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第三十四話 ラルス王誕生

「こ……ここに、ランベルト王が宣言された約定どおり、現国王と戦い勝利した、


 王の第一子……ラルス、にフィグネリア王の称号を与えることを認める。


 正式な戴冠式は、準備が整い次第、行われるものとする……」


 神官たちの間から進み出た、この国の宰相か神官長と思われる人物がそう述べると、

 謁見の間に「おおっ」という感嘆とどよめきが広がった。


「ラルス!」


 マルグレットとベリトが駆け寄ってきた。

 トルド王子も、ゆっくりとその後ろから歩いてくる。


「だ、大丈夫? けがは?」


 マルグレットもベリトも、不安げに俺の腹を見る。

 しかし服が破れた痕があるだけで、その下の肉体は完全に回復している。

 そのことを話すと、二人ともほっとしたようだった。


「心配してくれてありがとう。トルド王子も、色々と助かった」


 マルグレットたちの後ろにいるトルドに声をかけると、


「別に、お前のためを考えたわけじゃねえ。


 亡き母のために戦う者……母のかたきを討とうとする者を応援しない、なんて


 息子などいない。それだけだ、それだけだからな!」


 ふん、と鼻息を荒くする王子。


「それはともかく……どうするんだ、あの『親父』は」


 そして、神官たちに両側から抱えられ、なんとか立ち上がった

 『元国王』を親指で示した。


 ランベルトはなにやら、神官たちにわめいている様子だ。

 だがその口調には、以前ほどの力は全くない。


「我が体に、気安く触れるな……下賤のものども……!」


「もう、あなたは王ではなく……ただのランベルト、でありますれば」


 しれっと神官が答えた。


「貴様ら……! 数刻前までは、王、王よと、言っていた、


 その舌の根も乾かぬうちに……不敬なるぞ!」


 怒りに顔を紅潮させるも、いまだに体が動かない様子の元国王。


「今の王はラルス様にあらせられます」


「まだ戴冠式も済んでおらぬ、あのような若輩が、未熟者が、王だと?」


「あなたがそのように決めたのですぞ」


「認めぬ! さきほどの勝負は、俺の勝ちだった……あやつが、卑怯な真似を……」


 なおも言いつのろうとするランベルトを無視して、


「王! ラルス王!


 この者にはどのような処置を!?」


 神官たちがずるずるとランベルトの体を引きずって、俺の前に持ってきた。

 ……なにか、妙に扱いが荒いな?

 そして、何かを期待するようなまなざしを俺に向けてくる。


「……神官たちも、親父……ランベルトにはほとほと困らされてきたんだ。


 気性があらく、少しでも気に障れば拳に物を言わせてくる。


 親衛隊も、ケガが絶えない毎日だったようだ。あの拳は鉄鎧すら砕くからな。


 以前は『勇者』として人望も厚かったらしいが……権力を手に入れてからは、


 傍若無人の一言につきる、と、お抱えの老魔術師が言っていた」


 トルド王子がため息をつく。

 

「その通りです! わたしたちも、何度ぶん殴られたことか!」


「そして、過剰な野望を抱き、西の大国――ランツとの摩擦が強くなったのも、


 ランベルトの治世が始まってからの事です!」


 トルド王子の話に続いて、神官たちがせきを切ったように、

 口々に元国王への不満をまくしたてだした。 


 その様子に、ランベルトがまた力なくわめきだしたが、誰も相手をしなかった。


「そして! 現国王である、ラルス様の、母君の命を取った人間でもあるのです!


 ラルス王。この男に、しかるべき報いをなさるべきでは。


 そう、『しかるべき報い』を!」


 ……『親父』は相当、嫌われていたようだ。

 さっさと命を取れ、と言われている気がする。


 確かに、母の事は許しがたい、が……

 腕を組んで考えていると、


「皆の気持ちは良く分かるが、処刑はまずいだろうよ……」


 トルドが前に出て意外な事を言いだした。

 

「ラルスがランベルトを殺めて、その地位を簒奪したかのように


 諸外国には思われてしまう。そもそも、力で国王の座を奪う事が可能である時点で、


 やってる事が近代国家のそれじゃない。蛮族の国レベルだ。


 ここは、ランベルトの過去の罪がいくつか明らかになり、追放。


 その跡をラルスが問題なく継いだ。ってのが建前的にも、世間体的にも、


 落ち着くべき位置じゃないのか?」


「おお……」


 俺は感心してしまった。

 元国王の扱いで、諸外国の反応まで考えが及ぶなんて、俺には出来そうにない。 


「……なに、感心した目で見て来てんだ。俺はお前と違って、ちゃんと帝王教育を


 受けているんだ。これくらいは普通だ。下々の者、田舎者とは違うぜ」


 トルドが嫌そうな顔をして俺を見た。


「その割には口調は荒っぽいし、初心者講習の時も態度がかなり悪かったように思うが」


「うるせえな、俺はもともと、王位継承権が冒険者としての功績で左右されるって


 仕組みが嫌いだったんだよ! 高貴な出自の俺が……


 なぜ泥にまみれなければならんのだ!」


 そういうところは多少、ランベルトの血が生きてる気もするが。

 だが、あれに比べればまだまともに思える。


「わかった。ランベルトの処置は、トルド王子の言う通りにしよう」


「はあ。王が、そうおっしゃられるなら……」


「ランベルトは、最低限の装備のまま、トラベルクリスタルによる


 『無作為ランダム追放』とする」


 やや不満そうな神官たちに、俺はそう宣言した。



 これは、ウルリーカ邸にしばらく居ついてた頃に聞いた話だ。


 ウルリーカがベリトに持たせた、転移用のトラベルクリスタル。

 最初に設定した場所にいつでも即、瞬間移動できるという代物だ。


 しかし、その作成は恐ろしく高度な魔法技術を使うようで、高確率で失敗作が出来る。

 失敗作のクリスタルは瞬間移動は出来るものの、どこに飛ぶかは全く予測不可能。


 地面の中や海中深くに出現することはないが、そんな不確実なものには頼れない、

 というのがクリスタルを制作している魔法技術者と、冒険者たちの一貫した考えだ。



「なるほど、それなら……」


 納得した様子の神官たち。

 だが、ランベルトは俺の宣言を聞いてニヤリと笑った。 


 それを見たトルドが耳打ちしてきた。


「おい……その程度だと、あの男は確実に生き残るぞ。


 いや、殺すつもりではないからそれでいいんだが……


 あの男の力を見くびり過ぎだ。腐っても元勇者。


 地方では、その栄光はいまだ有効だ。その力を使い、


 各地の領主を扇動し、大勢の兵を味方につけ、絶対ここに舞い戻って来る。


 王位を再び、我がものとするためにな」


 なるほど。

 トルドの読みは正しいだろう。


 しかし。


「たぶん、そうはならないと思うよ」

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