六十六話
人魚王国へと向かう為にレオン達はシャアクにアイシャと一緒に船に乗り込んでいた。
シャアクは舵を握り操船を行う、城を空にしてしまう都合から船員として兵を持ち出す訳にはいかず。レオンとクライヴはシャアクが飛ばす指示をこなすため走り回っていた。
アイシャは占術を使い魔物の警戒を続けている、傍にはソフィアがついていた。
メアラメラは洋上に建国されている事もあり、船での生産活動が活発な国であった。輸送に交易、漁にと生活に欠かすことの出来ない要素である、しかし今はシャアクの操る船以外は一隻も出ていない。
その理由は海に放たれた魔物達の影響であった。初期こそ魔物を蹴散らし海に繰り出していた船乗り達であったが、洗脳による改変者他達は少しでも危険だと判断した洋上へは出れなくなってしまった。
そうして外敵のいなくなった海は魔物達の天下となった。少しでも進むと魔物に襲われる危険があった。
生態系への悪影響も甚大で、シャアクの頭を悩ませていた。海の恵みに支えられているメアラメラにとって、深刻な自体であった。
「そろそろ目的の場所だ!」
シャアクが声をかけて知らせる、レオンは船室にいるアイシャとソフィアにそれを伝えた。
「分かった。シャアクに儀式をすると伝えてくれ」
「了解」
アイシャの言葉をそのままシャアクへと伝える。そしてレオンはこれから何が起こるのかと聞いた。
「まあ見てな、世にも驚きの体験をさせてやるぜ」
ニヤニヤと笑うシャアクを見て訝しんでいると、船が大きく揺れ始めた。
慌てて近くの物にしがみついていると、船はどんどんと海の中へと沈み始める。
「レ、レオン様これは一体!?」
「わ、分からない!」
慌てふためく二人を見てシャアクは豪快な笑い声を上げながら、船は完全に海の中に沈んだ。
レオンは思わず閉じた目をゆっくりと開く、眼前に広がる景色を見て驚愕した。
船の周りは透明な膜のようなものに包まれていて、レオンは問題なく呼吸も出来る。そしてその膜の向こう側は海中であった。
「どうだ?すごいだろう?」
自慢気に聞いてくるシャアクにレオンは聞いた。
「これは、確かにすごいですね。ですが一体どうしてこんな事が?」
「俺達メアラメラの民は、その昔広がる大海と共に生きていた少数民族だった。その内そこに人が集まり始め、水神様は海で生きる術をメアラメラに伝えた。海と共存共栄を長く続けてきたある時、海の底に住む人魚と出会った」
シャアクはメアラメラの歴史を語り始めた。
「人魚は人とは隔絶した文化を築き生きていた。独自の文化と魔法の技術を持つ種族、水神様によると零落した神が作った魔族の試作を失敗作だとして海に流した者達らしい」
レオンは初めてその事実を知った。しかし魔法が使えると言う事は、神に連なる要素があるということで、聞かされると納得できる事だった。
「人魚は海と生きるメアラメラの民に惹かれて姿を現した。そうして人魚と交流を重ねてきたメアラメラは、人魚が独自に作りあげた魔法や技術を伝えられて、海に関する事では右に出る国は居なくなった」
そうして出来た国がメアラメラだとシャアクはレオンに語った。
「この魔法は人魚から伝えられた魔法の一つで、海中を自在に行き来する事が出来る。座礁しないようにある程度深い場所からでないと使えないがな」
「なるほど、だからあれほど沖に出たのですね」
クライヴは納得したように言った。
「ああそうだ。そしてそろそろ見えてくるぞ」
シャアクが指差す先を見ると、真っ暗な深海の中に光り輝く美しい城が見えた。そここそが人魚の住まう王国、不思議な歌声を操る人魚達の楽園であった。
人魚王国に降り立つと、海の底であるが明るく呼吸も問題なく出来た。体の動きも地上と何ら変わりはなく、海の中だとは信じられないとレオンは思った。
しかし無事に辿り着いた事に感動している暇はなかった。
「静かすぎる…」
シャアクがそう言うと、アイシャは船室から飛び出てきた。
「皆警戒しな!魔物の反応で溢れかえっているよ!」
警告に反応してすぐさま武器を取るレオンとクライヴ、感覚を研ぎ澄ませると確かに複数の魔物の気配をレオンは感じ取った。
だが森羅の冠が映し出した魔物の数は一体だけであった。どういう事かと思っていると、城の裏からとてつもなく大きな影がのっそりと出てきた。
「嘘だろ…」
それは巨大な怪物、数多の足を器用に動かしぐねぐねと動きながら姿を現した。
「あれはクラーケンよ!足の一本一本が強力な魔物に相当する怪物!」
ソフィアが神授の杖を構えて飛び出してきた。そして魔物の正体を伝える。
レオンが感じ取った複数の魔物の気配、アイシャが占術で見た溢れかえる魔物の反応は、クラーケンと生えた足であった。
クラーケンは大きな瞳をぎょろぎょろと動かしレオン達の姿を捉える。
武器を構えた姿を見て、脅威であると判断し襲いかかってきた。レオン達は海中の怪物クラーケンに立ち向かう為に備えた。
「行くぞ!こいつをここで倒す!」
レオンの号令と共にクラーケンとの戦闘は始まった。




