五十三話
レオンとクライヴが戻ってきてレイナの元に訪れたのと、ソフィアとエルが先の情報を掴んで伝えに来たのは、偶然にも同時であった。
戦闘の痕跡を見てソフィアは二人に駆け寄った。
「二人共怪我はない?」
「ああ、どっちも大丈夫だ」
レオンに言われてソフィアは胸を撫でおろした。
「ソフィア、よろしいですか?」
「すみません女王様、つい…」
「いいのです。仲間を心配する気持ちは抑えられるものではありません」
レイナはソフィアに微笑んで優しく諭した。
「レオン、クライヴ、こちらは我が国の神子エル。どうやらお互いに情報を手に入れたようですので、今ここで聞きましょう」
「分かりました。では私達から」
レオンは作戦の成功についての報告を始めた。
レオンとクライヴそれぞれから話を聞いてレイナは頷いた。
「二人が無事に作戦を遂行された事、何よりです。エクストラは何と?」
「エクストラちゃんは我々に目もくれず研究に没頭しています。他の研究員達と一緒になって必死に手がかりを探していますよ」
その様子が目に浮かぶようだとレイナは苦笑いをした。
「エクストラの様子は後で私が直接確認しに行きます。まあ暫くは話も出来ないでしょうが」
レオンとクライヴも苦笑いを返した。二人共すっかり無視された後なので、レイナの苦労が窺い知れた。
「ではエルとソフィアの話を聞かせてください」
話を振られた二人は、先程の試みで得た情報をレイナに説明した。
「金神様からの接触に成功するとは、エル、よくやりましたね」
「そんな、ソフィア様のお陰です。でもありがとうございます」
ソフィアは笑顔でエルを見つめると、レイナに向かって聞いた。
「それでレイナ様、エルが見た鉱石に心当たりはありますか?どうやら発掘されているようなのですが」
ソフィアの問いにレイナが答える。
「それは恐らく金神様のご神体でしょう、王城にて祀られていますが、何分緊急事態で重量もあり持ち出す事は叶わなかったのです」
やはり心当たりがあったとソフィアとエルは喜んだ。しかし、レイナの表情は暗かった。
「王城は今やあの魔物で占拠されています。近づくのは不可能と言っていいでしょう、それにご神体には魔法の類は効きません。転送の魔法でこちらに送る事も出来ない」
「方法としては王城に赴くしかないと?」
「そうです。それにエルも連れてです。金の神子が居なければ意味がないでしょう」
レオンの問いに答えたレイナは、それがどれ程無謀な事か分かっていた。それ故に浮かない顔をしていたのだった。
『その問題、このエクストラちゃんが解決してあげよう』
その場にいた全員が驚いて見まわすと、不可思議な派手な色味の鳥が羽ばたきながら喋っていた。
「あれはエクストラの使い魔だ。いつからいたんだ?」
『まさかまさかの最初からさ、今も作業しながらの会話で失礼』
エクストラは自分の研究と並行して、話を聞きながら解決策を講じていた。
「エクストラちゃん、解決するってどういう事だ?」
レオンが聞くとエクストラは答えた。
『こちらで今スライムゾンビの解析究明を行っている、その成果の一つと言ってもいいんだが、どうやって辺りの様子を探っているかが判明した。それを阻害する魔法が作れれば見つからずに移動する事が可能だ』
エクストラは簡単に言ったが、レオンとクライヴは驚きが隠せなかった。
「もうそこまで分かったのですか?」
『まだそこまでだよクライヴ』
レオン達がスライムゾンビを捕獲してからそれ程時間は経っていない、エクストラの規格外な実力に、捕獲してきた二人は驚きが隠せなかった。
「それは完全に安全な物として使えるのか?」
レイナはそれに慣れているのか、特に驚きもせずにエクストラに聞いた。
『使える。もう試したから』
「詠唱して使うものか?それとも水晶を用いるものか?」
『水晶がいいだろうね、持ち運びが出来るし、常時展開が可能だ』
「何人分用意出来る?」
『作れて四人分だ。人数が増えればその分精度が落ちる』
レイナとエクストラの会話を、レオン達一行はぽかんと口を開けて眺めていた。
「あ、あの、お二人はいつもあんな感じなんです。エクストラちゃんとあれだけスムーズにやり取り出来るのはレイナ様だけです」
レオン達にそう教えたのはエルだった。
「そういえばきちんとした自己紹介がまだだったな、レオンだ。こちらはクライヴ、共にソフィアの仲間だ」
レオンとクライヴはエルに手を差し出してそれぞれ握手を交わした。
「クリスタルの金の神子エルです。ソフィア様にはお力を貸していただきました」
「エル、ソフィアでいいってば」
「そんな恐れ多いです…」
エルとソフィアは短い間にすっかり打ち解けていた。楽しげにやり取りをする二人を見てレオンは安心して溜め息を漏らす。
「どうしたのレオン?」
「いや、ソフィアは誰とでもすぐ打ち解けられるなって思ってさ、凄いよ」
レオンの言葉に照れ笑いを浮かべるソフィアを見て、エルはぴんと来てクライヴにこっそりと近づいて話す。
「もしかしてお二人はそういう関係ですか?」
「いえ、お互い意識しあっていますが、この事に関してはレオン様もまだまだですね」
そう言ってクライヴはエルに笑いかけた。エルもそれにつられて笑顔を見せた。
「皆、話はまとまった。聞いてくれ」
レイナがエクストラとの話を終えて皆を呼んだ。
「エクストラに認識阻害の水晶を四人分用意してもらう事になった。王城へと潜入して金神様のご神体に接触してもらう事にする」
レイナはそう宣言すると、潜入に当たっての人員を口にした。
「メンバーはすまないが私の方で決めさせてもらった。意見があれば遠慮なく言ってくれ、しかし確定で行ってもらうのはエルとソフィアだ」
それについては二人の神子は覚悟の上であった。
「残りはクライヴと、私の側近の一人アガツに向かってもらおうと思う」
「失礼ですがレオン様ではなくですか?」
クライヴが意見を述べた。
「ああ、王城内部に詳しい人員が必要だ。エルはご神体を目にした事は無いだろう?」
レイナに聞かれてエルは頷いた。
「それを踏まえると内部に詳しくて、護衛としても戦力としてみれるアガツをつけるのが適任だと思う、ご神体への場所も知っている」
レイナの意見を聞いてレオンは妥当だと判断した。クライヴも納得したようでそれ以上意見を述べる事は無かった。
ご神体への接触、その任務の為に選ばれた四人は準備を進めた。やっと手に入れた手がかりの切っ掛けを確実に掴むと固く覚悟を決めた。




