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第三十三話 決着

「ほう? 次のスキルで、終わらせるとな」


 俺の言葉に、ランベルト王が警戒の姿勢をとった。

 その間に俺は剣を構えなおし、【溶解】のスキルを付与する。


 そして、全力で王へと踏み込み、水平に薙ぎ払った。


「失望したぞ!」


 王は素早く身を沈め、あっさりとそれをかわした。 

 そして灼熱と化した右拳を開いて、貫き手の形にそろえ、俺の腹に叩き込む。


「ぐうっ」


 今度は弾かれず、ずぶりと指先が俺の腹に食い込んだ。

 思わずうめき声をあげてしまう。


「魔力切れで、スキルによる硬質化もだいぶ弱まっているな!


 そして、俺を終わらせると言ったスキルが【溶解】剣とは……


 貴様のスキルはすさまじいが、剣技はてんで素人だ!」


 ぐっ、と王が右腕に力を込めて押し込んでくる。

 じわり、と俺の腹の傷から血が流れだした。


「ラルス!!」


 マルグレットが悲鳴のような声で俺の名を呼んだ。

 俺は腹に食い込んだランベルトの右腕をつかむが、ビクともしない。


「甘いな! このまま、豪熱と化した俺の手に貫かれろ!」


 王が哄笑しながら、俺の体を頭上へと持ち上げた。

 じわり、じわりと王の手が俺の腹に深く食い込んでくる……

 

 王の腕を掴んだまま身じろぎする俺に、


「無駄なあがきはよせ! お前の魔力はもってあと数秒、


 大人しく結果を受け入れろ! 死という、逃れられぬ結果をな!」


 王が邪悪な笑みを浮かべながら、そんな言葉を投げかけてきた。


「やめて……もうやめてーっ!」


「……ち!」


 マルグレットがいきなり抜剣したかと思うと、王に向かって斬りこんで来た。

 驚いたことにトルド王子も、同じように剣を構えて向かって来る。


 その二人に顔を向けた王が、


「王の座をかけた崇高な勝負に、雑魚が入り込んでくるでないわ!」


 叫ぶなり、左手の指をパチンと鳴らした。

 すると突然、天井まで伸びる炎の柱が床から何本も伸びてきた。


 その柱は、俺と王の周辺をぐるりと取り囲むように展開する。


「こんなものっ!」

  

 壁と化した炎に向かって、なおも突っ込もうとしたマルグレット。

 だが、あわててトルドが前に出て止めた。


「あぶねえっ! その炎は並じゃないぞ! 


 金属鎧を着こんだあんただって、火傷どころじゃない!


 魔法で回復する間もなく、一瞬で消し炭だ!」


「……!」


 トルド王子の言葉に、歯噛みするマルグレット。

 今度はベリトが氷魔法を放って中和しようとしたが、

 炎の柱に一切の変化も見られない。


「……魔法力が、違いすぎる……」


 ベリトの目が悔しさに歪む。

 

「ラルス―っ!」


 マルグレットがふたたび叫んだ。

 そして炎の壁をぐるぐると回るが、どこにも入り込む隙はない……


「ははは! 『勇者』たる俺を、倒せるものなど結局は誰もおらぬ!」


 王が高笑いし、勝利を確信したように言った。 


「俺の治世はまだまだ続く! いずれ全ての世界をこの手にしてやろう!


 ランベルト・ハクヴィニウスの名は世界に轟くのだ! 


 ははははは! ……はっ!?」


 ランベルトの高笑いが突然途切れた。

 周囲を取り囲んでいた炎の柱が、次々に消えてしまったのだ。   


「貴様ら! 何をした!?」


 王の問いに、困惑顔のマルグレットとトルド王子。

  

「……俺がやったんだよ」


「なに? ……うっ?」


 俺の言葉を聞くなり、がくっと膝をつくランベルト。

 俺を抱えあげていた右腕は震え、力を失って俺を床に降ろすような格好になった。 

 そのまま、王は床に倒れこんでしまう。


「何故、俺は倒れるんだ……? 力が……!


 貴様、な、なにを、した……!」


 ランベルトはかろうじて顔を上げ、俺を見た。 

 水袋から水を補給し、腹の傷を治しながら俺は言った。


「スライムの、基本中の基本のスキルさ。


 スライムと言われて、真っ先に浮かんでくる事の一つでもあるはず」


「基本、だと……!?」


 歯噛みしながら、俺を見上げるランベルト王。

 そんな王を見おろしつつ、俺は淡々と言葉を続けた。


「スライムが『生きる』ためのスキルでもある。


 【溶解】は別に、攻撃手段のためにあるものじゃない。


 溶かした後どうするか? 溶かしたものを、食べるんだ。


 だがスライムには消化器官はない……そのためのスキル。 


 【消化・吸収】だ」


「【消化・吸収】……」


 そんな、どこにでもある様な単語を聞いて、王は今一つ納得のいかないような顔をした。


「生物の基本でもあるかな? 


 俺の仲間は肉の味を覚えさせてしまってからは、肉ばかり食うようになったが……

 

 スライムはもともと、何でも食べる。岩だろうが金属だろうが。


 さすがに岩や金属は、俺には無理だったが……


 スライムスキルで真似できなかったことの一つだ」


「……」


「岩や金属は無理でも、魔力なら俺にも真似出来たんでな。


 形あるものではないので、【消化】は必要ない。【吸収】だけ、させてもらった」


「! そうか、ずっと俺の腕を掴んで離さなかったのは……」


 ようやく、ランベルトの目に合点がいったような色が浮かぶ。

 そう、打ち込まれた王の手を抜こうとしたんじゃない。


 腕を通して、【消化・吸収】スキルを使っていたのだ。


「あんたの魔力、すべてもらった。魔力で維持していた炎の柱は消えた。


 【身体強化】も、【【能力開示ステータスオープン】も。


 【空間収納箱アイテムボックス】も、使用不能だ。


 それ以前に、魔力切れは極度の空腹と衰弱を起こす……もう立てないだろ」


「むうっ……!」


 王が体に力を込めようとするが、もはや指一本、持ち上げられない。

 俺は宣言した。


「この勝負は俺の勝ちだ。


 魔力と同様、王位……この国も貰ったぞ」

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