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六十三話

 魔族ベルティラに連れられてレオンは小綺麗で洒落た飲食店に入った。


 座っていた他の客はベルティラの姿を見て無言で立ち上がると、そのまま急いで外に出た。


 金も払わず食べかけの料理も残したままで、迅速に行動する様は不気味だった。ベルティラはそんな事など意に介さず、我が物顔で店内を進んで一番いい席を選んで座った。


 レオンはベルティラの前に座るように促されて、仕方がなく従う。


 店の給仕を呼びつけるとベルティラは手早く言った。


「店を綺麗に片付けて、シェフに一番の料理を持ってこさせなさい。すべて済んだら皆大人しく家に帰るのよ、良いわね?」

「かしこまりました」


 給仕は言われるがままの事の行動を始めた。他の従業員達も指示を直接受けていないのに同じように動き出し、シェフは料理を運び終えると「ごゆっくり」とだけ告げて去っていった。


 店の中はレオンとベルティラのみとなった。机に運び込まれた料理に、注がれたワインは、空の飲食店には似つかわしくない違和感を残した。


「さてレオン王子、いただきましょう?」


 美しい顔を柔和にほころばせるベルティラ、見るものすべてを魅了しそうな蠱惑的な雰囲気は、レオンからすればただ不気味で嫌悪感しかなかった。




 ベルティラはナイフとフォークを器用に使って料理を口に運ぶ、ワインを飲む姿も優雅な所作ですべてが丁寧であった。


「話とやらをしに来たのでないのか?」

「急かさないで、王子も食事を楽しみましょうよ。一口も手をつけないなんてお店の方に失礼ですよ」

「俺はお前と食事をしに来たのではない、正直今も不愉快で仕方がない。本題に入ろう」


 レオンの物言いにベルティラはわざとらしく悲しむような仕草を見せる。


「此方はレオン王子と楽しい一時を過ごしたいだけなのに、そんな意地悪を仰っしゃられるのならもう一度いたずらしてしまおうかしら」


 そう言われてしまうとレオンもぐっと押し黙るしかなかった。そんな様子を見てベルティラはくすくすと楽しそうに笑う。


「レオン王子は分かりやすくて可愛いですわ。此方にもうその気はありません、あの手段はできるだけ使いたくありませんの」


 からかわれ手玉に取られていてもレオンは強く出る事が出来なかった。いつでも人の命を奪える相手に、機嫌を損ねる事は避けなくてはならない、もどかしくて苛立ちを覚えながらもレオンはベルティラの相手をする事にした。


「良い子ね王子」


 ベルティラの嬉しそうな顔とは対照的に、レオンの顔は美味しい料理を食べているとは思えない程、苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべていた。




 食事を終えて優雅にワイングラスを傾けるベルティラ、こんなに味を感じられない食事は初めてだとうなだれるレオンは、早速話を切り出した。


「それで、俺に話があるって?」

「ええそうです。この国で此方が引き起こした事聞きたいでしょう?」


 レオンは意外な答えに目を丸くした。


「お前本人の口から語るのか?」

「ええそうですよ、此方はもうこの国を去りますので。王子達はメアラメラを救う為に色々と奮闘されるでしょうからヒントを差し上げなければ」


 ベルティラの物言いに訳が分からないとレオンは頭を掻いた。


「分かった。話してくれ」

「おや意外とすんなり受け入れますのね」

「話が進まないからな、お前が嘘をついていても本当の事を言っていても、俺のやることは変わらない」


 レオンがそう言うと、ベルティラは嬉しそうに小さく拍手をした。


「流石ですわ王子、それでこそエクスソードを持つに相応しい者。では説明させていただきます」




 ベルティラがメアラメラを訪れた時、すでに魔王アラヤの手により騎士団を使った工作で国は弱体化していた。


 相互監視が強められ、規制を強化して国民は常に諜報員に怯えていた。人の流入が多いメアラメラでは、いつの間に隣人が増えている事も珍しくもない、元々住み着いた人も他の国から訪れた者ばかりで、間者かもしれないと思えば人の心は簡単に縛られた。


 メアラメラの王シャアクは国を守る為に手を尽くしたが、アラヤの狙いはただの時間稼ぎで、自らの力を取り戻すのと魔族を復活させる事を邪魔されないように、勝手に動けない状況を作っただけだった。


