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第九話 レベル〇3サイクロプス出現

「ブオオオオオッー!」


 俺の背丈の三倍はある『一つ目の巨人』が吠えた。

 このダンジョンに出没する、脅威度レベル3のモンスターらしい。


 身体のデカさはジャイアント・マンティスをかなり上回っているというのに、

 脅威度レベル3とは……体格だけでは決まらない、格付けなのだろう。


「さて、どう戦ったものか」


 などと考えているうちに、サイクロプスは巨大なこん棒を、横薙ぎにふるった。


 俺は動きに目が追い付かず、まともに食らって勢いよく吹っ飛ばされた。

 あの巨体でこんなに素早く動けるのか……!


 俺はダンジョンの壁に激突し、思い切り跳ね返ってサイクロプスの足元に戻って来る。


「ラルスーっ!」


 マルグレットが地面に伏したままの姿勢で叫んだ。


「いや大丈夫。全然平気」


 むくりと起き上がり、彼女に手を振ってやると、「!?!?」と、

 見た事のない表情を返してきた。

 うーん、いきなり攻撃を食らってしまったのがマイナスだったか。



「この、パーティ全滅寸前、という『状況』。


 ひっくり返すのは俺だけ、という『設定』。


 きっちり乗り切らなければ……」



 トルド王子は、サイクロプスが出るや否や失神した、という演技で地面に倒れているし、

 エクトルとユリヤも、サイクロプスのタックルで吹っ飛んだ風をよそおい、

 うずくまったままだ。


 マグヌスとマルグレットは、サイクロプスのこん棒に打たれたフリで、動けない。

 かろうじてマルグレットは意識だけはある、という具合らしい。

 つまり彼女が主な『試験官』だ。



 ここはひとつ、良い所を見せとかないと……!




 ――少し前。



 俺は初心者講習、ダンジョン実地訓練に参加していた。

 地下一階を、二人のA級冒険者にいろいろレクチャーされながら巡回するのだ。


 ときおり脅威度レベル2のモンスター、ジャイアント・バットなどとの戦闘が発生。

 しかし初心者だけでも案外楽に対処でき、最初は自身なさげだった彼らの表情も

 落ち着いてきている。


「はっは! 楽勝じゃないか。あくびが出そうだぜ」


 トルド王子も余裕しゃくしゃくといった感じだ。


 彼はもともと王家の者として、きちんとした戦闘訓練を受けているらしい。

 剣技の冴えは確かなもので、明らかに初心者の三人(俺も含む)とは

 格が違うようだ。


 俺も小屋の本棚にあった「剣技の本」で型などは学んだものの、練習は自己流でしかない。

 

「トルド様、お一人でモンスターを倒しすぎです。他の三人の経験になりませんぞ」


 マグヌスが王子を注意する。


「けっ、だから俺はこんな仲良しこよしの、お遊戯会は嫌だったんだ。


 俺一人で十分なんだよ、てめえらは俺の後に黙ってついてくりゃいいんだ。


 俺の動きをうしろで見て、勉強しろ」


 なるほどな。技は見て盗めとも言う。

 言葉は悪いが、王子はそういう配慮の仕方をする人なんだな。


 この講習会、王子が参加するなんて何かおかしいと思ったが、

 もしかしたら彼も講師の一人なのかもしれない。

 初心者に混ざって、同じ立場からさりげなくアドバイスしたり、

 気を配ってくれる役だ。


 ということは、残りの二人もそうなのか?

 俺だけが真の初心者で、あまりにも何も知らないからと、

 特別講習会を開いてくれたのかも。

 もしかして、俺だけが一挙手一投足をチェックされてるとか……


「ラルスさん、心ここにあらず、って感じですよ。


 もっと緊張感をもって」


 マグヌスに注意された。やはりじっくり見られている。

 まずい、ダンジョンでの行動いかんでは冒険者資格も取り消されるんだった。 

 緊張してきた……



 そしてしばらくのダンジョン巡回中、かなり開けた場所に来たところで、


「いったん、小休止しましょう。


 定期的に休息をとり、体力を回復させることは基本中の基本です」


 とマルグレットが宣言した。


 ここで一休みか。うーん、俺まったく良い所がないな。

 多少はトルド王子の剣技も盗めたとは思うが、なかなかそれを使う機会がなかった。

 後半、巻き返したい。



 ダンジョンの広間で、つかの間の休息をとる俺たち。


 エクトルとユリヤは二人で何か、盛り上がってるようだ。

 いつも一緒だし、元々知り合いだったのかも。


 A級冒険者も二人で真剣な会話をしている。

 俺のふがいなさに失望してないと良いけど……


 そして、こうなると必然、王子の相手は俺となった。 


「おまえ。ずいぶんとみすぼらしい格好だな。


 どこから来たんだ? ……ああ、いいや。言わなくて。

 

