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七十三話

 オールツェル王国、城下町中央部辺りまで足を進めたレオン達。


 城下で一番大きく広い公園の真ん中に、魔族リインはぽつんと一人立ち尽くしていた。


 レオンが武器を構えるよりも早く、クライヴとソフィアが先に武器を手に取った。一度クリスタルで顔を合わせている二人は、リインの脅威は身にしみている。


「どうも落ち延び王子、そこの二人はお久しぶりね」


 まるで友人に話しかけるかのような口調で声をかけてくるリインに、レオンは訝しみながら聞く。


「お前が魔族リインだな。クリスタルの人々の命を弄び、誇り高き戦士の魂を穢した事、命を持って償え」

「そうね、確かにアタシがやった事よ。でもだからなんだっていうの?」

「何?」


 リインは呆れたようにため息をつく。


「アタシは自分の能力を使って魔族の為に戦っただけ、多少命をおもちゃにして遊んだけど、それでも目的の為にやった事よ」

「戯言をほざくな」


 クライヴは一歩前に出た。


「魔族の為?お前は命の尊厳を奪い弄んでいただけだ」

「そうよ、だからそれの何が悪いの?」


 リインから出てきた言葉にクライヴは肩を落とした。


「問答無用。ここからは剣で語るのみ」


 レオンもこれ以上何を言っても無駄だと理解しエクスソードを構える、ソフィアはすでにいつでも魔法を放つ準備をしていた。


「分からないわ、アンタ達何なの?あのクリスタルでゴミみたいに死んだアイツも、アタシ達の方が遥かに力もあって生き物としても優れている筈なのに。どうしてアタシより楽しそうに生きているの?」


「分からない…分からない分からない分からない!気持ち悪い気味が悪い!だから全部全部死んでしまえ!!」


 リインは甲高い声で叫ぶ。その絶叫を聞きつけてリインが殺しては蘇らせたアンデッド軍団が、地響きを上げながら襲いかかってきた。


 まるで大波のように押し寄せてくるアンデッド達、前にいるアンデッドを踏み潰し、横にいるアンデッドをかき分け我先にとレオン達目掛けて流れ込んでくる。


「ソフィアッ!」


『水神の盾よ、土神と金神の加護を受け力を示せ!』


 レオンはソフィアから力を受けた水神の盾を掲げて構える。盾から展開される強固なバリアがドーム状に包み込み身を守る。


 しかしアンデッド達は止まらない、濁流の中に取り残されたかのようにアンデッドの群れにレオン達は飲み込まれた。


「押しつぶせ出来損ない共!お前達のゴミ以下の命を役立ててみせろ!」


 リインはアンデッドを次々と投入していく、途切れる事のない勢いを受けて、水神の盾のバリアがミシミシと音を立て始める。


「保ちますかレオン様!」

「まだ大丈夫だ!だけどこのままこれが続けば不味いぞ!」


 周りすべてをアンデッドに囲まれていて身動きが取れなくなってしまった三人は、襲い来るアンデッドの波をただ耐えるしかなかった。


 この状況でソフィアは一人冷静に考えを巡らせていた。


 クリスタルでスライムゾンビを浄化した大魔法、あの時は金の神子エルとエクストラ達の助けがあって発動することが出来た。


 しかしすべての神の加護を集めた今の自分ならば、あの時以上の大魔法を発動する事が出来るかもしれない、むしろ今がその時だと思い至った。


「レオン!お願い私が何とかするから耐えて!」

「…ああ!勿論だ!」

「手伝いますレオン様」


 クライヴはレオンの背を支え、一緒に盾で攻撃を防いだ。


 二人が時間を稼いでいる間、ソフィアは神授の杖先端を使って地面を削り魔法陣を描き始めた。


 ブツブツと呟きながら細かく再現とアレンジを加えて、エクストラが開発した魔法を自分が使えるものに書き換えていく、今の状況に合ったものは、アンデッドに効くように作用させるには、思考を繰り返して最適解を見つけていく。


 星の神子として、レオンの力になる為に今出来ることを、ソフィアは書き上げた魔法陣に魔力を注いで詠唱を始めた。


『万象司る神々の加護、世界を象る星の印、歪められた命の形、傷つけられた魂、生を迷い死に惑う哀れな御霊を大いなる器で受け入れよ、癒やし慰め浄化せよ』


『ターンアンデッド!!』


 両手で構えた杖で魔法陣を突く、発動した魔法は星の加護の魔力を乗せて陣から広がり、光に触れたアンデッド達を浄化していった。


 安らかに眠りにつくように消えていくアンデッド、救われてあれと願ったソフィアの魔法はすべてのアンデッドを浄化しきった。


「そんな!そんな馬鹿な事があるものか!まだ居るはずだ、あれだけ作ったんだ。出てこいアンデッド!」


 リインの叫びも虚しく、作り出されたアンデッドはすべて消え去った。それが信じられないリインは叫び声を上げるのに必死になっていて、自由にしてはいけない二人から目を離してしまった。


 気が付いた時にはもう遅かった。


 リインの目の前には二人の剣鬼、浴びせかけられる息の合った剣戟に体をどんどん斬り落とされていく、リインの再生能力も二人の攻撃には追いつかなかった。


 やがて再生よりも速くクライヴの大剣の一撃が腕を斬り飛ばす、続けざまにレオンのエクスソードによる斬撃が両足をとる、再生の暇を与えないようにもう片方の腕をクライヴが左腕から放つ光線で焼き切る。


 絶え間ない攻撃の暴風にさらされ、リインはその身をすり潰されていく、どれ程叫んでも止まる事は無い。


 やがて爪の先程の欠片も残さずリインは斬り刻まれた。自らを満たす為だけに命を弄んだ魔族の最後は、あっけなく塵と消えた。




 魔族リインを討伐し、レオン達は城を目指す。


 アラヤはまた一つ飛んできた光を受け取るとそれを飲み込んだ。


「馬鹿な糞餓鬼めが、お前が満たされる事などある訳がない。せっかくの能力も台無しだったな。だが想像以上に役に立った事だけは褒めてやろう、塵芥にはもう届かないがな」


 アラヤは窓から外を眺める、その姿はどこかレオンの到着を待ちわびているかのようであった。

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