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第二十四話 百五十

「……それが本当なら、とてつもなく大変な事態だけど……うーん」


 ギルド本部、ギルドマスターの部屋にて。


 俺たちは慌ただしくギルドにかけこみ、マスターの秘書を無理やり説得して

 多忙であるマスターの部屋へとなんとか入り込み、状況を説明した、のだが。


 ギルドマスター、ウルリーカの反応はあまり芳しくなかった。

 机の上に高く積まれた書類に囲まれ、うなりながら手に持ったペンをくるくる回している。


「のんきしてる場合じゃないですよ! ギルド所属の冒険者すべてに通達しないと!


 国王にも使いをやって、王都にいる軍を総動員してもらう必要もあります!」


 マルグレットがまくしたてる。

 しかし、ウルリーカはペンを回すのをやめない。


 つか、なんだその技は……ペンが指の周りを縦横無尽に動いている。

 まるでペン自身が踊っているようだ。これは、物体を自在に操れるスキルだと思われる。

 ギルドマスター、おそるべし。


「ラルスも! ボケッとしてないで、マスターを説得して!」


 どすっ、とマルグレットの肘鉄が脇腹にめりこんだ。

 物理無効だからって、だんだん容赦なく打ち込んでくるようになった気がする。

 スライムスキルを信じてもらえるようになったのは嬉しいが。


「あ、ああ。スウェイルズの報告を疑っているのかもしれないが、本当の話だ。


 なんなら、ベリトの嘘看破魔法で」


「いやまあ、君たちが嘘を言ってるなんて思ってないさ。


 あと、このペン回しはただの癖だ。のんきな気分ではいないよ」


 癖でそんなすごいスキルを使うのか……


「国王に報告する時は、どう言いつくろったものかは悩みどころだけど……


 スライムの斥候なんて話、そうそう信じてもらえないだろうしね」


 ウルリーカが肩をすくめ、ちょっと申し訳なさそうに俺の肩のスウェイルズを見る。

 スウェイルズは「国王あたま固いっス!」と小声で憤慨した。



 さすがのギルドマスターも、意思疎通が出来るスライムには驚いたようだが、


「【スライムスキル】の使い手がいるなら、伝授したスライムが居て、


 なおかつ人語を話せても良いか……」


 と、柔軟に対応してもらえたのだった。



「問題は、だ。オーガロード、トロル、キメラ……がたくさん、と言ったね?


 そういった異常脅威度モンスターに対処するには、どうあっても


 A級冒険者たちが全員揃わないと、ってことなんだよ。


 ……それでも足りるかどうか不明だけども」


 ウルリーカが立ち上がり、窓の外を見ながら渋面を作る。


「現在、王都にはA級冒険者は一人もいない。マルグレットを除いて」


「まさか、全員出払っているんですか!?」


 マルグレットが叫んだ。

 ウルリーカが振り向き、渋面のままうなずく。


「また王都周辺のあちこちで、異常脅威度モンスターの出没が報告されてね。


 ギルド所属の腕利きたちは、全員が今日の朝一番、報告された地域に向かった」

  

「なんてこと……!」


 手で口を押えるマルグレット。


「君たちの報告から考えるに、これは陽動だねえ。


 冒険者狩り……その意味するところは、モンスター退治の専門家を王都から排除すること。


 そして最終目的は、モンスターによる王都攻略。ってところか。


 その準備があんがい早く、整ったんだろうな。


 各地に異常脅威度モンスターを新たに配置して、A級を釣り上げたんだ。


 そして実際、王都ここは手薄となった」


 ギルドマスターがまた窓の外を見た。

 城下町はいつもの賑わいを見せている……迫りくる脅威がある事も知らずに。


「でも、王都にもまだまだ大勢の軍隊がいるんじゃ?」


 と俺が聞くと、ウルリーカは頭を振った。

 

「国軍はあくまで、同じ人間の軍隊を相手にすることだからね。


 モンスターへの対処は、冒険者にほぼすべてを任せている。


 対モンスター戦闘なら、国軍の兵士15人以上の働きを、


 A級冒険者なら単独でこなせるはず」 


 冒険者ってそんな戦力換算なんだ。

 逆に、他国との戦争の場合、冒険者はあまり活躍できないのかもしれないな。

 訓練の違いによるものだろう。


「なんで、ここの軍隊が異常脅威度モンスターに対抗するのはほとんど不可能。


 頼りのA級冒険者たちを呼び戻すにも、三日はかかるだろう。


 偵察スライムの話によれば、やつらの進撃はもう明日には始まるんだろ。


 いまギルドに居るB級以下の冒険者たちでは、……」


 ウルリーカが天を仰いだ。


 B級冒険者……

 マルグレットの次に強いはずだが、AとBにはそれほどの差があるということか。

 確かにマルグレットの腕前を考えれば、納得はできるかな。

 

 しかし、話が終わったのに誰も動こうとしないな?


「もう報告は終わったし、そろそろ出かけたいと思うんだが」


 思わず俺が口を開くと、他の皆が「は?」と言わんばかりにこちらを振り向いた。


「終わった、とは? 出かけたい? この状況で?」

 

 ウルリーカが眉をよせながら、じろりと俺を見た。


「冒険者手帳にあった、モンスターの情報についての報告義務とかなんとか言うのは


 一応果たされたし……後はこの件は、俺たち三人で対処しようと」 


「えっ!?」


 聞いてない、といった表情のマルグレット。

 ベリトも翠目の片目を見開いている。

 ウルリーカも意表を突かれたようだった。


「で、出来るわけないわ! 私たち三人だけでなんて!」


 マルグレットは実力は確かなのに、たまに自分の評価を妙に下げて考えることがあるな。

 モンスターは多いらしいが、ジャイアントマンティス以下の脅威度レベルなのだし、

 俺がスライムスキルで支援すれば、後はマルグレットがなんとかしてくれる。 


「す、スウェイルズさん!? その、でっかいモンスターたくさん、というのは


 具体的に何体なんですか? もしかして、スライム世界では『たくさん』というのは


 二、三体ってことだったりするの!? それなら多少、話が変わって来るのだけど!」


 マルグレットが俺の肩のスライムに話しかけた。


「えっとね、たくさんはたくさんっス!」


「そ、それじゃ分からないわ」


 俺が代わりにスウェイルズに聞いてみた。


「モンスターの一体がジャイアントボア肉ひとかけら、とするなら


 ボア何体ぶんになる?」


「うーんと、一体とはんぶんっス!」


「どういうこと?」


 首をかしげるマルグレット。


「こいつら、肉なら換算できるんだ。


 ジャイアントボアからは、スライムが食べる肉ひとかけら、百個採れる。


 つまり、ボア肉百個=ボア一体ぶん。


 そのボアが一と半分、てことはモンスターの数は」


「……百五十体!?!」


 マルグレットが目を剥いた。


「思った以上の数じゃないか……!

 

 そんな数の異常脅威度モンスターが集まるなんて、前代未聞すぎる!


 A級が全員集まっても無駄だ! 王都は半日もかからず落ちる!」


 ウルリーカの声も震えが混じったものになった。

 確かに思ったより多いが、

  

「百五十か。なんとかなりそうだな」


 スライムスキルを活用すれば、どうにかなると思える数だ。


 しかし俺の言葉に、また皆が「は?」という表情で俺を見てきた。

 ベリトも目を見開きっぱなしだ。


「大丈夫。俺たち三人なら行ける。


 策はある。【スライムスキル】を信じろ」

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