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第十六話 水になる

「きゃあああああ!!」


「あうっ……!!」


 背後でマルグレットとベリトが悲鳴を上げるのが聞こえた。

 いかん、後ろからも敵が来ているのか!


 であれば、俺をぶった斬った目の前の敵を、早くなんとかしなければ。

 さいわい敵は剣を振りおろした後、その場を動いていない。


 俺は足を広げて踏ん張り、左右に倒れかけた体を支えながら

 切断面を引っ付ける。ぴたりと合わさり、体はこれで元通りだ。


「……!?」


 顔を上げた敵の顔に、驚愕の色がうかんだ。

 敵は普通の人間の男で、それも冒険者のようだ……

 銀の鎧カブト、長剣を帯びている。

 

 剣を使う訳にはいかないようだ。なら、久々に体術で対応しよう。

 俺は思い切り右足を踏み込み、右の掌底を相手の胸に打ち込んだ。


「げはっ……!」


 敵の体が数メートルほども吹っ飛び、仰向けになったまま動かなくなった。

 衝撃が、鎧を通して相手の体に伝わったのだ。 


「マルグレット! ベリト! ……?」


 敵を無力化したのを確認した俺は、すばやく振り返り、

 二人を襲っているはずの新手に向き合った……

 のだが。


 二人はぼんやりと突っ立っているだけで、周囲には他に誰もいなかった。


「なんだ? 敵に襲われてたんじゃないのか?」


「あ、あなた、無事なの!? き、斬られたように見えたけど……」


「……!!」


 マルグレットが目を白黒させながら言い、ベリトもうんうんと頷いている。


「ああ、斬られたけども……すぐに引っ付けたから大丈夫だ」


「!??!? い、一体、何を言っているの!?」


「……!!」


「だから、これも【スライムスキル】だって。物理無効だから、斬られても平気だ」


 マルグレットがわたわたと腕を振りながら駆け寄って来た。

 俺の体をぺたぺたと触り、納得がいかないような顔をしている。


「そ、そんな事が! 人間に出来るの!?


 そして、何故元通りに治るの!? あなた、回復魔法は使えないじゃない!」


「出来てるんだから仕方がない。


 そして、元通りになったのは、スライムスキルの一つ、【水と成る】さ」


「水と……成る……」


「むかし、スライムスキルを会得しようと色々試行錯誤したんだけど、


 上手く行かなくて。その時、とある本にあった言葉が助けになってね」


 俺は魔女の小屋の本棚で見つけた、その本の言葉を思い出しながら言った。


「『心を空にしろ。人の体がどうとか、常識にとらわれるな。


 水は自由だ。ポットに入れればポットの形になり、コップに注げばコップの形になる。


 流れる事も出来るし、激しく打つことも出来る。


 二つの水滴は一つにもなれるし、また二つにもなれる。


 水だ。水になるのだ』……ってね」


「……!!」


 ベリトがふんふん、と激しくうなづきながらメモをとりだした。

 彼女にも感銘をあたえたようだ。


「そして『水になる』ことを意識するようになって、ようやく、

 

 全てのスライムスキルが使えるようになった……


 凄いだろう、スライムというものは。俺は絶対、最弱種とは思えないんだよな」


 マルグレットは相変わらず、驚きと困惑が混ざった表情だ。

 なかなか、納得はしてもらえないらしい。


 俺、そんなにおかしな事を言ってるんだろうか……


「だ、だから、あなたは水になって、斬られても、くっつけば元に……?」


「体が真っ二つになって離れ離れになると、人の手を借りなきゃだけど、


 さっきは自力で元通りになれた。相手が手練れだったのもあるな。


 ものすごい剣技の冴えだよ。綺麗に斬ってくれたおかげで、


 切断面がすぐにくっついて、再生も手早く出来た」  


「な、な……」


「……!」


 マルグレットが二の口を告げられないでいる。

 ベリトは口をぱくぱくさせており、それは

「スライムスキル! すごい!」と動かしているようだった。


「まあ、そんなわけだから、俺は全然平気だ。


 他に敵がいないようなら、襲ってきたやつを調べよう。


 あの剣技、たぶん、あれだ。村のトロルを全滅させた……


 なんとかいう誰かだ」


「クリストフェル」

 

 はあ、とため息を一つついた後、マルグレットは仰向けに倒れている敵の所へ

 歩み寄った。


「その通りだったわ。彼よ。勇者クリストフェル。


 なんで襲ってきたのかしら……」


「という事は、残り二人も近くに居るという事じゃないか?


 こちらを今も、うかがって、襲う算段をつけているんじゃないか?」

 

 俺は教会内をぐるっと、天井も含めて見回した。

 ベリトがとてとてと小走りで寄って来て、俺にしがみつく。


「付与術師と賢者はあくまで勇者のサポート専門、脅威にはならないと思うけど……

 

 ベリト、二人の気配はどこ?」


「ここだ」


 とつぜん野太い男の声が響き渡った。

 当然、ベリトのものではない。


 教会に設置してある神の像のうしろから、女が一人、姿を現した。

 その女は、肩に一人の男を担いでいる。


「賢者、メルタ……!」


 マルグレットがささやくような声を上げる。

 

 どうやら、行方不明になったA級パーティのメンバーらしい。

 銀髪の女――賢者メルタはニヤリと笑って、肩に担いでいた男を

 ぞんざいに床に投げ捨てた。


「付与術師、アラン……」


 床で意識を失っている黒髪の男が、メンバー最後の一人のようだ。

 しかしずいぶんとごつい体つきだが、よくメルタという人は軽々と担げるな……


「一人ひとり、確実に仕留めようと思ったのだがな。


 まさか斬られて平気なニンゲンが居るとは……とんだ計算違いだ」


 メルタの口から出てくる言葉は、確実に男のものだ。

 その目はランランと赤く光り……


「……魔族ね。あなた。メルタを乗っ取り、クリストフェルを操った」


「外れだなあ。乗っ取ったのは、全員だ」


 マルグレットの指摘に、メルタが人差し指を振りながら答えた。

 魔族……王都に侵入を繰り返したというやつらか。

 人を乗っ取れる能力があるらしい。


「最初に乗っ取ったのは、勇者とかいう奴だ。


 そして残り二人を無力化し、一人ひとりその体に入ってみた」


「何のために!?」


「おっと、ここまでだ。これ以上何も言う事はないね」


 ここでメルタは大きく腕を広げ、


「で、どうする。魔族と分かったなら、俺を斬るかい?


 この体も同時に死ぬが……」


「くっ」


 マルグレットが歯を食いしばる。

 その様子をメルタがニヤニヤ笑いと共に眺め、

 

「誰かと思えば、あんたじゃないか。


 いつぞや、王都にて、俺の仲間を全滅させた」


 なんと。以前聞いた、魔族が王都に入り込む事件が続いたって話。

 排除したのは、マルグレットだったのか。


「なんか、親子二代で俺らがお世話になってるみたいだなあ。


 もっとも、子は俺らの敵、親の方は俺らの味方を……」


「黙れっっ!!」


 マルグレットが聞いた事のないような声で吠えたと思ったら、

 いきなり抜剣、切っ先をメルタの鼻先に突きつけた。

 読んでいただきありがとうございます。


 面白かった、続きが読みたい、などと思われましたら、


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 ☆一つからでも、正直な評価をよろしくお願いいたします。


 作品作りの参考にもなりますので…… 


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