 どうせ、聞いた事も無い田舎だろう」


 じいさんが繕ってくれた装備をバカにされたのは、多少腹が立ったが……

 もしかしたら、装備の不備を指摘してくれたのかもしれない。


 王子という立場ながら、新人の冒険者を指導しに来てくれるくらいだ。

 悪い人ではないはず。


 俺の出身地を勝手に自己完結で納得してくれたのは、面倒がなくなって良かった。 


「ん? おまえの目……?


 どことなく、俺の父に似てるような……いや、気のせいか。


 ダンジョンの明かりの具合のせいだな」


 王子が俺の目をじっと見て、そんな事を言った。

 父、って国王の事なのか?

 

 そういえば、ダンジョンに入って驚いたのは、周囲が十分に明るい事だ。

 石のブロックそれ自体が、発光しているようなのだ。


 太陽や、火の明るさとはまた違った、不思議な明かり。

 外の世界は、未知の現象であふれている……


「そろそろ、巡回を再開しましょう。


 今度はエクトル、ユリヤ、ラルスの三人が前衛を……?」


 マルグレットが言葉を止めた。

 マグヌスも全身に緊張感をみなぎらせる。明らかに戦闘態勢だ。


 ずん、ずん……と何か、巨大なものが歩いているような、

 振動と音が遠くから近づいてくる。

 やがて、音の主が通路から現れると、近くに居たエクトルとユリヤが悲鳴を上げた。


「まずい! 逃げろ!」


 マグヌスの警告は間に合わず、現れたモンスターはいきなり突進をかけ……

 エクトルとユリヤはあっさりと吹っ飛ばされ、動かなくなった。


「ブオオーーーーーーーーーッ!」


 長い吠え声を上げるモンスターは、一つ目の巨人だった。

 

「み、サイクロプス!? 脅威度レベル、13の……!?」


 叫ぶなり、トルド王子は泡を吹きながらくたくたと床にくずおれた。


 さっと俺をかばうように、マルグレットとマグヌスが前へ出る。

 巨人はまだ吠え続けていた。なんて声量だ。


「まさか! 地下一階に、サイクロプス!? うそでしょ!?」


「本来は地下十階にいるはず!


 まずい、あれを討伐するには、A級が少なくとも五人は必要だ……!」


 マルグレットとマグヌスが何か言ってるようだが、良く聞こえない。

 何が五人だって? あとさっき脅威度13と聞こえた気がしたけど、

 3の間違いだよな? だってまだここ地下一階だし。

 そういや、ダンジョンモンスターは図鑑に載ってなかったなあ。


 ここでようやくサイクロプスが吠えるのをやめ、こちらへと目を向けた。

 その瞬間、


「ラルスは逃げて! ここは私たちが足止めする!」


「1階の地図は頭に叩き込んであるな!? 行け! 出口まで走れ!」


 A級の二人がそう叫ぶなり、巨人に向かって突撃をかけた。


「ちょ、ちょっと!?」


 マルグレットとマグヌスは振り返りもせずに、サイクロプスに斬りかかる。

 だが、戦闘は一分もかからずに終了した。

 サイクロプスの振り回すこん棒に打たれ、二人ともあっさりと地に倒れ伏したのだ。

 

「マルグレット! マグヌスさん!」


 慌てて二人の元へ駆け寄ろうとするが、巨人がいきなりジャンプして

 俺の前へと降り立った。

 ズシン、と凄まじい地響きが周囲を揺るがす。


「ああっ……」

 

 思わず声を漏らす。

 俺、分かってしまった……全てを理解した。


 この状況、俺は試されているんだ。


 脅威度レベル3のモンスターに、A級の二人があんな簡単にやられるはずがない。

 あれは演技だ。これは意図して作られた、危機的状況だ。


 この状況に、俺がどう動くか試しているんだ。

 やはり……俺以外が全員、講師だったんだ!


「ここはひとつ、良い所を見せとかないと……!」

 読んでいただきありがとうございます。


 面白かった、続きが読みたい、などと思われましたら、


 下にある☆☆☆☆☆で、応援お願いいたします。


 ☆一つからでも、正直な評価をよろしくお願いいたします。


 作品作りの参考にもなりますので…… 


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