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六十話

 祭りも終わり、復興の日々が戻ってきた。


 活気は前以上に上がり、作業はとても捗った。レイナの考えたガス抜きは、レオンの協力もあって良い影響を与えていた。


 そしてソフィアも完全に回復した。体の調子を戻しつつ、金神の加護を得る為にエルとその事について話し合っていた。


 エクストラも目を覚ました。しかし魔法実行時の莫大な魔力消費のせいで、内臓にダメージを負い、魔力を体に留める霊体も傷ついてしまった為、以前より強力な魔法を行使する事は出来なくなった。


 本人はそれでも楽観的だった。


「必要なものはすべて私の頭脳に入っている、発想力も想像力も魔力は必要ないさ。だから私はこの結果に満足しているよ」


 心配してレイナが話を聞くと、エクストラはそう宣言して返した。


 エクストラは病床に伏せながらも、研究塔の人員を集めて、作業に役立つ魔法を次々に発明させた。宣言通り、自分の頭一つで何十人分の働きをして、働き過ぎてレイナを困らせる程であった。




 ソフィアとエルはレイナの許可を貰って、金神のご神体が置かれた場に赴いていた。


 祈りを捧げる場は他にもあったが、未だ国力が回復が追い付いておらず、金神の力がまだまだ取り戻されていなかった。


 その為ご神体の近くで瞑想する事で、少しでも近づける筈とエルが提案した。二人は一緒に祈りを捧げると、エルの考えの通り神域に導かれた。


 目を開くと、目の前のご神体の鉱石が姿を変えて、透き通る結晶の体を持ち、金属が煌めく衣服をまとった金神が姿を現した。


「ようやく姿を現す事叶いました。エル、私の声を聞き届けてくれてありがとう。そして星の神子よ、貴女の機転のお陰で私はエルに力を届ける事が出来ました。礼を言います」


 金神はソフィアとエルそれぞれに礼を述べると、自身に起きた事とクリスタル国内で起きた事について話し始めた。


「私がクリスタル国内に張り巡らせた結界は、魔族リインの力を大幅に弱めました。しかし、それがリインの能力を逆に覚醒させてしまう結果に繋がりました。蘇生再生の力を、まさかあのように活用するとは」


 金神は申し訳なさそうに話し続ける。


「そうして国民を次々とスライムゾンビに変えられてしまい、私はどんどん弱体化していきました。そして抑えられていた力を取り戻したリインは、更に力を発展させました。私は国を守る所か、魔族の成長を促してしまった…」


 エルは金神に言った。


「私はそうは思いません。結果的にはそうだったとしても、守る為に力を使った。それが間違っていたとは思いません」


 ソフィアもエルに続いた。


「私もエルと同じ考えです。その時出来る事をしたのは、我々皆同じ。魔族が一枚上手に回った事は誰も想定出来ませんでした」


 二人の言葉を聞いて金神は少しだけだが、顔を緩ませ微笑みを見せた。


「ありがとう二人共、これからもこの国の人々と共にあり、永遠に守り続ける事を誓います。エルも私を支えてください」

「勿論です。私の力がお役に立つのであれば、何でも仰ってください」


 エルは金の神子としての自負と自信をつけた。ソフィアはそんな姿を見て喜んだ。初の人間の神子で、慣例から外れた自分に悩んでいたあの時のエルとは、今はもう見違えるようだった。


「ソフィア、貴女は目的を果たさねばなりませんね。私の加護を授けます」

「お願いします金神様」


 神授の杖の宝珠が白金に輝き、ソフィアに金神の加護が授けられた。痛みはあれど手の甲に刻まれた金神の紋様を見て、あと一つだと思うとそれも気にならなくなった。


「金の加護は金属の如き固く堅牢な守りを施し、穢れを浄化する力を授けます。エクスソードを持つ勇ある者の力となってください」


 ソフィアは金神に頷いた。




 レオンはソフィアとクライヴと集まって、レイナと話し合いを始めていた。


 フィオフォーリ、ウルヴォルカ、両国が協調して協力体制を取っている事と、グロンブのアルフォンが商人と交渉してそこに加わろうとしている事を伝えた。


「クリスタルは今疲弊していて余裕がないかと思いますが、国内が無事になったと分かれば商人達が足を運び始めると思います。鉱石を取引材料にすれば利に敏い商人なら力になってくれると思います」


 クライヴの進言を聞き入れてレイナは他国との連絡を取る事とした。四か国が連携を取る事が出来れば、より人々を魔物の脅威から守る事になるだろう。


「神子と神子の連携も検討してみてください、神々の力も合わさればより多くの人の力になると思います」


 ソフィアはそれぞれの国の神子達と接してきて、皆一様に人々の為に尽くそうとしている事を知った。連絡を取り合う事が出来れば、もしもの時の備えになると考えていた。


「それについてはエクストラにも協力を仰ごうと思う、何かいい案が浮かぶかもしれない」


 レイナもソフィアの意見に賛成した。国の繋がりは強くなればなる程魔族への牽制になると考えていた。


「しかし魔族を刺激する事は避けた方がいいです。彼らの行動は読む事が出来ない、あくまでオールツェル王国から沸く魔物の対処に徹してください」


 レオンの言にレイナは頷いた。魔族の力は計り知れない、手出しをすればどんな報復が及ぶか分からなかった。


「皆相談に乗ってくれてありがとう。クリスタルの女王として礼を言うよ、君たちはこれから最後の国メアラメラに向かうんだったな」

「はい、明日にでも発つつもりです」

「そうか、その時は見送らせてくれ。しかしメアラメラの情報を何も渡せなくてすまないな」


 レイナの言う通りメアラメラの情報を持っている者は見つからなかった。それどころじゃなかったのもあるが、メアラメラからの人の出入りが極端に少なくなったのも理由の一つだった。


「もしかしたらメアラメラでも魔族による被害が広がっているのかも知れませんね」


 クライヴが言うとレオンも同意して話す。


「あそこは海上運輸を一手に担っていた。人の出入りが減った事がもう異常事態だ。気を引き締めてかかろう」

「私もそう思う、我々クリスタル国民は皆レオン達の無事を祈っている。くれぐれも気を付けてくれ」


 レオン達はレイナとの別れを惜しんで挨拶を交わした。


 クリスタルでの戦いを終えて、また新たな力を得たレオン達は、国民の盛大な見送りを背に受けながら最後の国メアラメラに向かって歩き始めた。

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