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第十七話 魔族、掴まれる

 とつぜん激昂したマルグレットに、俺は少し驚いた。


 魔族の「親子二代で……」とかいう言葉に反応したようだが。

 親子か。俺とはまた違う、事情かなにか、あるのかな……


 剣を突き付けられたメルタは、相変わらずニヤニヤ笑いを顔に張り付けている。


「おお怖。で、斬るか? 前みたいに。


 あの時、俺らが使った体は、死刑囚だったらしいな。


 だからおまえも容赦はなかった。だが……この体は、どうかな?」


 メルタが一歩、マルグレットに向かって踏み出す。

 同時にマルグレットは一歩下がった。


「だろうなあ。斬れないよなあ。


 しかし、おまえもなかなかの腕前と見たね。


 次に乗っ取るのはおまえにするか、それとも」


 ここでメルタが俺のほうを向き、


「ぶった斬られても死なねえ、気味の悪いおまえにするか……


 本当にニンゲンなのか? おまえは」


 その問いかけに俺は肩をすくめて、


「どこからどう見ても、普通の人間だろ。


 名前はラルス。C級冒険者だ」


 と答える。


「名前以外は嘘くさすぎる。不死身のような体、勇者を一撃で気絶させた戦闘力……


 どう考えても、ここに居るニンゲン6人の中で一番強ええ」


「魔族とかの洞察力も頼りないな。一番強いのは、マルグレットだ。


 技も、心も。俺なんかじゃ、まるでかなわない領域にいる」 


 俺の言葉に、マルグレットの伸ばした剣先がぴくりと揺れた。


「ああもう、うるせえ。俺は俺の判断しか信じねえよ。


 今後のためもある。戦闘力のない二人が残ってどうしようかと思ったが……


 やはり、次にいただくのはおまえの体にするよ!」


 そう叫んだメルタの体から、赤いモヤが立ち昇った。

 同時に、メルタの体が床にくずおれる。


 そのモヤは、ぼんやりとした人のようなシルエットに見えた。

 

「あれが魔族の本体よ! 彼らは決まった体を持たない、精神生命体なの!」


 マルグレットが叫ぶなり、赤いモヤめがけ横薙ぎに剣をふるった。

 だが、剣が通り過ぎたところに一瞬空間が出来るだけで、何の効果もないようだった。


「ははは! 俺らにニンゲンの武器は効果ねえよ! 


 乗っ取った体を斬られたなら、その体の死に引っ張られて終わりだがな!


 この状態なら、俺らは無敵さ!」


 モヤがゆらゆらと揺れる。


「そんな……この剣には、退魔の祝福魔法もかかっているのに……」


 マルグレットが歯噛みした。

 魔族の本体は、俺と同じで物理的攻撃は無駄、ってことか。


 つまり俺の【溶解】剣でも斬れない。 

 

「では、いただくとする、おまえの体……!」


 赤いモヤが俺に向かって飛んできた。


「ああっ……! 逃げて!」


「……!!」


 マルグレットが悲鳴を上げ、ベリトが体をこわばらせる。


 大丈夫だ、問題ない。物理が効かないなら、こうだ。

 俺は向かってきたモヤに向かって、右手を振り、


 モヤをひっつかんだ。


「は、はああっ!?」


「えっ!?」


「……!?」


 魔族モヤと、マルグレット、ベリトの驚きの声と反応が重なった。


 俺の手には、グネグネ動く赤い液状の固まりが掴まれている。


「これもまた、スライムスキルの【水と成る】だ。


 自分自身を水と化すことが出来るし、触ったモノも水に出来る。


 つまり、魔族の精神を『水にした』」


「な、なんだとお……!? 精神を物質化したとでもいうのか?


 そんな、バカな……!!」


 俺の手の中で、赤いグネグネが喚き声をあげた。


「掴めるように、スライム質の水だけどな。


 で、どうする? こいつの処遇」


 マルグレットとベリトを振り向くと、二人は顔を見合わせて、

 ただただ、しばらく困った顔をするのみだった。





「は、離せ! 離せえ!!」


「本当に、赤いスライムみたいなのが喋ってる……


 これがさっきの魔族なのね……


 と、とんでもない事が出来るのね、ラルス……」 

 

「……!」


 マルグレットは口に手を当てながら、俺の手の中のグネグネ魔族をまじまじと見つめ、

 ベリトはぴょんぴょん跳ねて、賞賛のまなざしを向けてくる。 


「スライムはもっと可愛いぞ」


 俺の指摘に、マルグレットがため息をついた。

 そして、


「これは魔族を捕虜にした、と言って良いのかしら……?


 なら、色々と情報を引き出したいところだけど」


 と腕を組む。


「けっ! おまえらニンゲンなんかに話す事はねえよ!


 いいから黙って解放しろ!」


 赤グネが身をよじるが、俺の手からは逃れられない。


「何も話してくれそうにないが」

 

「なら、ギルド本部に持ち帰るしかないかもね。


 貴重な、魔族の生きたサンプルだし……」


「しかし、俺の手を離れたら、また元のモヤに戻るぞ。


 今こんな状態なのも、俺がスキルを使っているからだ」


 スキルを使うにも、一定の魔力が必要だ。


 さすがに、この状態を無限に保持することは出来ない。 

 おそらくギルド本部に戻るまでに、俺の魔力は尽きるだろう。

 そうなれば……


「今のうちに、この魔族をどうにかする必要があるのね」


「だが情報は引き出せそうにないな。処分するなら、燃やすしか」


 俺の手の中の赤グネが、ぴくりと反応した。


「も、燃やす? こ、これ、精神なのよね?


 それが水になった状態、なのよね?」


「正確には、火で蒸発させる、かな。


 魔族の精神を水にしたのは初めてなので、それで死ぬのか分からないけど」


「精神が物理的に燃やされる……いったい、どんな感覚になるのかしら」

 

 マルグレットがおとがいに指を当て、うーんとうなる。

 

「分からない。生きたまま、体が少しずつ蒸発するようなものかな……」


 俺たちが言葉をかわしていると、赤グネがぷるぷる震えだした。

 まだ、逃げる機会を伺っているのか。

 そして【水と成る】、結構魔力の消費が激しい。


「早めに、火を焚く用意をした方が良さそうだぞ。 


 もしくはベリト、炎系魔法を使えたりはしないか?」


 ベリトを振り向くと、猫耳が左右に揺れた。無理らしい。

 だが何か、主張したそうな目をしている。


 なんだろう、と思ったところでマルグレットが決断を下す発言をした。


「分かりました。この魔族は処分しましょう。


 情報も引き出せず、ラルスの魔力が尽きれば、また自由になるのなら仕方ありません。


 私、燃やせるものを探してくるわ」


「よし。こいつを端からじりじりとあぶって、消滅させよう」


「わわわ、わかった! わかったよ!


 喋る! 何でも聞いてくれ!


 生きたまま火あぶりは嫌だーっ!!」


 突然、魔族が屈服した。

 手の中でじたばた暴れ、ぎゃーぎゃー叫んでいる。


 魔族と言えど、精神を燃やされると苦しいらしい。

 これで、情報が引き出せそうだ……

 読んでいただきありがとうございます。


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