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第十五話 廃村の探索

「……」


 朝から王都を出て、そろそろ昼時になる。

 一度モンスターの襲撃があった後は、特に何も起こらず、静かだ。


「……」


 ベリトはあれから一言もしゃべらない。

 俺の腕を取ったまま、最初に出会った時以上に無口モードだ。

 最後に言った一言は、


「……三日分喋った……」


 だった。

 どうも、喋ることの出来る量が決まってるかのようだ。


「……」


 俺らの後ろからついてくるマルグレットも、全く口を開かない。


 そして彼女の圧はまだ消えない。


 むう……

 よっぽど、先の戦闘――蜂との戦い方に不満があったのかもしれない。

 逐一、俺の様子は見られていたようだしな。


 さすがにA級、厳しい姿勢だ。 

 向かう廃村でなんとか、活躍して取り戻そう。

 


 ▽



「……」


 マルグレットは、前を歩くラルスの背中を見つめる。


(分かっているけど、怪しいそぶりは全く見られない……


 キラービーの不可解な攻撃から、ベリトを守ったのも事実。


 その後の騒ぎで、追及するのを忘れちゃってたけど、


 どうやって防いだのかしら。あれが【スライムスキル】……なの?)


 剣で跳ね返したわけではない。

 手で、としか見えなかった。


(そして金属音と共に針は弾かれた……どういうことなのかしら。


 スライムのスキルなら、【溶解】くらいしか聞いた事ないけど。


 それとは違う、別のスキルが存在するのかしら。


 詳しく聞かなければ、と思うのだけど)


 視線がラルスと腕を組んでいるベリトに向かう。


(スライムスキルの話、彼女に先手を取られてしまった……


 同じ目的で、私も一緒に居る、と言えなかった……


 どうしてあの時、消極的になってしまったのかしら。


 おかげで、ラルスはベリトとあんな……ああもう、モヤモヤする!)


 怒りやら戸惑いやらが入り混じった気持ちを、ラルスの背中に目線で飛ばす。

 その『圧』自体は、ラルスにちゃんと届いてはいたのだった。

 


 ▽



「おっ」


 小高い丘を登ったところで、見下ろす先に目的地が見えた。


「あれが、依頼にあった廃村? ってやつか」


「……そうね」


 隣に立ったマルグレットがうなずく。

 遠く見えるのは、石造りと木造が入り混じった、家々の……廃墟だった。


「トロルに襲われて、村は壊滅したわ。


 逃げ延びた人の依頼で、先日A級パーティが派遣されたんだけど……」


 その後、パーティは戻ってこなかった。

 トロルに逆にやられたのか、それとも。


 俺たちは用心深く、丘を降りて村へと向かった。




「……これで、計六匹か」


 俺たちが廃村で見たのは、トロルの死体だった。

 六匹全部、見事に胴から真っ二つ。

 恐るべき剣の冴えで倒されている。


「この切れ味。間違いなく、派遣されたA級パーティのリーダー……


 勇者、クリストフェルの剣技によるものだわ」


 マルグレットがトロルの死体を調べて、そう言った。


「全部、そのクリストなんとかの一人が倒した、っていうのか?


 凄いな。トロルって確か、脅威度レベル6だろう?」


 A級のマルグレットが苦戦していた、あのマンティスより一つ上。

 それを、一人でとか……世の中、上には上がいるものだ。


「クリストフェルのパーティは、全ての戦力をリーダーにつぎ込む戦術なのよ。


 彼らのパーティは三人構成。付与術師が勇者の力を限界まで底上げし、


 賢者が弱体魔法を敵にかけたところで、勇者が突撃。残った二人は隠ぺい魔法で


 戦場から少し離れたところに隠れて、適時、支援魔法や回復魔法を勇者にかけていく……


 そういうスタイルね」


 マルグレットの説明に、俺はなるほどとうなづいた。


 アタッカーが一人にサポーター二人。

 それなら全く同じ攻撃痕なのも納得だ。


「……しかし、その後のクリスなんとか達は、どこへ?」


「そうなのよね。討伐依頼はトロル六匹。全滅させたなら、


 そのまま戻るはずなんだけど……」


「行方不明、か」


「探しましょう。それほど広い村ではないはず。

 

 怪しいものは感知されてないのよね、ベリト?」


 マルグレットが振り向いてベリトに尋ねる。

 猫耳がふるふると左右にゆれた。相変わらず言葉を発しないモードだ。


 いつの間にか、周囲には霧が少しづつ立ち込め始めていた。

 壊れた建物が白くもやっていくにつれ、廃墟の不気味さ具合が高まる印象だ。


 俺の腕にしがみついているベリトが、さらに体を寄せて来た。


「むうん……」


 マルグレットが妙なうなり声を上げたが、ぷいと顔をそむけ、

「行くわよ」と先頭にたって歩きはじめる。



 ――とりあえず村を一周したが、怪しいものは見当たらなかった。


 ベリトの探知魔法は、遠くからでは建物の中まで通らないため、

 一軒一軒、近づいて発動してもらったのだが、人っ子一人いないようだった。



 ますます霧は深くなり、視界がかなり狭められてきている。


「居ないな。クリなんとか達」


「名前がどんどん不明瞭になって来てるわね……


 ともかく、これでほぼ全部の建物は調べつくした。


 残るは」


 マルグレットが振り返った先。

 村の北端にある、教会……この場所で一番大きな建物だ。


 霧のせいで、神聖な場所なはずが邪悪な雰囲気すら感じられるその場所へと

 俺たちは向かった。 


「……中はどう?」


 正面扉の前に立ち、マルグレットがベリトに尋ねる。

 ベリトは三本、指を立てた。


「モンスター?」


 ふるふる。


 じゃあ、人か。

 三人、てことは。


「居るのか、……なんとか達が」


「ついに全消えしちゃった……でも、怪しいわね。


 生きてるなら、戻って報告する義務があるはず。


 それをせず、誰も居ない村に留まってるということは」


 何かに捕まっているか、何らかの意図があるのか。

 どっちにしろ、あまり良くない予感がする。


「……開けるぞ。ベリトは離れて」


 俺が扉に手をかける。

 名残惜しそうにベリトが腕を離し、マルグレットの隣に引っ込んだ。


「気を付けて」


 マルグレットがささやいた。


「大丈夫。【物理無効】がある」  


 という俺の言葉にマルグレットは眉をひそめ、ベリトの瞳が輝いた。

 マルグレットは、どうもまだ信じてない様子だ。


 ふっと一息つき、俺は慎重に正面扉を押し開き始めた。

 

 ギギギ……と軋んだ音が思ったより大きく響く。

 その音に反応して誰かが出てくる様子はない。


 そっと入ると、二組の長椅子が奥まで並び、奥の壁のステンドグラス、

 その前に立つ何らかの神の像らしきものが目に入った。


「おお、これが教会……不思議な雰囲気だな……」


 思わず、興味が先に立って少し足早に踏み込んでしまう。


「上!」


 マルグレットの叫び声。


 俺が見上げた時には遅かった。

 教会の天井から降って来た何者かの剣が、俺を頭から股下まで、

 すっぱりと真っ二つに斬り裂いた。

 読んでいただきありがとうございます。


 面白かった、続きが読みたい、などと思われましたら、


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 ☆一つからでも、正直な評価をよろしくお願いいたします。


 作品作りの参考にもなりますので…… 


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