第二十一話 マルグレットの告白
連載再開します、お待たせしました。
リアルが少々忙しい状況なので、今後は『隔日更新』で最終回まで歩き切ろうと思います。
よければまったりとお付き合いください……
地下ベリト宅にて、ささやかな祝宴が催されたあと。
交代で風呂をいただき(地下にそんなものまであるのは驚きだった)、夜も更けたので
皆で寝ることとなった。
「とっ……年頃の男女が、ひ、一つ部屋で寝るというのは!
倫理的に、い、いかがなものでしょうかっ!?」
三組用意されたリネンの寝床を前に、顔を赤らめたマルグレットが
妙にうわずった声で主張したが、
「……他に部屋ない。モンスター冷凍貯蔵庫で寝る?」
と言うベリトに対し反論できず、マルグレットも大人しくなった。
しかし、両手を揉み合わせながら、チラチラとこちらを横目で何度も見てくる。
そういえば俺は、人間同士で一緒に寝るなんて初めてだ。
それに何の問題があるのか、詳しくマルグレットに聞こうとしたが、
「わ、私に聞かないでっ!」
と突っぱねられた。
問題があるように主張したのは、マルグレットなのに……
ベリトは当初、俺を中心にして両隣りに女性陣、という配置にしたかったようだが、
マルグレットが硬に反対し、最終的には部屋の左からベリト・マルグレット・そして俺、
という配置で寝る事になった。
「しかし、この寝間着、ふわふわで肌触りがやたら良いな」
ベリトに用意された『夜寝る用の服』を見下ろす。
人間の世界にそんな概念があった事にも驚きだが、この着心地も初めての感覚だった。
「モンスターの体毛や毛皮、たてがみなどを素材にして作ったという話ね」
マルグレットが、感心したようにベリトを見ながら教えてくれた。
「妙な研究をしてるわりに、料理は出来るし、服作りまで……
なにげに女子力高いのよね、この子……」
「俺も、故郷では自炊したり着るものを作ってたりしてたな」
俺が魔女の森を思い起こしながらつぶやくと、
「えっ!?」
なぜかマルグレットが目を剥いた。
「ラ、ラルス、あなたも、出来るというの!?」
「基本じゃないか?」
俺は首を傾げた。
森では自給自足が当たり前だ。
日々の食糧は狩りで、着るものは綿毛が取れる花や、草を利用して作る。
「料理のレシピ、裁縫のやり方、いろいろとスヴェンじいちゃんに習ったものだ」
昔を思い出し、ほっこりと懐かしい気分になる。
だがマルグレットは対照的に、青ざめて悲壮感あふれる表情になってきた。
「……どうしたんだ? 気分でも」
「わ……私はどうせ、剣にのみ生きる女ですよっ!」
ぷいとそっぽを向かれてしまった。
不機嫌になったのは意味不明だが、剣にのみ生きる……か。
さすがA級冒険者。その生き様、気高いものを感じるな。
ますます、彼女に対する尊敬の念が高まる。
と、ここでいきなり部屋がふっと暗くなった。
「!?」
思わず身構えたが、ベリトが天井につるされていたカンテラの火を落としたようだった。
しかし完全な暗闇ではなく、壁に埋め込まれた小さなカンテラが間接照明となって
うすぼんやりとした光で部屋の中は満たされていた。
「……寝るか」
ベリトがこくりとうなずく。
「そ、そうねっ!?
ラルス、寝たらそこから一歩も動かないでくださいね!?
し、信じてるけど! ね、念のためねっ!?」
マルグレットがまたうわずった声を上げる。
普通、寝たら一歩も動かないとは思うが……
荒々しい寝返りをうつとでも思われてるのだろうか?
ともかく俺たちは寝床に横になり、一切の音が聞こえない地下の一室で、目を閉じた……
「……ね、寝ました? ラルス?」
「いや、起きてる」
ベリトもぽすぽすと毛布を叩いて、起きていることを主張する。
天井の灯りが消えてから一時間ほど。
俺たちは寝付けないでいた。
理由は一つ。
マルグレットが異様な緊張感をみなぎらせているからだ。
そのピリピリとした感覚が、どうにも俺たちの寝つきを悪くさせていた。
そして、時々寝たかどうかを聞いてくるのだ。
これでは寝れない……
「なあ、マルグレット。いったい、なにを緊張しているんだ」
「べ、べつにっ!?」
なぜか回答を避けたがるし、どうしたものか。
仕方ない、緊張を紛らわせるために、軽く話でもしてみるか?
なにか、話題。マルグレットに聞きたいこと。なにかないか……
そうだ。
村で、魔族が言っていた言葉。
「親子二代で、俺らにお世話に……」
あの時は聞きそびれたが、マルグレットには魔族との何らかの関わりがあるのか。
いま聞くような内容の話じゃない気もしたが、思わず俺は聞いてしまっていた。
「なあ、マルグレット」
「はひっ!?」
「村で、魔族……ウリヤーンが言ってたよな。
親子二代で、って。あれって、どういう意味なんだ?」
「……それは」
マルグレットのみなぎる緊張感は霧散したが、代わりに別種の、
悲しみのような、悔悟のような気持ちが伝わって来たように思えた。
「いや、すまない。聞くべき話ではなかったみたいだ。
寝よう」
「……いいえ。いずれ、話そうとは思ってたわ。
今後も魔族との戦いがあるのであれば……いつまでも黙っているのも不義理というもの。
パーティの中に、魔族の関係者がいるのか、なんて疑惑があったままじゃ、
一緒に戦いにくいでしょうしね」
「いや、そんな疑いを持ったわけじゃないんだけど……」
マルグレットはむくりと身を起こす。
俺とベリトも同じようにした。
間接照明の光の中で見るマルグレットの横顔。
その目はふせられ、何かに耐えているようだった。
しばらくのち、ようやくマルグレットの口が開いた。
「以前、王都に魔族が侵入することが相次いだ、という話をしましたね。
実は、その魔族を招き入れたのは……私の、父なのです」
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