 国中が混乱している時にシャアクにその事情が分かる訳がなく、まんまとアラヤに出し抜かれ、広大な自由な海は牢獄に変わった。


 状況が変わってベルティラ達が自由に動きだしても、一度生まれた疑念は中々払拭できない、そんな様子を見たベルティラはある事を思いついた。


 人々の心から猜疑心を取り除き、疑心暗鬼な状況を改善させてあげようと考えた。




「ちょっと待ってくれ、お前はこの国を救おうと考えたのか?」


 レオンが聞くとベルティラはあっさりと答える。


「ええそうですよ、魔王様は好きにしろと仰っしゃられた。なら人を救うのもまた此方の勝手ですから、殺す事にはあまり積極的になれませんでしたの」


 驚く事にベルティラは嘘は言っていいないとレオンは思った。信じる事は出来ないが、少なくとも嘘をついているように見えなかった。


「なら何故この国はこんな状況に陥っているんだ?」

「そこが此方の話たい事ですよ王子」


 レオンはまだまだ聞きたい事がある気持ちを抑えて、ベルティラの話の続きを聞く事にした。




 ベルティラはアラヤから水生生物を用いて作られた魔物を借り受けると、海中にある人魚王国を目指した。


 国民から聞き出した情報で、人魚の歌声は人の心を動かす力があると聞いた。メアラメラの船乗り達は、海路で迷うと人魚の歌声に導かれ航海をする、人魚王国と国交を結んでいるメアラメラならではの特徴であった。


 人魚王国を訪れたベルティラは、自身の持つ洗脳と支配の能力を使って人魚を操った。


 人魚の持つ歌声をより人の心や精神に働きかけられるように、自らの洗脳能力を分け与え効能を強めた。


 そして人魚の歌声を用いて人々の心から、無理やり猜疑心を取り除かせた。響く歌声は国中に響き渡り国民は皆その歌声に酔いしれた。


 しかしベルティラは思ったような結果にならずに嘆いた。ベルティラの持つ洗脳の力は人魚の歌声と相まって強すぎる洗脳を人々に植え付けた。


 絶対服従、人々から人間らしい感情を失わせて、問題ない生活を送るだけの人形の様な存在になってしまった。


 海に出る必要はなく、この国で幸せに暮らす事だけが決められた人間達は、無意味に過ぎる決められた毎日を送ることしか出来なくなってしまった。




「なんてことを…」


 ベルティラの話を聞き終えたレオンは、その一言を呟くので精一杯だった。


「レオン王子、魔族とは何なのか知っていますか?」


 聞かれたレオンは答える。


「禁を破り零落した神が、復讐の為に作り出した存在だったと聞いた」

「そうです。魔族が人より強い力を持つのは神がその身を分けて作ったから、人々と争うのは世界を這い回る神の子らが許せないから、根本から人間とは相容れない存在としているのです」


 しかしレオンは初代星の神子の存在を知っている。


「だが初代星の神子は離反した魔族だった!人々に神だけが使えた魔法の力を授け、魔族を封印する為に戦った!」

「そうですね、此方達より前の魔族には恨みが足りなかったのでしょう。魔族が負けたという歴史がそれを示しています」


 ベルティラは肩を落として言った。


「此方達は魔王様の恨みと憎しみによって復活しました。人間を世界を滅ぼす為に作られた存在、与えられた能力は人に利するようには出来ていなかった」


「此方はそれを理解しました。自由に考え行動していると思っていましたが、此方は所詮魔王様の道具に過ぎないのです」


 レオンはベルティラの告白を黙って聞いているしかなかった。


「此方はその事を受け入れました。理解したと同時に、自然と心に馴染んだのです。魔王様は此方に他の魔族より思考力がある事を知ってあえて放置したのです。手駒として完成させる為に」

「そんな、そんな酷い事を」

「此方はもう魔族として完成されてしまいました。人間を殺す事に何の躊躇も持てません」


 ベルティラは続けて言った。


「それに救う方法だって自己中心的で暴力的なものでした。此方はそれが一番良いと思っていても、魔族と人間の価値観はかけ離れている、人魚たちを洗脳したのだってそうです。許可をとる事や相談なんて一切しなかった」

「確かにそれは間違っていた。だけどお前はそれでも…」


 レオンは言葉に詰まりながらもベルティラの事を気遣って話そうとした。その様子を見てベルティラは笑顔で言った。


「王子は愛おしいですわ、此方は今そう思えます。しかしそれもこれまで、次会う時は殺し合う定め。無責任ではありますが、この国の事を頼みます。此方にはもうどうする事も出来ないから」


 それだけ言うとベルティラは席から立った。名残惜しそうに、しなやかな指先でレオンの頬を撫でると、そのまま何も言わずに立ち去った。


 レオンは暫く立ち上がる事も出来ずにうなだれていた。ベルティラは間違っていたが本心から人を救おうとした。


 ゆっくりと席を立ってレオンはその場から離れる。そして両頬を平手で叩いて気合を入れ直した。


 どうであろうと答えは変わらない、この国を救う事はレオンのするべき事だった。そして託されてしまった思いを果たす為に、やるべきことをやると心に決めた。

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