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晩春の渚と釣鐘の音

作者: 若松ユウ
掲載日:2022/12/15

ここは、七つの大洋と百八つの島嶼から成り立ち、科学や人間と同時に魔法や妖精が併存する摩訶不思議な世界。

そして、海賊たちが勝手気ままに髑髏の帆を広げては、やりたい放題の限りを尽くすことができた、ギラギラでキザな時代の話だ。


おっと。申し遅れたが、俺の名はゼアン・セキタクス。

四十路を過ぎても少年時代の夢を捨てきれず、セキタクス海賊団なんて何の洒落気もない名前の組織を立ち上げ、自らその船長をやってる大馬鹿者だ。


今夜は昨夜に引き続き海が時化てやがるから、船は港で錨を降ろしたままにしてある。

旅の道連れにしてる玉石混淆の乗組員たちも、ここから程近い岬の宿屋に泊まらせてある。

いつもなら、俺も奴らと一緒になって明け方までどんちゃん騒ぎの輪に加わるんだが、今宵はあえて顔を出さないようにしている。

それというのも、夕方の市場でロバに空樽を括り付けていたワイン商人から、これから目指す島について詳しい情報通が街の大聖堂にいるという噂を聞いたからだ。


「こんな夜分に、何のご用でしょうか?」

「シスターか。スレイ・ロメッツに会わせてくれ」

「スレイ・ロメッツは、わたくしですが?」

「何だと!」


応対に出てきたのは、どう見てもティーンエイジャーとしか考えられない少女だったので、思わず声を荒げてしまった。

しかし、冷静に観察してみれば、修道衣姿の少女の手には聖書とは異なる辞典のような函入りの図書を携えている。

事前に想像していた人物像とは乖離しているが、情報通というのは間違いないのかもしれない。

一通り自己紹介を済ませてから、疑問をぶつけてみた。


「ところで、その本は何だ?」

「これは、護身用のアイテムですわ。土曜教室に来る腕白少年たちの悪戯を、これを振り回して回避していますの」


神の天恵ならぬ紙の天誅とでも言おうか。

いや、そんな枝葉末節にこだわるより来訪目的を果たそう。


「あんたを探してたのは、他でもない。この島から西風に吹かれて渡航した先に、魔法を得意とする精霊が棲まう茨の森があると聞いたんだが、どうもその精霊たちは仲間意識が強すぎるようでね。島外との交流を好まず、従って内部事情も不明な点が多くて揣摩臆測が跋扈して困っているんだ。何か有益な情報や有効な手段を知らないか?」

「あいにく人間の中には、狡猾な者、姑息な者、傲慢な者、その他諸々、神の教えに反する残念な方々が少なくありません。そういう精神の卑しさが、精霊たちには汚ならしく穢らわしい存在に映り、多様性の受容を阻害しているのだと思います」

「……それで?」

「精霊たちの凍った心を融かすには、よくよく話し合うべきですわ。わたくしの親友に、かの島の幼い精霊たちに正しい魔法の使い方を手解きしている立派な精霊がおりますの。フィアセレスというんですけど、彼女に紹介状を書いて差し上げますから、お持ちなさい」


渡りに船とは、正しくこのことだろうと思った。

だが、世の中はギブアンドテイクで動いているもので、いよいよ書き上げた紹介状を渡される段になって、スレイが重すぎる対価を要求してきた。


「お渡しする前に、一つだけ条件がありますの」

「この期に及んで何だ。俺に出来ることだろうな?」

「あなたにしかお願い出来ないことですわ。本懐を遂げて茨の森からお戻りなったら、わたくしのフィアンセになってくださいまし」

「……はい?」


意味不明だという感情で聞き返した俺の台詞を、函入り本を持った箱入り娘は都合よく肯定と捉えた。


「まぁ、嬉しい! お早いお戻りをお待ちしてますわ!」

「待て待て、あんたは聖職者だろうが。婚約なんて出来るわけがない」

「前例ならありますわ。もしもお断りなさるなら、こうですわ!」


言うやいなや辞典のようなものを振りかぶって追いかけ回してきたので、俺は要求を飲むしかなかった。

猫をも殺すは好奇心。まして人間をや。

俺もそろそろ責任逃れ出来なくなってきたってことか。

巧妙な罠に気付くのが遅れた後悔は、やがて寄せては返す夜明けの潮騒に掻き消されていくのだった。

※企画公式キャラクター設定

挿絵(By みてみん)

〇ゼアン・セキタクス

〇セキタクス海賊団船長。海賊。

〇44歳〇男〇O型

〇世界に広がるミステリー(都市伝説の探求)をしている

〇好物はワインとチーズ

〇キャラクター立案:いでっち51号

〇イラスト:柚癒様

挿絵(By みてみん)

〇スレイ・ロメッツ

〇女性聖職者であるが詳細不明

〇見た目は10代後半だが詳細不明

〇辞書の様な本をいつも持っている

〇時々持っている本を振り回している

〇実は持っている本はお守りがわりの安心アイテムで武器と防具の代わりにしている

〇普段は持っている本は辞書だけど、行く場所が予め分かっていると、場所や目的に応じ持つ本を変える

挿絵(By みてみん)

〇フィアセレス

〇人間嫌いの精霊

〇外見年齢は10代後半だが詳細不明

〇人間の創った美しい物は可愛い物は好き

〇攻撃魔法、補助魔法、回復魔法と魔法全般が得意

〇クールにみえて情に厚い

〇優しさや情熱を秘めている

〇キャラクター立案&イラスト:てしらま様


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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)改めて読ませて頂きましたが、やはり若松さんは掛けあいが上手いというか巧いですね。そういう面白さを感じる作品でした。 [気になる点] ∀・)なろう恋五輪ではモロッコとフランスといった実…
[一言] 愉しく拝読しました。 相変わらず語彙が豊富で羨ましい限りです。 冒険小説を感じさせる冒頭はとても良かったです。押しかけてきなヒロインの押しの強さも楽しかったです。 今後も頑張ってください…
[良い点] 四字熟語やことわざなどが多く、ネット検索しながら楽しく拝読しました。ワクワクするような物語の舞台、広がりを感じさせるファンタジーある世界の雰囲気が素敵でした。読ませていただき有り難うござい…
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