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六十七話

 クラーケンは巨体とは思えない速さでレオン達に襲いかかる。


 振り上げた足を叩きつけるのを散開して避ける、足に遮られてレオン達はそれぞれに分断されてしまった。


 レオンはソフィアと、クライヴは一人、シャアクはアイシャと分かたれる。お互いの様子は分からなくなってしまったが、それぞれの無事を信じて眼の前の敵に対応するしかなかった。




 シャアクは腰のシミターを抜いてアイシャをかばうように前に出る、三本の足に囲まれていた。


「こりゃあ予想してなかった。こんなデカブツがいるとはな」

「何だいシャアク、怖気づいたってのかい?」


 アイシャに言われてシャアクはまさかと返した。


「アイシャ俺の背中はお前に任せるぜ」

「任せなシャアク、あんたに惚れてから私はずっとそばにいるって決めてんだ」


 シャアクは笑みを浮かべると眼前の足に切りかかっていった。刃が肉を裂くが、弾力のある表皮に弾かれ、深く切り込む事が出来ない。


「アイシャ魔法で俺の傷つけた箇所を狙え!」

「分かった!なるべく多く傷をつけて!浅くでいい」


 クラーケンは足をばたつかせて攻撃してくる、シャアクはその攻撃を避けて少しずつ小さな傷をつけていく、大ぶりで雑な攻撃だったが、一発でも当たれば致命的になりうる。


 しかしシャアクはその逆境であえて笑みを浮かべていた。元来の血の気の多さと、何よりクラーケンの足程度には遅れを取ることはないと確信していた。


 それを確信できるのはシャアクの後ろにアイシャが居るからだった。全幅の信頼を寄せるパートナーがいる、それがシャアクの強さであった。


「そろそろだ!いいぞアイシャ!」


 細かい傷をできるだけ多く刻んだシャアクはなるべく距離を取るために全力で走る、足は突然逃げ出した相手に困惑して追うのをためらってしまった。


『凍てつけ雫鋭く降り注げ驟雨の如く、アイシクルレイン!』


 動きを止めた足達は、降り注ぐ氷の刃にズタズタに切り裂かれた。シャアクがつけた傷跡に深く食い込み、さらにそれを次の刃が押し込む。


 ズタズタに切り裂かれて散らばった足を見て、シャアクはふっと息を吐いて言った。


「俺は狙えって言ったんだけどな」

「当てたいんだったら沢山撃てばいいのよ。貴方も分かっていた癖に」


 シャアクが逃げ出したのはアイシャの魔法に巻き込まれない為だった。性格を把握しているからこそ、言わずとも伝わる連携が取れた。


 足を倒したのも束の間、すぐに新しい足がやってきた。シャアクはシミターを構えて敵を迎え撃つ準備をする。


 しかし次の瞬間には足はバラバラに切り分けられて落ちた。舞い上がった土煙の先にいたのは、斬り裂かれた足とクライヴの姿だった。


「シャアク様!アイシャ様!ご無事でしたか!」


 クライヴは二人の姿を見て駆け寄ってくる。


「クライヴ、お前どうやってこっちまで来たんだ?」

「兎に角早く合流を図りたかったので、一本一本足を斬り落として進みました。再生されたら厄介でしたが、楽できましたね」


 平然とそう言いのけるクライヴにシャアクは呆れながらも、最強の名は伊達じゃないと、しみじみそう思った。


「レオン達に合流するぞ」

「あっちにまだ足がありました。行きましょう」




 クライヴがクラーケンの足を斬り落としながら進んでいる中、レオンはソフィアを抱えて走っていた。


 迫る攻撃を避けながら城の高台に降り立つ、ソフィアをそこに降ろしてレオンはエクスソードを抜いた。


「よしソフィア頼んだ!」

「ええ任せて!」


 レオンとソフィアは早々に狙いをクラーケン本体に切り替えた。数は多くとも、振り下ろしたり薙いだりすることしか出来ない足は、クライヴが居れば問題ないと判断した。


『宝剣開放、木火土金水の加護満ちよ、星の神子が神々の力今ここに束ねる!』


 ソフィアの詠唱と共に、神授の杖から光が飛び出す。緑、赤、黄、白金、群青、それぞれの光がエクスソードに宿ると、レオンは胸の前に剣を構え上に掲げる。


 するとエクスソードから巨大な光の刃が現れた。レオンはそれをクラーケンめがけて振り下ろした。


 光の刃はクラーケンを真っ二つに斬り裂いた。二つに割れたクラーケンは左右に倒れて塵と消えていく、レオンはエクスソードを鞘に納めソフィアを抱えると、飛び降りてクライヴ達の元へ向かった。




 城に潜んでいたクラーケンを倒し人魚王国城内に入る。静まり返っている城内を進むと、沢山の人魚たちが地に伏せっていた。


 慌ててソフィアとアイシャが駆け寄って様子を見る、人魚たちは眠りについているようであった。


 その場を二人に任せて、レオンとクライヴ、そしてシャアクは誰か起きている人魚がいないか城内を探しに歩いた。


 しかし何処を探しても眠りについた人魚しか見当たらない、レオン達は協力して人魚たちを大広間に運んで集めた。


「アイシャ様、人魚達は寝ているだけなんですか?」


 レオンが聞くとアイシャは頷いた。


「どうやらそうみたいだ。死んでいたり外傷が見受けられたりはしない、どういう事だろうか」


 アイシャは心配そうに人魚達を見つめる、シャアクはそんなアイシャに寄り添ってレオンに言った。


「恐らく今のお前達の力なら人魚を目覚めさせる事が出来るだろう、洗脳を解く事が目的だったが、まずは目覚めさせなければ」


 レオンとソフィアは顔を見合わせて頷いた。レオンは水神の盾を、ソフィアは神授の杖を構えた。


『水の加護よ神器に宿れ、万病癒やす奇跡の力を我が前に示せ』


 水神の盾は青い光を放ち始めた。その光が人魚たちを包み込んでいき、体に溶けるようにすっと入り込む、暫くそのまま待っていると人魚たちが一人また一人と起き上がって、すべての人魚達を目覚めさせる事が出来た。


「お母様!」


 アイシャは一人の人魚に抱きついた。


「まあアイシャ!無事だったのね会いたかったわ!」


 高齢の女性は抱きしめるアイシャの頭を優しくなでる、シャアクはレオン達にその人の紹介をした。


「あの方は人魚王国の女王であり、アイシャの母親であるコーラル様だ」


 それを聞いて慌ててレオンは挨拶をする。


「失礼しました女王様、私はオールツェル王国王子のレオン。星の神子ソフィアと、騎士クライヴと共に国を取り戻す為旅をしています」


 レオンの挨拶を聞いて、コーラルは一度アイシャの身をシャアクに預ける。そしてレオン達に向き直って話し始めた。


「私は人魚王国の女王コーラル、レオン王子貴方が来るのを私たちは待っていました。皆の眠りを覚ましてくれて感謝いたします」


 コーラルから感謝されても事情が飲み込めないレオン達は、一度詳しい話を聞く為に人魚王国の一室に案内される事になった。

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