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第二十六話 リュドvsマルグレット

「――なんなのこれ。


 一体、何が起こったっていうの」


 

 シェーンベリの丘。

 ひときわ高く盛り上がった場所で、一匹のガーゴイルがつぶやいた。

 むろんただのガーゴイルではない。

 その体を乗っ取っている魔族・リュドであった。


「全ては上手く行っていた。なのに……!」


 予定より早く、多く、魔の地からモンスターどもを集めることが出来た。

 ラムエルダス監視の砦も、魅了チャーム魔法で簡単に落とせた。


 そこから週に一度、偽の定期報告を出すことで、

 王都の目がこちらに向くこともなかった。

 今日はじめて斥候が来た事には驚いたが、それなら計画を前倒しにするだけだ。


 ニンゲン言うところの『異常脅威度モンスター』が百五十体も集まったのだ。

 冒険者を排除する計画は中途半端に終わったが、この数があればもう問題になるまい。


 進撃を開始すれば、一日足らずで王都は壊滅する。

 あとは逃げ惑うニンゲンどもを捕らえ…… 

 あの方の前に引きずって行けばよい。


 そうすれば……再び、この世は魔族のものとなる……!


「はずだったというのに! なんなのよもう!」


 意気揚々と号令を飛ばし、王都への進撃を開始した早々。

 いきなり行く手の地面が沼になったかと思えば、さらに毒の沼地と化してしまった。

 

 それに飲み込まれたモンスターどもは全滅。

 リュドはただただ、唖然とするしかなかった。


「ワタシの完璧な計画は、全て読まれていたっていうの!?


 砦が落とされていたことにも、実は気づいていた……!?」


 石の体をぶるぶると震わせ、歯噛みするリュド。

 

「こちらの進撃ルートを完璧に先読みし、あらかじめ泥沼トラップを仕掛け……


 文字通り、一網打尽に……それほどの策士が、ニンゲンに居たと!?


 あれほどの大規模トラップを、ワタシに一切気づかれることなく設置するなんて!


 考えられない!」


 ここでようやく、リュドは沼の先にいるラルスたち三人に気づいた。 


「た、たった三人の、ちっぽけなニンゲンに……


 ワタシの計画は阻止されたっていうの!?


 そしてあいつら! 地面に食べ物を広げて、くつろいでいるじゃないの!


 ピクニック気分か!」


 リュドは怒りを込めて、背中の翼をはためかせ、空中に飛び上がった。

 そして、ラルスたちに向けて滑空を開始した。

 

「許さない! あいつらだけは……! 


 限界まで細かく切り刻んで、スライムのエサにでもしてあげる……!」




 ▽

  



「何か、空から来る!」


 その存在に真っ先に気づいたのはマルグレットだった。


 俺は地面にへたりこみ、マルグレットとベリトにかわるがわる、

 食べ物を口に運んでもらうという実に情けない状態だ。


 【毒生成】による極度の空腹状態から脱するには、あとしばらくかかる……

 

「シャッ!」


 甲高い奇声を発し、上空から突っ込んできたのは一匹のガーゴイルだった。

 モンスター図鑑によれば脅威度レベルは5。

 数値的には、マルグレットなら問題なく倒せる相手だろう……


「はあっ!」


 上から振り下ろされるガーゴイルの爪と、下から振り上げられるマルグレットの剣が交錯した。

 マルグレットが技量的に上回っているはずが、彼女は剣を逸らされ、逆にガーゴイルの爪に

 鎧を引っ掛けられて地面にゴロゴロと転がってしまった。


「か、硬いわ! 以前ガーゴイルと戦った事はあるけど……


 この個体、何か違う!」


 起き上がったマルグレットが叫んだ。幸いダメージはないようだ。

 しかし、強さの違う個体……

 前に戦ったキラービーのように、異常脅威度モンスターの影響を受けたものなのだろうか。


 だが正体はすぐ判明した。


「違って当たり前よ! ワタシはリュド! 


