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第二十八話 大祝賀会

「ささやかな祝賀会……と言われましたよね」


 マルグレットが困惑顔でつぶやいた。


「言ったが」


 軽く返すウルリーカ。


 

 なんとか大森林に集結した、百五十体のモンスターを討伐完了した俺たち。

 ギルドマスター・ウルリーカの家に招かれ、祝賀会が開かれることになったのだが。


 ウルリーカの家は大邸宅・大豪邸というべき、大変立派な造りだった。

 何人ものメイド・執事に出迎えられ、通されたのは広い庭が見える大広間。

 天井には初めて見るシャンデリアがぶら下がっている。


 そしてとんでもなく長い机に並べられた豪勢な料理は、

 おかかえシェフ10人による力作だ。

 素人目にも、あれこれ趣向を凝らしたものと分かる。


「とても、『ささやかな』というレベルではないような……」


「気にするな。今日はお互い無礼講さ。存分に飲んで食って騒いでくれ」


 恐縮しきりのマルグレットに、気安くウルリーカが肩を組んで見せた。


 ……まいったな、せっかく美味そうなのにそれが入る余地がない。

 この大邸宅は庭も巨大だ、どこかに毒沼を作らせてもらえれば、

 腹も減るのだが……


「さあ、席についてくれ。乾杯と行こう。おっと君たちは未成年か、仕方ないな。


 最高級の果物ジュースで……かんぱい!」


 ウルリーカの音頭で俺たちも杯を合わせる。

 ぐっと飲み干すと、今まで味わったことのない、濃厚な味わいと香りが口の中で広がった。

 まさに最高級……しかし俺の腹はまだ限界に近い。腹の満タン度は9割以上。


 毒沼……作りたい……


「ぷはぁ、良い気分だ。一人だけ酒なのは勘弁してくれ。


 さて、今回の酒の肴は当然、百五十体のモンスターをどう討伐したか!


 その件についてだ。マルグレットの話によると、

 

 9割がたラルス君がどうにかしたらしいが……?


 どうした、ラルス君。その『助かった』と言わんばかりの表情は……」


 俺はウルリーカのそのフリに乗っかり、モンスター討伐の実例として

 大広間から見える庭に毒沼を作ることに成功した。

 もちろん許可は取った。


 モンスター百五十体を沈めるほどの規模ではないが、これで腹の満タン度は

 6割ほどに減り、無事、豪勢な料理を味わうことが出来るようになった。

 やはり持つべきは、スライムスキルだな。



「いやあ凄いものだな【スライムスキル】!


 【水と成る】! 【毒生成】! 斬られても殴られても平気!


 話を聞けば聞くほど、驚くことばかりだ。ラルス君は素晴らしい。


 ますます興味深いね。一対一で、じっくりその秘密を調べつくしたい……」


 ウルリーカは良い感じに酒が回り、ほんのり頬を染めながら、ねっとりとした

 視線をこちらへ向けてくる。

 その様子にマルグレットが咳ばらいをし、ベリトも抗議の声を上げた。


「……それはダメ。最初に研究するのはボク」


 そういえば、そんな約束をしていた。

 結局、何かされるわけでもなく、モンスターだの魔族だのの

 対処に時間を取られっぱなしだ。


「そーかそーか。ま、ベリトなら良い結果を出してくれそうだ。任せるよ」


「信頼してるんだな」


 俺の言葉にご満悦といった様子のウルリーカがうなずき、


「それはもう。なんたってわたしの娘だからね」


「なるほ……えっ?」


「ええっ!?」


 俺とマルグレットの声が一部重なった。

 ベリトに目を向けると、「あちゃー」という顔をしている。

 

「おっと、酒の勢いで口が滑ったね……


 こいつは秘密だぞ。ベリト・グレヴィリウスは、わたしの娘なんだ」


「そ、そうだったんですね。でも、姓が……」


 マルグレットが首を傾げた。

 そういえば確か、ウルリーカの姓は……ええと。なんだったっけ。


「ああ、ベリトには父親の姓を名乗らせてるんだ。


 わたしの姓・ハルストレムを名乗らせると、母親がギルドマスターの職権を乱用して、


 娘の研究に過剰に肩入れしてる……と悪評が立つからね! 


 実際そうなんだけども! 秘密だぞ!」


 ウルリーカはご機嫌に言い放った。

 まあ、言いふらすようなことはしないけども。

 ベリトを見ると、やや居心地が悪い様子をしていた。

 

 父親の姓か……その父親、というのは今どこにいるのだろう?


「ラルス君の疑問は分かるよ。ベリトの父、わたしの伴侶はどこに居るかってね。


 いまは暗黒の地さ。ラムエルダス踏破を目指して、それっきり!」


 なんと……ウルリーカの夫の人も、ラムエルダスから未帰還の冒険者だったとは。

 そういえば、ただ一人のS級冒険者がどうとか言ってたのは、このことだったのか。

 驚きにマルグレットも口を手で押さえている。


「だからさあ、わたしは残されたベリトの幸せを、全力で支援しなきゃなんだ!


 でも、いいだろお! 母親がさあ! 娘のために力添えするのは当然さ!


 それが血のつながった、母娘ってものだろう! 


 あったかい家庭というものは、そういう!」


 酒瓶片手に弁舌をふるうウルリーカ。

 だいぶ酔いも回って来てる様子だ。


「そ、そうですね。やや手段は褒められない気もしますが……


 ……わたしの父も、魔族なんかと手を取る以前は、よい父親でした。


 優しくて、誇り高く……わたしにも、実に良くしてくれました。


 母も同様です。わたしのことを常に見守り、一番に考えてくれていました。


 事業に失敗さえしなければ……今でも幸せな家庭を築けていた。


 断言できます」


「そうだな……父君の件はまことに残念だった。


 母君は気を病んで、隠遁したのだったか。


 だが貴女のふるまいを見れば、父君、母君が立派だったことは分かる」


「ありがとうございます」


 ウルリーカの言葉に少し顔を伏せ、目をつむるマルグレット。

 父親……か。


「……そういえば。ラルス君の能力ばかりに目が行って、家族の事には


 まるで話が向かなかったが。君のところは、どうなんだい?」


 ウルリーカが俺の方を向いて、そんな事を言ってきた。


「確かに、ラルスのそういった話はあまり聞いた事ないですね」


 こくこく、とベリトもうなずく。

 家庭の話……か。


「おっと、話しにくいのであれば、無理にとは言わないよ」


 ウルリーカは気を回してくれたが……


 皆のそういう話を聞いたうえで、こちらは一切を明かさないのは不義理にも思えた。

 じいちゃんはあまり話さない方が良い、と言ってはいたが。

 

 以前、俺が言った「仲間はなんでも、分け合える存在」という言葉が脳裏に閃く。

 今の俺は、全てを分け合えているだろうか。

 いや……秘密を抱えたままでは、そうは言えないだろう。


 俺は皆を見回した。

 彼女らは……信頼できる、仲間なのだ。


 ごめん、じいちゃん。もう黙ったままでは、いられないよ。

 俺はスヴェンじいちゃんに心で謝り……そして口を開いた。



「俺は……俺には、血のつながった父親、母親がいるかどうかは分からない。


 俺は捨てられた子供なんだ。育ての親は、スライムのスヴェンじいちゃん。


 多くの時を共に過ごしたのは、仲間のスライムたち。


 俺は、『魔女の森』近くに捨てられていたという。


 そう……俺は、スライムたちが棲む――魔女の森で育ったんだ」

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