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第十四話 ベリトの豹変

「はあっ!」


 戦闘の火ぶたを切ったのは、マルグレットだ。


 踏み込み突きが、一匹のキラービーを貫く。

 ジグザグ機動で襲い来る巨大蜂の進路を先読みし、適確に剣を繰り出したのだ。


 さすがにA級、素晴らしい冴えである。


「うおっ、と……!」


 俺は今のところ防戦一方だ。

 何度も針に刺され、毒を注入されてしまった。

 だが、俺に毒は効かない。注入される都度、解毒すればいいのだ。

 

「大丈夫!? いま、刺されたんじゃない!?」


「問題ない!」


 マルグレットが戦闘中にもかかわらず、こちらを気にしてくる。

 さすがのA級、余裕がある。つくづく腕の差を痛感するところだ。


 俺は基本的にすべてのモンスターとは初遭遇なので、まずは動きを見る事に徹する。


 キラービーは三匹ずつに分かれ、俺とマルグレットに波状攻撃を仕掛けてきている。

 マルグレットが二匹仕留めたあたりでようやく、俺も動きに慣れてきた。


「そこ!」

 

 二匹が並ぶ瞬間を先読みし、剣を一文字に薙ぐ。

 キラービーたちは胴を真っ二つにされ、どさっと地面に転がった。


 こちらに突撃してきた巨大蜂を返す刀で斬り上げると同時に、

 マルグレットも最後の一匹を仕留めた。


「ふう……お疲れ様。何度か刺されたように見えたけど、本当に大丈夫?」


「ああ。森のスライムたちの中には、様々な毒を持つ種もいた。


 彼らは自分の毒に耐性を持っている。それから学び、【解毒】のスキルを得た」


「ええっ!? じ、自力で解毒してしまうの!?


 ジャイアント・キラービーの毒を!?」


 目を白黒させるマルグレット。

 

「キラービーの毒と同じスタン系の毒を、スライムが持っていたからね」


 マルグレットはぱくぱくと、二の口が継げない様子だ。

 



「……もういい?」


 うつむいたままのベリトがぼそりと一言。


「え、ええ。……大丈夫よ。全滅させたわ」

 

 マルグレットが周囲のキラービーたちの死体を確認してまわり、ベリトの肩を軽く叩いた。


「……あい」


 立ち上がり、ぱっぱっと服についた草をはらう。

 俺も一息ついて、剣を鞘におさめる……


 と、その瞬間。

 死んだはずのキラービーの一匹が、半分になった胴体の下半身だけ動かし、

 尻尾の針を射出したのだ。


 針が飛ぶ先は――ベリト!


「危ない!」


 俺はベリトの前に手をかざす。


 ガキン!!


 危ういところで針は弾かれ、ごろんと草むらに転がった。

 手のひらに【硬質メタル化】、間に合って良かった……


 針と言えど、大きさは馬上槍ほどもある。

 ベリトほど小柄だと、毒の有無に関係なく即死しかねない。


「……え?」

 

 事に気づいたベリトの表情が固まった。

 マルグレットも、


「そんな……!? 私は確認したわ!


 確実に全部、死んでいたはずよ!?」


 と、顔を青ざめさせて叫ぶ。

 確かに、キラービーは死に際に一撃を放つ、なんてことは図鑑にも載っていなかった。


 ふたたびキラービーの死体を全部念入りに調べるが、特に異常は見られない。


「異常脅威度モンスターの発生だけじゃなく、モンスター自体の生態にもなにか、


 変調が現れてるのかしら……そうとしか思えない……!」


 深刻な顔のマルグレット。

 なにやら暗雲立ち込める展開が待ってそうな、そんな雰囲気になってきた。

 

 俺も腕を組んで、キラービーの死体を見つめていると、

 とてとて……とベリトが近づいて来た。

 俺の手を取り、なでたりさすったりしはじめる。  


「……? 普通、の手。固くない……」


 と、ぼそり。


「ああ、さっきのか。俺の使える【スライムスキル】の一つだ。


 【硬質メタル化】といって、」


 ここまで言った時点でいきなり、ベリトの目が思い切り見開かれ、叫んだ。


「スライムスキル!!」

 

 今までで一番大きな声だった。


「そ、それってモンスタースキル!?


 モンスター専用で、人間が使うことは一切できないやつ!


