六十九話
メアラメラの問題を解決して、人魚の歌声によって眠りについた人々が無事目覚めるのを確認する為に、レオン達は数日間の滞在を決めた。
空いた時間を利用して決戦に向けての準備を整えていると、思わぬ人物がメアラメラを訪れた。
「やあ久しぶりだねレオン」
「愛しのエクストラちゃんも会いに来てあげたぞ!」
それはグロンブの精霊王アルフォンに、クリスタルの研究塔最高責任者エクストラであった。
「アルフォン!それにエクストラちゃんまで!元気そうだな」
レオン達は再開を喜びあった。そして近況を話し合い情報を交換する。
「レオン、とうとう神器をすべて手に入れたんだね。僕も何だか誇らしいよ」
「ありがとうアルフォン。それにしても珍しい組み合わせだな」
レオンに指摘されアルフォンも「そうだろ?」と言った。
「あれからグロンブも変わってきてね、街の商人と取引して各国と繋がりを持たせてもらっているよ。その中でもクリスタルはグロンブに近いから、僕は直接訪れたんだ」
「何だか大胆だな」
「そこも僕のいい所さ、それで面白い感情の子を見つけてね、会ってみたら想像以上にユニークな子でさ、すっかり意気投合しちゃったよ」
エクストラをアルフォンが気に入ったと言うのは妙に納得感があるとレオンは思った。彼女ほど目まぐるしく感情豊かに生きる人もそうそういないだろうと知っていたからだ。
「それでメアラメラにはどうして訪れたんだ?」
「おっといけない、君たちとの再開を喜びすぎて忘れる所だった。ちょっとシャアク王に用事があってね、僕よりエクストラちゃんが主何だけど」
そう言うとアルフォンは、ソフィアとクライヴと談笑しているエクストラを呼びよせた。
「エクストラちゃん、名残惜しいけどそろそろ行こうか」
「そうだね。じゃあ皆またね」
アルフォンとエクストラはレオン達に手を振って去っていった。
城の謁見室に通されたアルフォンとエクストラは、海王シャアクと面談した。
エクストラが新しく開発した魔法は、水晶を通じて離れていても会話を交わす事の出来るものであった。これまで同じ系統の魔法は開発されて来たが、新たに開発されたこの魔法では、距離の制限なく時間のズレもないものであった。
「これは…凄まじいな」
シャアクが思わず言葉をこぼす程の傑作であった。
「正直私もこれを開発することが叶うとは思いませんでした。しかしクリスタル国で起きた事をレオン王子達と共に乗り越え、更に上を目指せると思えたんです」
エクストラは戦いの経験を自信や手応えに変えて研究に励んでいた。
「そんな折にこちらの精霊王アルフォン様と出会い、私の着想を形にする手伝いをしていただきました」
「彼女の理論は完璧でした。僕は魔石についての知識があったのでその応用を伝えたまで、それもグロンブで抱えていた問題をレオン達が解決してくれたから出来た事です」
アルフォンは神の死骸を見張り続ける為にグロンブを離れる事が出来なかった。しかしクライヴの奮闘によって自由に動き回る事が出来るようになり、エクストラと出会う事が出来た。
「これさえあれば各国との連携がスムーズになる、緊急事態にも速やかな意思疎通が可能だ。我々は魔王に良いように切り崩されてしまった。それもこれも今までオールツェルに繋がりを頼り切っていたからだ」
シャアクは強大な可能性を秘めた水晶を前に目を輝かせた。
「これを各国に配置する、そういう事だな?」
「はい、今こそ王の叡智を結集する時だと、我が国の王レイナの言葉です」
レイナはすでに人を遣わせて水晶の配置に動いていた。エクストラはレイナに持たされた親書をシャアクに渡した。
「彼女は流石だな、無駄がないし効率的だ。返書は君が持ち帰ってくれるのかな?」
「そう言付かっています」
「ではすぐに用意する。しかし話はそれだけではないのだろう?」
シャアクはアルフォンに向けて言った。
「流石分かりますか」
「散々企み事に対応させられたからな、潰し切る事は出来なかったがその手の表情を見分けられるさ」
アルフォンは懐から五つの宝石を取り出した。
「これは?」
「我が国神の土神様から授けられた各々の神子の為に作られた宝珠です。これをウルヴォルカに持ち込み加工して、神子に身に着けてもらいます」
土神は取り戻した力を使って宝珠を作り出した。未だ磨かれていない原石であるが、ウルヴォルカの技術を用いれば神器に等しいアクセサリーに加工することが出来る。
「これさえあれば、神子を通じて各国の国神の力を集結させる事が出来ます。人の力を結集する時が今ならば、神々の力を結集する時も今かと」
「成る程それは然り、ならば船出の時だな。メアラメラの総力を持って神子に宝珠のアクセサリーを届けさせよう」
シャアクは海の自由を取り戻した今、流通の要であった国力を発揮する絶好の機会を得た。
会談を終えたシャアクはすぐさま返書を用意し、船の準備を急がせた。
エクストラはメアラメラ用水晶の設置をして、アルフォンと共に各国を回り水晶を備え付ける。
アルフォンはアイシャと会って、人魚達にも協力を求めた。アイシャを通じてコーラルに話がいき、快く了承を得られた。
コーラルもレオン達に助けられた恩義を感じていて、出来ることならば何でも協力するつもりであった。人魚の独自の技術である占術や魔法は魔族には持ち得ない強みであった。
レオンが前を突き進むように、彼の背中に惹かれて人々が手を取り出来ることを模索し始める。それはまるで伝説の一幕であるオールツェル王の再来を思わせる出来事であった。
決戦に向けて各々が動き出す。行き着く先の理想を求めて、戦いが始まろうとしていた。




