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五十四話

 エクストラは研究の傍らで認識阻害の魔法が込められた水晶を作り上げた。


 それを受け取った四人はエクストラから説明を受ける。


「これを持っていればスライムゾンビから認識されない、どの型にも効果があるのは確認済みだが、近づきすぎると気付かれてしまう。感づかれないとは言え細心の注意を払ってくれ」


 水晶は首から下げられるように紐が付けられていた。四人は首にそれをかける。


「それとソフィアとエルはなるべく魔法を使わないようにしてくれ、水晶と干渉して不具合が起きる可能性がある」


 エクストラの注意を聞き二人は頷いた。


「戦闘は避けて、目的だけを達成する事を心がけて欲しい。魔法は完璧に仕上げたが、突貫で作った事に変わりはないからね」

「分かりました。お任せください」

「俺も承知した」


 クライヴとアガツの返事を聞いて、エクストラは満足そうな顔で言った。


「君達ならば成し遂げられると信じているよ、私も頑張るから皆も頑張ってくれ」




 アガツが前に立ち、その後ろにソフィアそしてエル、殿はクライヴが務める事となった。


 アガツは先行して道案内をする、エクストラが開発した魔法の効き目は抜群で、道中スライムゾンビに一行の存在が感知される事はなかった。


 敵を避けながらの回り道で移動に時間はかかったが、道中の戦闘は完全に避ける事が出来た。


 王城に辿り着いてアガツが一行を制して話しかけた。


「皆さま少しお待ちを。王城内には多くのスライムゾンビが蔓延っています。それらを避けて通るには通路は狭い」

「ではどうしますか?」

「裏口を使います。限られた者のみが知る抜け道で、厳重に護られている。敵に出くわす事無く潜入できるかと」


 アガツの提案に皆同意した。城内に一番詳しいのはアガツだったので、信頼するしかなかった。


 城の周りをぐるりと移動し、裏に回る。アガツは城壁に空いた小さな穴にレイナから預かった鍵を挿しこんだ。


 城壁の一部が少しだけ奥に凹み、そのまま横に移動すると薄暗い通路が現れた。アガツは急ぐよう皆に指示して、全員が入ったのを確認すると扉を閉めて、挿しこまれた鍵を内側から抜いた。


「急ぎましょう、各通路に出られる作りになっています。ご神体があるのは王座の間の奥です。ついてきてください」


 アガツの後を追い迅速に行動を進める、王座の間に繋がる通路に出ると、溶解型と人型が何体か固まっていたが、避けて進むのに支障はなかった。


 慎重に敵を避けて王座の間の扉をゆっくりと開ける、一行は気付かれる事なく王座の間まで辿り着く事が出来た。


 王座の間は他の場所と違い、スライムゾンビの影も形もなかった。がらんとして静まり返っていた。


 アガツは王座の裏に回り、隠し扉を開ける仕掛けがなされた取っ手を捻る。またしても隠し通路が現れて、その先の部屋にはエルが見た鉱石が置かれていた。


「すごい…」


 エルが思わず声を漏らしたように、その鉱石はとても神秘的で荘厳な物であった。


 大きな鈍色の鉱石に覆われた中には、色とりどりの水晶が集まって形成されている。時たま水晶の色が揺らめく、生きて意思を持っているかのようだった。


「エル様、急いで始めてください。敵がいないとは言え危険がない訳ではありません」

「私とアガツ殿で警戒に当たります。ソフィア様とエル様は儀式に集中してください」


 そう言うと、アガツは背負った槍を、クライヴは大剣を鞘から抜き放ち構える。後ろは二人に任せて、神子達は目の前の事に集中する。




 ソフィアとエルは金神との接触が成功した方法をもう一度試す。


 しかしその方法では全く反応がなかった。ソフィアの神授の杖も輝かず、土神の紋様も現れなかった。


「方法が違うのか、だけどエルが見た鉱石は合ってるのよね?」

「それは確かです。でも、反応がないのは何故でしょう…」


 ここまで危険を冒して来て、見当はずれの事をしていたとしたら、そんな考えがエルの頭をよぎった。


「金神様が見せた事に意味があるのは間違いない、何か、何かがある筈なの。なら何が足りないのだろう」


 ソフィアが考えこんでぶつぶつと声を出す。エルも考えているが見当がつかなかった。


 それでも何か出来る事が無いかとエルは鉱石を眺めてみる、目を奪われるような美しさと、神秘的な輝きは、確かに神を思わせる物だと思った。


 ビリっと静電気のような刺激がエルの頭に走った。エルは痛みに思わずよろめいて鉱石に手をついてしまった。


 エルが目を開くと、そこはすでに先ほどの場所とはまったく違う所であった。


 そこは神域、神子が神と対話をする際に訪れる場所であった。エルにとってはなじみがある場所ではあるが、いつもとは訪れる際の手順がまったく違った。


 狼狽えてきょろきょろと辺りを見渡すと、暗闇に一筋の光が差し込んでいた。


 エルはその光の先に近づいていき、地面を見た。そこにあったのは掌に収まる程の小さな水晶だった。


 エルがそれを拾い上げると、頭の中で声が響いて来た。


「それを塔の賢者に渡してください、それですべてが分かる筈です」

「金神様!?何処?何処におられるのですか!?」

「エル、頼みましたよ…」


 金神の声が遠くなっていく、エルは必死に呼び止めるが、その声は空虚に響くばかりで、段々と意識が遠のいていく。


 次第にエルが金神を呼ぶ声から、誰か別の人がエルの名を呼ぶ声に変わる。


「エル!エルッ!しっかりしてエル!」

「あれ?ソフィア様…?」


 倒れたエルの頭を膝に置いて、ソフィアはエルに呼びかけ続けていた。エルは自分が鉱石に触れた途端に倒れて気絶していたと教えられた。


「目を覚まして良かった…怪我はないエル?」

「それは大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ありません」


 エルがソフィアの膝から起き上がろうとすると、手の中に何かを持っている事に気が付いた。


 手を見ると水晶が握られていた。あの神域での出来事が現実であったと教えてくれた。


「ソフィア様、見つけました。これが手がかりです」

「え?」

「私どうやら金神様に神域に呼び出されていたようで、そこでこれを塔の賢者に渡すようにと言われました。きっとエクストラちゃんの事です」


 自分が呼ばれた理由はこれだとエルには確信めいたものがあった。ソフィアも手がかりが手に入ったのなら何よりの事だと言って、エルを立ち上がらせた。


「じゃあ早く戻ろう」


 そうソフィアが言った時に、後方で大きな音が響いた。いつの間にかクライヴとアガツの姿が無く、急いで二人は部屋から出た。


「お二人共!お下がりください!」


 クライヴが叫ぶ、アガツが槍を構えた先には、幼い少女の姿をした誰かが、竜型のスライムゾンビの頭に乗って笑っていた。


「あらまだ人が居たのね、アタシはこの国を滅茶苦茶にした張本人のリインよ、よろしくね」


 竜型のスライムゾンビを三体従えてリインが四人を見下ろしている。その薄ら笑いは見る者の神経を逆なでする憎たらしさがあった。

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