 キミ! 使えるの!? ……嘘は言ってないね! すごい!


 そうそう、助けてくれてありがとう!」


 そしてすごい饒舌になった。なんだなんだ。

 ベリト、普通に喋れるんじゃないか……


「ボク! モンスターの研究をしているんだ!


 今回、マスターに、ギルドに納められるモンスターの一部を


 多めに横流ししてもらって、出てきたんだけど! その甲斐があったな!


 ボク、モンスターの生態や身体機能について調べてるんだけど、


 スキルについては不明な点ばっかりで! まさか、生きた資料がここに居るなんて!」  


 目が生き生きとしている……


 やっと手を離したと思ったら、俺の周りをぐるぐる回りはじめた。

 むう、スライムスキルを信じてくれて、興味を持ってもらうのは嬉しいが。

 極端な反応には戸惑ってしまう。


 マルグレットが近づいて来て、


「この子、普段は無口無表情だけど、興味がある事にだけはとても感情豊かになるのよね。


 ビックリしたかもだけど、すぐに戻るから安心して。すぐに限界が来るから」


 とあきれ顔をした。

 この反応には限界があるのか。変わった子だなあ。


「でも、この子が言うのなら、彼の話は少なくとも嘘ではないのだわ……


 スライムスキル……物理と、毒が効かない? 


 ほんとに、人間にそんな事が可能なの?」


 マルグレットがなにかブツブツとつぶやいている。

 彼女はまだどうも、半信半疑みたいだな。


 ここでまた、ベリトが俺の手を取り、まくしたてて来た。 


「ぜひとも、キミを研究させてほしい!


 いや、人体実験じゃないよ、もっとこう、痛くないやつ!」


 なんか、話が不穏当な方向に行きだした気がする……

 俺が微妙な表情になったのに気づいたのか、慌てだす魔法使い。

 

「も、もちろん、タダとはいわない! 何が良いかな……


 そうだ、さっきからボクの胸に興味があるようだったね!

 

 触り放題でどう? は……恥ずかしいけど、君の体を調べるんだから


 こっちも体を張らないとね!」 


「はああっ!?」


 裏返った声を上げたのはマルグレットだ。

 そして何故か、こっちを睨みつけてるような……目が怖い。


「いや。別に、そういうのは故郷で、毎日のように触ってたし」


「ま、毎日のように触ってた!?!?!?!」


 マルグレットの表情がさらに変わった。

 髪の毛が逆立ち、周囲に黒いオーラが見えるような……?


 仲間のスライムを触ってたのが、何か気に障ったんだろうか?

 彼女とは何の関係もないはずだけど……


「じゃ、じゃあボクは、な、生で触って良いから!」


「な、なまー!?」


「いや俺も生で触ってたから」


「なまでさわってたーー!?」


 いちいち反応するマルグレットが謎だ。

 しかもどんどん、オーラの迫力が増してくる。

 ベリトも顔が赤いが、マルグレットは耳まで赤い。まさにオーガの形相。


 いま、A級の圧をかけてくる理由は一体なんだ!?


「別に、お礼はいいよ。俺が求めるのは一つ」


 恐ろしげなマルグレットから目をそらして、ベリトに向き合った。 


「なんだい?」


「冒険者の、技術や立ち振る舞い、知識や常識を教えてくれればそれでいい。


 勝手に学ぶから、近くに居てくれるだけで大丈夫。


 俺より上のランクだし、学ぶことはたくさんあるだろう」


「わかった! じゃあ、いつも一緒にいよう!


 これからは、ずっと離れないようにしようか!」


 と腕を組んで来た。

 そこまで近くなくていいんだけど。


「な、な……!」


 マルグレット、今度は赤くなったり青くなったりを繰り返している。

 さっきからどうしたんだろう……

 

「マルグレット、さっきから顔色が変だぞ。


 まさか蜂に毒を食らったんじゃ……」


「な、何でもありません! 勝手にすればいいんです!


 私は関係ありませんから! ええ!」


 ぷいっと横を向いてしまう。


 これは、怒ってるのか……? 

 一体、何に?

 読んでいただきありがとうございます。


 面白かった、続きが読みたい、などと思われましたら、


 下にある☆☆☆☆☆で、応援お願いいたします。


 ☆一つからでも、正直な評価をよろしくお願いいたします。


 作品作りの参考にもなりますので…… 


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