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第三十一話 勇者vsスライムスキル

「……なんだと?」


 ギラリ、と王の目が炎のごとく光った。


「自ら手放した息子が、予想外の力を持って現れるなり、都合よく取り込もうとする。


 過去の過ちを悔いもしない。母の命を奪っておいて、何の呵責も感じていない」


 俺はその目を真正面から受け止め、言い放つ。


「ふん。あれは、弱い女だった。ハクヴィニウス家にはふさわしくなかったのだ。


 生まれた息子たちも、未来像で出てくるものはせいぜいがワイバーン程度。

 

 ワイバーンと言えば劣化ドラゴンだ。敵意と嫉妬を象徴したりもする。


 そのうえ、他の連中はせいぜいがカーバンクルやバイコーン……


 見事に、中途半端な者たちばかり!


 俺の血を受け継いでおきながら、その程度の世継ぎしか生むことが出来なかった」


 そう言って首を振るランベルト。


「だが、ラルス。お前という突然変異のような傑物が現れた。


 その点、その一点だけにおいて、褒められる女ではあったな」


「悔やむ気持ちはないのか」


「俺は過去を無益に振り返ったりはせぬ。


 強きものは常に前を向くものだ。ささいな事に構っていられるか。


 たかが、子供を産ませるだけの道具にすぎぬものを」


「……王位継承権が俺にあるからって、王様になんてなるつもりは無かったが。


 今の王より、俺が王になったほうが、世のためになる気がしてきた」


「ほう……? ぬかしたな。


 では、今ここで俺を倒して、王になるか?」


 ランベルト王がニヤリと笑い、両手を広げる。


「そんな事でなれるのか?」


「なれるとも。それがこの国の、俺の作ったしきたりだ。


 力こそ全て」


「単純で良いな。では、この国、貰う」


 俺は両手に持った剣を正面に構え、ランベルト王に向き合う。


「王に……父に剣を向けるか。その意気や良し」


「俺はもう、お前を父とは思いたくない気持ちで一杯だ」


 王は再び笑みを浮かべ、右手を真横に突き出した。

 その手には、幅広の大剣がいつの間にか握られていた。


 どこから出てきたんだ……? 

 剣を抜いた仕草もみられなかったが。


 俺の疑問を察したのか、マルグレットが右後ろから、声をかけてきた。


「あれは王の固有スキル……【空間収納箱アイテムボックス】よ。


 無限に物を、なんでも自分の近くに収納できる」


 なんて便利なスキルだ。

 そんなものがあれば、魔族軍との戦いで必要だった大量の食糧、

 重たい思いをせずにすんだものを。


「王が、冒険者として名を馳せていたころの職は『勇者』。


 剣も魔法も、等しく使いこなせる希少職よ」


 確かにおとぎ話で見るような職、ギルドには居なかったようだ。

 

「スキルからすると、荷物持ちとして便利そうだな『勇者』って」


「お前も入れてやろうか、ラルス。人間を入れると窒息死するがな。


 それも、スライムスキルで何とかできたりするか?」


 俺の煽りに、王はふんと鼻を鳴らしてそう答えた。


「それはちょっと分からない。だけど、お前に捕まるような事はないし」


「言いおる。では……死合うとするか。この国をかけて」


 並の人間なら両手で持つような大剣を、王は片手で軽々と一度振り回すと、

 剣先をびっ、と俺の眼前に突きつけてきた。


「国よりもまず……俺は、亡き母のために、戦う」


「はっ! 軟弱、薄弱、不甲斐無し!」


 王は一喝すると同時に、だんっ、と大理石の床に一歩踏み込み、

 大剣を大上段から振り下ろしてきた。


 俺は全く反応できず、左の肩口からバッサリと斜めに斬り伏せられてしまった。

 巨体のわりに、なんて速さで動くのか。


「……本当に、物理攻撃は意味がないのだな」


 王がうなる。

 当然、俺はノーダメージだ。


「スライムの怖さ、思い知れ『勇者』」


 俺は刃こぼれした剣に【溶解】を付与し、王に斬りかかった。


 悠々とした様子で王は大剣を構え、受け止める……が、

 ほとんど音もなく大剣は真っ二つになり、半分になった刀身ががしゃんと

 床に転がった。


「強度でアダマンを上回る、ミスリル製の宝剣でも受け止められぬか」


 ほとんど柄だけになった剣を、無造作に後ろに放り投げるランベルト。


「大剣ごと、その胸板を斬りさくつもりだったが……」

 

 俺は舌を巻いた。

 王は剣が切り裂かれた瞬間、後ろに一歩下がって俺の剣をかわしていたのだ。

 速度も、剣技も、俺より上……というか、マルグレットをはるかに上回っている。


「ふん……トルドの技量が足りてないわけではなかったか。


 小手調べは終わりだ。スライムの特性を持つのであれば……


 これはどうかな。お前も魔法に弱いか?」

 

 無手となった王が、手のひらをこちらに向ける。

 すると手の先の空間に、サイクロプスの頭ほどの大きさの火球が発生した。


「……でかい!」


 ベリトが息をのむ。

 王の背後の神官たちも、どよめいている。


 瞬間、凄まじい速度で火球が放たれた。

 火球が俺に命中した瞬間、謁見の間に爆音が響き渡り、城自体が揺れた。


「きゃあっ!」


 衝撃波でマルグレットたちが床に転がる。

 

「さ、さすがに『紅蓮の勇者』! 往年の力、いまだ衰えず!」


「ラルスとやら、溶けて蒸発してしまったのでは?」


 神官たちが驚きと称賛の声を上げる。

 しかし、


「……コゲひとつ、ついておらぬな。どうやった?」


 もうもうたる煙が晴れた時、全くの無傷で俺が立っているのを見て

 王はあくまで冷静にあごをなでた。


「【硬質メタル化】だ。一切の魔法攻撃は通用しない」


「そんなスライム、お目にかかったことがないがな」


「金属系は超希少種だからな。逃げ足も素早いし」


 しかし、すごい魔法だな……

 たしかに普通のスライムは魔法に弱いけど、この威力だと

 そんなの関係ないんじゃないか。

 豪華なじゅうたんが一瞬で全て燃え尽きてるし、柱もあちこちが溶けている。


「し、しかしラルスと言う男、強い!」


「あらゆる攻撃が効かないのであれば、倒しようがない!」


「どうされるのです……ランベルト王!」


 親衛隊と神官たちが、ざわざわと不安の声をあげだした。


「剣、魔法、どちらも無駄となると……


 残るはこれしかないな」


 王は不敵に笑うと、腰をやや落とし、右足を引いた半身の姿勢をとった。

 固めた拳は右を胸前、左を腰の前に構えた。

 

「……勇者が今度は、格闘家に職替クラスチェンジか?」


「これが本来の俺だ。


 勇者の固有スキルはアイテムボックスだけではない……


 もう一つが【身体強化】。俺の体格向きのスキルとは思わぬか。


 そして!」


 王が気合を込めると、その両拳がボウッという音と共に炎をまとった。

 

「魔法剣ならぬ魔法拳……


 剣と魔法が無駄なら、二つを合わせた攻撃はどうかな?」 


 火球に加えて炎の拳か。

 なるほどこれが『紅蓮の勇者』ね……


「どっちも無駄なら、合わせても無駄とは思わないか?」


「その場合も考えておるから安心せい…… 


 いくぞ、おおおおおっ!!」


 雄叫びと共に、巨体に似合わぬ速度で、猛然とランベルトが突進してきた!

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