせてくだされ」


「なん、だと……?」


 長老の言葉に、びきっとこめかみに血管が浮き出る……が、

 かろうじて自制する。あやうく、村ごと消し炭にするところだった。


「いや、王都から使いがやってきましてな。


 『ランベルト王を名乗る、偽者、不届き者が出没している。警戒されたし。』と」


「な……!」


 今度こそ、ランベルトは言葉を失った。

 これはラルスが手を回した事なのか。


「じゃから、証明して欲しいのじゃ。


 ランベルト……『紅蓮の勇者』と呼ばれたかたなら、

 

 出来る事があるじゃろう。それを見せてもらえれば、水でも食糧でも、


 なんでも提供しますのじゃ」


「き、貴様ら……俺の顔を……覚えがないというのか!


 わざわざ、証明せよと……!」


 大変な屈辱を覚えるランベルトだったが、飢えと渇きがそろそろ限界だ。


 目の前の老人に火炎魔法をぶっ放したい衝動をおさえ、かつての『勇者』としての

 固有スキル――【空間収納箱】を発動しようとした。


「……!? 発動せん、だと?!」


 ランベルトがいくら空中を掴もうとも、剣は握られてこなかった。

 そもそも体がやたら重いのは、まさか、身体強化が発動していない……!?


「どうやら、やはり偽者のようじゃな」


 長老の言葉に、ランベルトを取り囲む村人たちの目の色がかわった。


「出ていけ」


「なんだと……!? 貴様、王に向かって、」


「出ていけ! 村から!」


「偽物は出ていけ!」


 一人が口火を切るなり、次々と村人が叫び出した。

 そして、さらに石を拾ってランベルトに投げつける者すら出てきた。


「痛っ……!? い、痛いだと!?


 この程度の石っころで、俺が痛いと感じるだと……?」


 ランベルトが戸惑うも、石つぶては次々と振って来る。

 やむを得ず、村をいったん離れる事にした。


「ど、どういう事だ……俺の体は、一体」


 試しに、【能力開示】スキルを自らに使ってみる。

 このスキルは、他に比べてほとんど魔力を消耗しないで発動できるのだ。

 そして、自らに起こっている事を把握して、ランベルトは驚愕した。


「俺の体内の、魔力生成器官に状態異常……!?


 【メタル化】だと!? 魔力器官が、金属で覆われている!


 これでは魔力が一切生み出せん! メタル化……まさか!


 あやつ、俺との戦いの最中、こんなことを!」


 まさしくそれはラルスの仕業であった。

 ランベルトから魔力を吸収していた時、同時に、ランベルト体内の魔力器官に

 メタル化を施していたのだ。


「は、早く誰か、解呪魔法が使える奴が必要だ……!


 い、いや、これはやつの【スライムスキル】によるもの。


 固有スキルによる状態変化を元に戻せるのは、術者本人のみ……


 お、おのれ! おのれ……!」


 ランベルトは、追放される寸前、ラルスが最後にかけてきた言葉を

 思い出していた。


「並みの人間として、地道に生きてくれ。


 王などと名乗らず、普通の人間として、この国の民と一緒に」


 と。

 

「俺がっ! 支配すべき民と共に! だと!


 普通の人間だと! 俺は、選ばれし勇者だぞ! 


 そんな、そんなことが!」

 

 だが、もう勇者としてのスキルは二度と使えず、さりとて

 今まで侮って来た民衆に混じる気などランベルトにはない。

 しばし天に向かって吠えたけるランベルトだった……



 

 ――その後、ランベルトの姿を見たものはいない。


 ある冒険者の報告に、脅威度レベル2ゴブリンの群れと

 行動を共にする人間がいた……というものがあり、

 その人間が元国王に似ていた、という話が伝わるのみだ。

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