 オマエたちを地獄に送り届ける者の名前、恐怖と共に魂に刻みなさい!」


 上空でホバリングしながら、ガーゴイルが叫んだ。

 その目はランランと赤く光っている……魔族に乗っ取られているのだ。


 声にすさまじい怒りを感じる。という事は。

 

「リュドと言ったな、もしかして、森にモンスターたちを集めたのはお前か?」


 俺の問いに、


「黙れ! 下等なニンゲンの分際で、対等に問答が出来ると思わないで!


 ワタシの計画を潰した恨み、今から存分に晴らさせてもらうわ!


 オマエたちに許される行為は、黙ってワタシになぶり殺されることよっ!」


 とリュドは叫び返し、再び空中から突撃してきた。

 問答無用だと言っていたが、一応知りたいことは知れたな。こいつが今回の首謀者だ。


 あとはこいつを倒し、その精神を確保すれば終わりだが……


「シャアッ!」


「っく……!」


 ガーゴイルの空中からの波状攻撃に、マルグレットが押されている。

 今度の魔族はただ乗っ取るだけじゃない、その体の戦闘力を通常以上に上げる事ができるのか。


 そもそもが、異常脅威度モンスターを百五十体も集められるほどなのだ。

 以前戦った魔族とは格が違う……!


 なら、俺のすることは一つ。

 

「肉! もっと!」


 ベリトに催促し、どんどん肉を運んでもらう。もぐもぐ。

 もう少し、持ってくれ……マルグレット。


「もぐもぐもぐ……よし、少し回復した。


 マルグレット!」


 俺は手を伸ばし、マルグレットの剣にスライムスキル【溶解】を付与した。


「なっ!?」


 とたんに、マルグレットの剣がガーゴイルの右腕を切り飛ばす。

 驚いたリュドがいったん空中に引き下がった。


「こ、これは!? まるで、バターにナイフを入れるみたいに……」


 マルグレットも驚きの声を上げる。


「剣に、スライムスキルを付与した。これでマルグレットの剣は溶かしながら切り裂く、


 『溶解剣』になったんだ」


「溶解剣……魔法剣みたいなものかしら……でも、ありがたいわ! 


 剣が通じるのであれば! 翼を切り落とし、地面に這いつくばらせてあげる!」


 マルグレットが剣を両手で構え直し、上空のガーゴイルを見上げた。

 だが、ガーゴイルのリュドはくくっとくぐもった笑いを漏らし、


「やれるものなら! やってみろお!」


 再び突撃してくる。

 

「はあっ!」


 またガーゴイルとマルグレットの攻撃が交錯し――


 スパアッ、と小気味良い音とともに、ガーゴイルの片翼が空中に飛んだ。

 そして、重々しい音を立てて地面に転がる。さすがマルグレット!


 ――だが。


「フンッ!」


 片翼を失い、飛べなくなったはずのリュドが空中で一回転。

 マルグレットの背中に両足の攻撃を加え、その勢いで再び空へと舞い上がった。


「あうっ!」


 マルグレットは数メートル吹っ飛ばされ、地面にうつ伏せに倒れた。

 しかしすぐに起き上がる。その手には回復魔法の光がともっていた。


「聖騎士か。面倒な」


 片翼のガーゴイルが空中にとどまりながら、チッと舌打ちをする。

 

「なんで飛べるんだ……? 翼を失ってるのに」


 俺の疑問に、


「バカね! 普通、こんな石の体が! 石の翼で! 飛べるわけないでしょお!?」


 とリュドが吐き捨てるように答えた。

 それはそうかもしれないが、実際飛んでたじゃないか!?


「あれが、本来の『モンスタースキル』なんだよ!


 理不尽な現象を引き起こす、人間には普通使えないスキル!


 ドラゴンだって、ワイバーンだって! あの巨体を飛ばすには翼が貧弱すぎる!

 

 スキルによって、飛んでるんだ! だから、翼は飾りにすぎないんだ!」


 饒舌モードのベリトがまくしたてた。


「さ、最初に言ってよね……それ……」


「いやごめん! ボクも、実際目にするまで翼が全く関係ないとまでは


 思ってなかったんだ! モンスターの死体からは、そこまでは!」

  

 回復中のマルグレットに、手を合わせるベリト。


「本来のモンスタースキルか。なんと理不尽な」


「あなたがそれ言う!?」


 俺のつぶやきに、マルグレットが真顔で突っ込んだ。

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