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五十七話

 ソフィアはエルを連れ立ってエクストラの自室に向かっていた。


 金神から託された手がかりを調べるのに、神子として何か手伝える事があるのではないかと考えた。


 部屋の前まで来て扉をノックしようとした瞬間、扉は先に開いてソフィアとエルの二人はエクストラに部屋の中へと引きずり込まれた。


「やあやあ、呼びに行く手間が省けたよ。丁度君達神子の力が必要になった所だったからね」

「何か分かったの?」

「分かった。答え自体は案外簡単だったから、そしてこれは逆転の一手になる。その鍵を握っているのは、君達だよソフィアとエル」


 とんとん拍子に話を進めるエクストラに、二人は口をぽかんと開けて顔を見合わせた。


「取りあえず説明するから聞いていてくれ、これが上手くいけばスライムゾンビを一掃する事が出来る」




 エクストラがエルから受け取った水晶を持ち出して説明する。


「これ自体は他の水晶とは大きな違いは見受けられなかった。クリスタルでは普遍的に手に入る物だ」


 エルは驚いて聞いた。


「金神様から渡してきたのに?」

「そうだよ、そしてそれこそが金神様の真意だと私は考える」

「どういう事?」


 エクストラの言いたい事を図りかねてソフィアが聞く。


「この水晶は何の変哲もない物、しかし込められた力は特別だった。それは浄化の力だ、君たちはクリスタルで採れる水晶が何故魔法の触媒として優れているか知っているかい?」


 エクストラの問いにソフィアが答える。


「確か魔法や魔力を反発なく受け入れられるんだっけ?」

「大まかに言えばそうだ、細かい理屈は省くが、水晶はどんな力でも受け入れられて、受け渡す事もできる。この国中にある水晶に、浄化の力を込めて魔法を起動させる事が出来れば、スライムゾンビを一掃出来る」


 言葉の途中から興奮したエクストラは喜々として二人に説明する。


「スライムゾンビを解析して得た情報から、死した遺体を核として歪に再生されたゲル状の体を作っている事が分かった。本来もう動けない屍を、無理矢理再生して動かしている。核は屍でも、それを動かしているのはゲル状の部分だ」


「ならばゲル状の部分だけを吸い上げて浄化する事が出来れば、残されるのは屍だけとなる。もう無理矢理動かされる事はなく安らかに眠れる」


 エクストラは興奮のあまり途中から立ち上がって話していた。


「その魔法を今から作り上げる、だけど私にはそれを起動できない」

「何故?」

「神子が必要だ。エルにはクリスタル国の水晶に浄化の力を込める魔法を、ソフィアには国中の水晶の力を呼び覚ます魔法を、それぞれ起動してもらう。どちらも大魔法だ、二人にかかる負担も大きい、でもやってもらう」


 ソフィアとエルは頷いた。


「これが唯一の突破口だからだね」




 エクストラは自身の発案した作戦とやるべき事を全員に説明すると、自室に詰めて魔法の開発に取り掛かった。


 レイナは神子二人と研究者たちを集めて、何処で魔法を発動するべきか、魔法陣をどの程度、どれくらいの規模で書き込むべきかを話し合っていた。


 女王として国中の情報を知り尽くしているレイナは、その知識を活用して場所の選定や人員の配置に手腕を振るっていた。


 ソフィアとエルは協力して金神の反応が比較的強い場所を洗い出していた。浄化の力を満たす時に、出来るだけ無駄がないようにするために万全を期した。


 レオンとクライヴ、そしてウガツと数名の戦える者達は作戦実行時に人員の警護にあたる事になった。


 魔法を実行している間はソフィアとエルは無防備になってしまう、ソフィアにはレオンが、エルにはウガツが付く事になり、魔法を補助する研究員達を守護する人員を、遊撃隊として纏め上げて指揮を執るのはクライヴが任される事になった。


 クライヴはその役目をウガツがやるべきではないかと進言したが、自分より戦闘経験も豊富で、軍勢の指揮を執れるクライヴがやるべきだとウガツが断った。


 決められたらクライヴの行動は素早かった。誰がどのように戦う事が出来るのかを把握すると、それぞれに適した動きが出来るように隊を作り上げ、実戦を想定した訓練を施していた。


 レオンはウガツと手合わせを行っていた。


 ウガツは身の丈程ある剛弓をつかい、重さを感じさせない素早く正確な射撃に、接近しても刃が取り付けられた弓幹を振るい、近距離も隙の無い使い手であった。


 それぞれが準備を進め、エクストラの魔法の完成を待った。


 各部署の作戦が煮詰まる頃、自室の扉が開かれてエクストラが出てきた。待ち望んだ逆転の一手を作り上げたエクストラは、準備完了済みの全員に向かって宣言した。


「反撃開始だ!」


 皆がその言葉に頷いた。覚悟と決意に満ちた人々の瞳は、クリスタルの明日を取り戻す為の闘志に燃えていた。

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