第十話 初心者vsサイクロプス
「ブオオオーーーッ!」
巨体を揺らし、サイクロプスが再びこん棒を振り回し始めた。
俺は相変わらず速度についていけず、
サイクロプスに向かっては吹き飛ばされ、なぎ払われ、を繰り返している。
その度に起き上がり、何度も何度も何度も立ち向かっていく。
全くダメージはないのだが、急に俺が向かう方向が変わったり、
床をゴロゴロしまくってると、だんだん目が回ってくるのが難点だ。
ダンジョンの床は特殊な素材なのか、スライムスキルの一つ【吸着】が効かない。
ヘルベルトの時は床に使ったために吹っ飛ばされずにすんだが、今回は勝手が違うな……
さすがダンジョン、並大抵ではいかない。
「おりゃあ!」
サイクロプスに斬りかかるが、またしてもこん棒の横薙ぎをカウンターで食らって
床を転がされた。
だが、すぐにむくりと起き上がり、サイクロプスへの攻撃を再開する。
「!???!?!?」
地面に倒れて動けないフリをしながら、マルグレットがこちらを観察していた。
しかしその表情は、困惑と驚き、といったように読み取れる。
「しまったな……さすがに、攻撃を食らいすぎたかな。
これはやっぱり減点対象だったりするのかも……まずいな」
剣技の本で、攻撃の型は自己流で練習できても、防御の型はからっきしなのだ。
なにせ人間の相手がいなかったから。
とはいえ、今、その練習をしていると考えよう。
相手の動きを良く見る。王子も言っていた。見て盗めと。
「思えば、魔女の森でも、そうやってスライムたちのスキルを獲得していったんだ……!」
そして俺はだんだんと、サイクロプスの動きに慣れていった。
「ブオオオオッ!!」
サイクロプスがこん棒を体の後ろに思い切り引く。
「この動きは、横!」
身をかがめると、頭のすぐ上をこん棒が凄い速度で通過していった。
……初めて避けることが出来た!
「ブオオオオウーーッ!」
攻撃を避けられ、怒ったらしいサイクロプスが、さらに激しくこん棒を振り回す。
また何度か食らったものの、徐々にその動きについて行けるようになってきた。
攻撃を食らう回数より、避ける回数が上回って来たのだ。
そんな俺にさらに腹を立てたサイクロプスが、筋肉を盛り上がらせ、
全力でこん棒を振り下ろしてくる。
ドズゥン! 真上から振り下ろされたこん棒が、ダンジョンの床に穴を穿った。
もう、そんな攻撃には当たらない。
「ついでにっ!」
床に三分の一ほど埋まったこん棒の先端目掛けて、俺は剣の一撃を加えた。
【溶解】を付与された刃は、こん棒をあっさりと真っ二つにする。
「ブオッ!!!??」
武器を失った一つ目巨人は、一瞬とまどうが、今度はその巨体に物を言わせる攻撃を仕掛けてきた。
単純な、蹴る・殴る、などである。
とつぜん攻撃方法が変わったのについて行けない俺は、また簡単に蹴り飛ばされ、
ゴロゴロ転がってしまう俺。
「また食らってしまった……これで何度目だっけ?
もう、冒険者資格取り下げになるほどの減点になってない事を祈るしかない!」
むくりと起き上がり、再びサイクロプスに向き合う。
そしてまた何度か攻撃を食らうも、巨人の肉弾攻撃にも徐々に慣れてきた。
あとは、いかにしてダメージを与えるかだが……
良く見ると、サイクロプスの胸のあたりに、×状の刀傷が刻まれていた。
「あれは……A級の二人がつけた傷か」
あえて×状につけられた傷、何か意味があるに違いない。
×印……しるし……目印……?
そうか……なるほど!
あそこを狙って攻撃しろ、という事なのか!
「サイクロプスの弱点ってわけか……何から何まで、おぜん立てされてるんだな。
戦闘のさなかに、やられたフリをしながら目印まで刻むなんて。
つくづく、A級冒険者というやつは……」
なんという手練れなのか。
とても、俺がかなうような相手じゃない。
「ブオーッ!」
振りまわされたこん棒を慌てて避ける。
おっと、そんな事を考えている場合じゃない。
討伐の道筋までつけてくれているんだ。
しっかり、期待に応えないと!
次の攻撃、カウンターで決めよう!
「ブオオオオッ!」
「ここだ!」
真上から垂直に振り下ろされるこん棒を、体を捻ってギリギリかわしつつ。
無謀にさらけ出されたサイクロプスの胸めがけ、俺は素早くステップインして
刺突を放った。
「【溶解】! 貫け!」
俺の剣は、正確に×印へと吸い込まれるように突き刺さった。
サイクロプスの体を貫通し、刃の先端がやつの背中から飛び出たのを感じる。
「ブガガアアアアッ……! ……!」
急速にサイクロプスの体から力が抜け、こちらに向かって倒れて来た。
慌てて剣を引き抜き、すんでのところで巨人のボディプレスを避ける。
ずずん、とダンジョンの床にめり込んだ一つ目の巨人は、完全に動きを止めた。
「討伐……完了!」
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