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第十九話 クエスト達成、ウルリーカの突き

「うーむ。しかしまさか、たった一日で解決して戻って来るとは……


 その上、とんでもない土産を持ってきてくれたものだ」


 その日の夕方、冒険者ギルド――ウルリーカの部屋にて。

 ギルドマスターの前に並んだ俺、マルグレット、ベリトを、ウルリーカが順番に眺める。

 その目は、驚きと称賛が入り混じった色をしていた。



 ――俺たちは廃村にてクリストフェル一行を救出、無事に王都へ連れ帰ることが出来た。

 そしてついでに『魔族の凍結サンプル』をギルドマスターに提出。

 

 驚いたギルドマスターは俺たちを部屋に呼び、マルグレットからの子細な報告を受けたところだ。



「ちょっと情報量が多くて、頭が追い付かないねえ……


 複数の魔族の暗躍、冒険者狩り、【スライムスキル】による精神の凍結……


 特に最後が、初めての概念過ぎてどう理解したものか」


 右手の先端を額にあて、天を仰ぐしぐさをするウルリーカ・ハルストレム。


 この人が、冒険者ギルドを取り仕切る元締め、ギルドマスターか。

 女の人とは思わなかったな。


「きみがラルス君か。初めましての挨拶は省略させてもらうよ。


 【スライムスキル】……モンスタースキルの使い手というのは、本当なのかい」


 俺は黙ってうなずいた。


「マルグレットの報告によれば、サイクロプスの殴打にも耐え、


 剣で真っ二つになっても元に戻り、その上魔族の精神をスライム化したというが。


 全て、本当のことなんだね?」


「そのとおりだ」


 ウルリーカはちらりとベリトを見る。

 ベリトは黙って首を振った。

 

 たぶん、『嘘看破』魔法を使ってチェックされたのだろう。

 なかなか信じてもらえないのは身に染みたので、逆にこれで真実を証明できると思おう。


「なるほどねえ。てことはきみは、人類初のモンスタースキルの使い手となるわけか。


 興味深い。ああ、実に興味深い」


 上から下まで、遠慮のない視線を送られた。

 そして、

 

「試してみても良いかな?」


 と言ってきたので、承諾すると、マルグレットが「えっ……」と一声もらした。

 そして俺に耳打ちしてくる。


「彼女……ウルリーカは元A冒険者、それも格闘技を極めた拳聖よ。


 掌底で、鋼の鎧に手の形の痕を残せるくらいの使い手。……大丈夫なの?」 

 

「心配ない。物理攻撃が効かないのは、マルグレットも見てきただろ」


「そうだけど……はた目には、ダメージを受けてるようにしか見えないのよ」


 なかなかに心配性な聖騎士さんだな。

 俺は彼女の肩をぽんぽんと叩いて、ウルリーカに振り返った。


「どうぞ」


「では遠慮なく。……フッ!」


 気づいた時にはもう、俺の腹に正拳突きが打ち込まれていた。

 何という速度。全く見えなかった。

 

「……今の一撃で、きみをギルドの外まで吹っ飛ばすつもりだったんだけど。


 微動だにせず、顔色一つ変えず、か。すごいものだ」


 ぺたぺたと俺の体に触れてくるウルリーカ。

 マルグレットが「なっ!?」とか叫んだが、別に変な事はされてないから大丈夫だ。


 一応、正拳を打ち込まれた時、体は『く』の字に折れ曲がりはした。

 しかし【粘着】により俺の足は床に固定され、【物理無効】で拳は意味をなさない。


「すごいのは、俺にそのスキルを教えてくれた、スライムたちだ」


「スライムたち……モンスターの彼らから習ったというのか……」

 

 またウルリーカがちらりとベリトを見る。

 ベリトの猫耳が揺れ、「ふむ」とあごを撫でるギルドマスター。


「ますます興味深い。世の中にこんな人間がいるとはな。


 今夜一晩かかってもいいから、その全てをじっくりと聞かせてほしいくらいだな」


 両手で俺の頬を挟み込み、じっと目を見つめて来た。


「俺はかまわないけど……いや、望むところだ」


 とたんにマルグレットが俺たちの間に入り、


「ち、近いですよ!」


 と叫んだ。なんだか顔が赤い。


「あっはっは。別に横取りなんてしないから安心しな」


「そういう意味ではありませんっ!」


 ウルリーカとマルグレットのやり取りは良く分からないが、とりあえず

 ギルドマスターには【スライムスキル】のことを信じてもらえたようだ。


 これは、かなりの前進と言えるんじゃないか?


「それじゃあ、スライムスキルについての詳細は後日の楽しみってことで。


 わたしからの特別依頼クエスト、達成おめでとう。そしてお疲れ。


 そろそろ日も落ちる、今日は休んでくれ。報酬なども後日」





「……ふう、ちょっと緊張したけど、ギルドマスターは良い人だったな。


 今夜一晩、付き合っても全然良かった」


 ギルド本部を出て、王都の並木道を三人で歩きながら、俺は伸びをする。


「えっ……あ、あなたまさか、本当に彼女と一晩、


 二人きりで過ごすつもり……!?」


 マルグレットがやや動揺したようにつっかかってきた。


「問題ない。スライムスキルを世に知らしめるためなら、徹夜で語る事だって」


 俺の言葉にガクリとつんのめるマルグレット。

 しかし顔を上げると、そこには安堵の表情が浮かんでいた。


「それならまあ……ごほん。ともかく、二人ともお疲れ様。

 

 こんなにすぐクエスト達成できるとは思ってなかったけど……


 今日はもう、マスターの言う通り休みましょう。


 ベリトは家に帰るわよね。あたしたちは、」


 マルグレットが俺に顔を向けたところで、ベリトが俺の手を掴むと、

 どこかへ向かって歩き出した。


「ちょ、ちょっと!?」


「……? どこへ連れていくんだ?」


 俺がベリトに声をかけると、


「……家……」


 と、ぼそり。

 ベリトの家に、俺を連れていくつもりなのか。

 

「ああ! そういえば、廃村に行く途中で言ってたな。


 いつでも一緒に居よう、って。お邪魔して良いのか?」


 こくり、とうなずくベリト。


「なっ!?」


 とつぜんマルグレットが裏返った声を上げる。

 なんだなんだ……何事だ。


「ちょ、ベリト! あなた、一人暮らしでしょう!?


 年頃の男女が、ふ、二人きり、だなんて! 危ないです!」


「……危ない? 二人きりだと、何か危険があるのか?」


 マルグレットが妙に慌てているのが気になり、たずねてみる。

 ベリトは確かに俺の体を調べたい、とか言ってたけど。

 さすがに危険、とまでは行かないと思うが。


「そ、それはその……あのですね……」


 しかし、マルグレットはあらぬ方向を見ながら、人差し指をつつき合わせるだけで、

 回答がなかなか帰ってこない。その様子を見たベリトが、


「……」


 無言でマルグレットを見上げ、ニヤリと笑った。

「なっ……」とまた、マルグレットの裏返り声。


 そして、ベリトは再び俺の手を強く、引っ張ってくる。


「ベリトも問題なさそうだし、何も危険な事はないよ。


 今日から、俺は彼女の家で寝泊まりすることになりそうだ。


 おやすみ、マルグレッ……」


「ああもう! 行きます! 私も、ベリトの家に!」

 読んでいただきありがとうございます。


 面白かった、続きが読みたい、などと思われましたら、


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 作品作りの参考にもなりますので…… 


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