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五十九話

 クリスタルを取り戻した日から数週間が経とうとしていた。


 竜王妃レイナは生き残った国民と研究塔の全員と協力して国内の復興に取り掛かっていた。


 荒廃した建物や、戦いの爪痕残る瓦礫後などを撤去修復し、人々の生活圏を取り戻す為に尽力していた。


 レオンとクライヴも力仕事を手伝っていた。避難民は弱い者が優先されたので、力強い二人は何処にいても重宝された。お互い忙しく駆け回っていて、顔を合わせない日がある程であった。


 国内からスライムゾンビを一掃させた立役者である、ソフィア、エル、エクストラはその後魔力の使いすぎでまともに動く事が出来なかった。


 特にエクストラは数日間面会する事も出来ない程の重症であった。魔法に長けたエルフであっても人の身には過ぎた大魔法の反動は大きかった。


 三人の内初めに目を覚ましたエルは、回復して復興に力を貸すと共に、金神の力を取り戻す為に金の神子として国中を巡っていた。その共にはウガツが付けられて、二人は協力しながら事に当たった。


 ソフィアはエルの次に目を覚ましたが、行使した力の大きさから絶対安静を言い渡された。レオンとクライヴが代わる代わるソフィアの元を訪れて、二人はソフィアを見舞った。




 レオンがソフィアの見舞いを終えて部屋から出ると、レイナが待ち構えていた。


「どうしました?」

「ソフィアの様子はどうだ?」

「もうすっかり元気そうですが、体の方はついていかないようですね。しかしもう少しで全快すると思います」


 レオンの言葉を聞いてレイナはほっと胸を撫でおろした。安否が気になっているのはレイナも同じであった。


「レイナ様もお見舞いに来てくださったのですか?」

「いや、それは後で行かせてもらう。今回はレオンに用事があったのだ」


 復興の段取りの確認だろうかとレオンは思っていたが、レイナが口にしたのは別の事であった。


「レオンに神器を授けたいと思っているのだが、それを少し大々的に行いたいと思っているのだ。端的に申せばお祭りを開こうと思っている」


 レオンは意外な提案に目を丸くした。


「国を守った英雄に、我が国の国宝を授ける。祭りを開催するのには十分な理由だろう?」

「しかしこの勝利は皆のものです。そんな扱いを受けるには…」

「気が進まないのは分かるのだが少しガス抜きも必要でな、皆よく働いていてくれるが、やはり気が滅入る作業だ。君は作業の手伝いもしてくれていて信も厚い、建前としてはこれ以上ない」


 確かにそれも納得できる意見だとレオンは思った。


 国民は表面上明るく振る舞っているが、多くの人々と身内を失った。しかしそれは他の国民がすべて経験した事で、誰か一人だけが悲しんでいられない、そんな空気感が漂っているのは事実だった。


 その気持ちを吐き出させる為にも、飲んで食べて騒ぐ場を提供するべきだとレイナは考えていた。


「そうですね、そう言った理由ならばお受けいたします」

「そうか、いや正直助かるよ。私の気持ちを汲んでくれてありがとう」

「いえそんな、レイナ様は少し働きすぎなくらい御尽力されています。その手助けができると思えばこれくらい」


 レオンとレイナは暫く祭りの段取りについての相談と、談笑を楽しんだ後、国内に祭りを開く事の報せを行った。


 戦勝記念とレオンへの神器の授与、久しぶりに大騒ぎが出来るとあって国民は沸き立った。見る見る準備が進められて、提案から数日後には祭りは開かれた。




 国民は大いに喜んだ。深い傷を負ったクリスタルだが、生きているのならまたやり直せる筈だと、今日まで生きてきた。


 その気持ちを酒や食事の席で共有しあい、死を慰め合って、時に笑い時に泣き合った。


 レイナはレオンにクリスタルの神器「オリハルコンのガントレット」を授けた。クリスタルで一つだけ産出された希少な鉱石を使った。魔力を帯びた強固な防具は、手に持つ武器防具の力をより引き出す力を持っている。


 レオンは今まで手に入れた神器と、授かったガントレットを装備する。そしてエクスソードを鞘から抜き放ち天高く掲げた。


 その勇ましい姿を見て国民はまた沸き立った。勝利の象徴のようなレオンの姿は人々に勇気を与えた。


 レオンは剣を仕舞うと、隣にレイナを呼び寄せた。胸に手を置いて礼をすると、レオンは一歩下がった。そしてレイナに演説を行うように促した。


 レオンの意図を汲んでレイナは拡声魔法の込められた水晶を手に取った。


「皆今日は集まってくれてありがとう、そして日々の復興活動での活躍、クリスタルの女王として礼を述べる」


「この国は深い傷を負った。多くの国民を失い、城の家臣達も殆どが命を落とした。そして私の側近をしてくれていたアガツも、敵の手にかかり命を奪われた」


「しかし聞いて欲しい、アガツは死して尚その身を国に捧げて道を切り開いた。それだけじゃない、今回の勝利は国中の力を集結させて成しえた。私達は死した者達に託されたのだ。未来を」


「まだまだ問題は多く残っている、だが今は喜び、そして亡き人を想い悲しもう。そうしてまた未来を共に作るんだ。託された明日に向かって」


 レイナの演説が終わると拍手が鳴った。最初に鳴らしたのはレオンだった。


 それに呼応するように国民は割れんばかりの拍手と歓声をレイナに送った。感謝や感動の声を上げて、国の為に身を粉にして働く女王を称えた。


 レイナは目に涙を溜めながら国民に手を振った。そしてレオンを呼び寄せ固く握手を交わした。それを見て国民はより一層歓喜の声を上げた。


 ウガツは祭りの様子を眺めながら兄の墓前に居た。


「レイナ様のお力になれて良かった。心からそう思うよ兄貴」


 ウガツは兄の槍に酒をかけると自分も一杯飲み干した。兄弟は静かに別れを惜しむと、国の未来の為に生きる事を弟は兄に誓った。

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