六十一話
レオン達がメアラメラに向かっている間、ウルヴォルカの王バンガスはフィオフォーリの長シルヴァンから招待を受けて森を訪れていた。
国使のやり取りを重ねて、両国の関係は著しく発展した。
現在は接触を図ってきたクロンブの精霊王アルフォンや、ウルヴォルカを訪れる商人たちによってクリスタルの竜王妃レイナも協力を求めてきた。
両国共これを断る理由もなく、受け入れの為の準備も兼ねて今回の会談は催された。
会議を終えて、二カ国の代表は膝を突き合わせ話し合っていた。
「シルヴァン殿はグロンブのアルフォンと話を進めているんだって?」
バンガスはシルヴァンの空の杯に酒を注ぎながら言った。
「ええ、私共フィオフォーリはグロンブとの交流は無きに等しかった。これを機に色々と関係を推し進めたいと思いまして」
「俺たちはあそこの魔石をよく採って使っていたから、アルフォンと顔を突き合わせる事も多かった。問題があったら遠慮なく頼ってくれ」
シルヴァンに酒を注ぎ返されてバンガスは言った。
「クリスタルの方は魔族に手ひどくやられたようだな」
「まだ報告を聞いた限りの情報だけですが、そのようですね。あそこには魔法研究塔があり、そこの最高責任者はエルフです。私も知っている人物ですし、伝手を使って人員を送ろうと思います」
クリスタルの復興にはまだまだ人手が足りない、魔族による大規模な侵攻を受けた共通点もあるフィオフォーリはクリスタル復興に力を貸すつもりであった。
「あそこの鉱石はウルヴォルカで加工される、俺たちにも出来る事があれば手伝わせて欲しい。ドワーフは力自慢なんだ」
そう言って豪快に笑い声を上げるバンガスを見て、シルヴァンも笑顔を浮かべる。
交流を重ねて相手をよく知る事で、国同士の摩擦も徐々にではあるが減っていった。こうして国のトップが話し合う事は、フィオフォーリとウルヴォルカ間では考えられない事だった。
その間を取りなしていたのがオールツェル王国で、シルヴァンもバンガスも自分たちが如何にオールツェルに頼り切りであったかを思い知り、そこを魔族に付け込まれたのだと痛感していた。
「しかしレオン様達の活躍は目覚ましいですな、我々の前に立ち、諦めず希望の道を突き進む姿は、まるで伝説の初代王を見ているかのようだ」
シルヴァンは誇らしげに語った。レオン達の話題を聞く度に、娘であるサラとリラはそれを嬉しそうにシルヴァンに報告してくる。
「まったくだよ。あの小僧だったレオンが、立派になりやがって…」
二人は人々を導く王としての資質をレオンに見ていた。
「しかしレオンはそれでもまだ年若く力及ばない事も多いだろう、俺達大人はそれを手助けしてやらねえと」
「その通りです。我々は手をこまねいて見ているだけではいけない」
国力を高め魔物を排し、来るべき決戦の際には最大限の支援をレオンに出来るよう備える。二人の気持ちは同じであった。
「しかし先の会談でも議題に上ったが、魔族の動きが見られないのは妙だな」
バンガスが切り出した話題にシルヴァンも同意した。
「我が国もまた魔族ランスによる侵攻を警戒していましたが、魔物の出現は減らずとも魔族が現れる事はありませんでした」
「こちらとしても魔族ロッカが、あれほど手酷くレオンにやられた事を考えると復讐に来るかと思っていたが」
魔族は一度退けてから姿を表す事がなかった。
国としては危険が迫らない事は喜ばしかったが、動きがなさすぎるのも不気味であった。ただでさえ考えが読めない魔族の、動きが読めないとなると更に厄介であった。
「しかし必要以上に心配しすぎても仕方がねえ、ある程度は腹をくくってどんと待ち構えるべきだと俺は思う」
バンガスは杯の酒を飲み干して言った。
「そうですね、私もそう思います。兎に角今は国家間の繋がりを強めましょう、それが魔族介入の牽制になると信じて」
シルヴァンもまた飲み干して言った。
不安や悩みのタネは尽きないが、それでも尚突き進むレオン達に置いて行かれまいと二人も奮闘していた。
国同士の繋がりが強化されていく中、そんな事は露知らずであるレオン達はメアラメラに到着していた。
そしてその光景を見て、三人共が愕然としていた。
メアラメラは実に平和的で活気に満ち溢れている、道に多くの人が行き交い会話で満ち溢れている。
しかし海上国であるメアラメラに、船が一隻も浮かんでいなかった。どこを見て回っても船が一つも見当たらない、不自然な事が起きているのに、人々はそれが気にならないかのように平和に生活している。
拭えない気味の悪さにレオン達はメアラメラで一体何が起こっているのか、その真実を探る事となる。




