五十二話
エクストラのスライムゾンビ捕獲作戦をレオン達が成功させている裏で、ソフィアは金の神子と共に金神との交信を試みていた。
とは言っても結果が出ている訳ではない、金神は交信の呼びかけに応じず沈黙している。
「ソフィア様、やはりだめなのでしょうか…」
ソフィアに話しかけてきたのは、クリスタルの神子エルだった。
エルはクリスタルでは珍しい人間だった。更に珍しいのは、代々竜人が神子を担っていた中で、初めて別の種族から出た神子だった。
「分からないわね。金神様の存在は感じられるけど、やっぱりクリスタルの現状が金神様の力を弱めているのでしょうね」
ソフィアは木、火、土の加護を得た事で神子の力が強まっていた。それでも尚金神の存在しか感じられない、現状は深刻だと考えていた。
「本当にそうでしょうか?」
「え?」
エルの言葉にソフィアが聞き返す。
「わ、私の力が弱くて足りないからじゃないでしょうか、私は今までの神子と違って竜人じゃないし…」
ソフィアはエルの言葉に既視感を覚える、火の神子ベリルも初めて出会った時、自分の力不足だと嘆いていた。
尤も、それは神子という役割を担う者は皆思う事だった。神と人とを繋ぐ唯一のパイプ役というのは、自然とプレッシャーを感じてしまう。
ましてやエルはクリスタルでは前例のない人間の神子で、余計にそう言った感情に敏感になりやすい、周りの人にその気がなくとも、彼女にプレッシャーを与える発言をする者も多かったのだろうとソフィアは思った。
「やめやめ!エル、そんな事考えるのはやめなさい」
「で、でも…」
「でもも何も無いわ!エルは正式に選ばれた金の神子、誰がなんと言おうと貴女の代わりを出来る人は居ないの」
ソフィアはそう伝えてエルを励ますが、それでも暗い顔をして俯くエルに、優しく語りかけた。
「エル、貴女とは状況が違うけど、似たような悩みを抱えた幼い神子が居たわ。自信が無くて引っ込み思案で、すぐに閉じこもってしまう困った子だけど、優しくて誰よりも努力が出来る子だった。自分に出来る事を探し続けれる子よ」
ソフィアはウルヴォルカで経験したベリルとの思い出話をエルに語った。ベリルはだらしのない所もあるが、努力家で優しい気配りの出来る普通の子であった。
「神子として選ばれた事は特別でも、選ばれた人が特別である必要はないの。貴女には貴女のやり方がある、勿論私もそう」
ソフィアの話を聞いてエルの表情も少しだけ明るくなった。そんなエルに優しく微笑みかけてソフィアは肩に手を置いた。
「問題は金神様の力が弱まっている事、私達に声も届けられないという事は相当な事。だから私に少し考えがあるの」
「考えとは?」
「貴女の力が必要よエル、私に協力してくれる?」
エルは頷くとソフィアは笑顔で返した。
二人は瞑想の為に作られた場所に入った。研究塔に作られた簡易的な物だが、十分だった。
「エルは瞑想に入って、ただひたすらに金神様に呼びかけ続けるの。集中を切らしたら駄目よ」
「分かりました。しかし、ソフィア様は何を?」
「さっきベリルの話をしていて思い出した事があるの、だからそれを試すわ」
ソフィアに促されてエルは瞑想に入る、集中力を高めて意識を深く深く沈めていく、エルのそれはソフィアから見てとても洗練されていた。
「凄いわエル、貴女はやっぱりちゃんと選ばれたのよ」
ソフィアはそう心の中で思うと、神授の杖を構えて詠唱を始めた。
『星の神子ソフィアが願い奉る、地底ふかく眠る金鉱よ、我が土の加護をもって呼びかけに応えたまえ』
神授の杖に付けられた宝珠が黄色に光輝く、そしてソフィアの右手の甲にも土神を表す紋様が現れた。
ソフィアが思いついたのは、以前ウルヴォルカで火神から授かった種火を大きくする為にベリルが考えた方法だった。
木は火が燃えるのを助ける、希望の種火を作り上げた時に使った方法を、応用できると考えた。
大地は鉱石を生み出す。土神の加護を金の神子であるエルに施せば、祈りの力を強める事が出来るかもしれない、少しでも交信に成功すれば、何か切っ掛けが掴めるかも知れないと考えた。
黄色の光がエルを包み込む、祈りを続けるエルに呼応するように、光は強く輝きを増し始めた。
「はぁっ!!」
集中していたエルが声を上げてうなだれた。息が乱れて額に大粒の汗をかいている、ソフィアがすかさず駆け寄って背中をさすり落ち着きを取り戻させる。
「どうしたのエル!?何があったの?」
「何かが見えました。呼びかけに応えてくれた訳ではないのですが、何か私の頭の中に強いイメージを送りこまれたようで、少し驚いてしまいました」
エルが見た物は大きな鉱石であった。それは地に埋まっているのではなく、クリスタル国内の何処かにある、エルが受け取ったイメージはここまでだった。
「大手柄よエル、金神様はお声を届ける事が出来なかったけど、貴女を通じて自らの力を取り戻す手がかりを伝えてくれたんだわ」
「そんな、ソフィア様のお陰です」
エルは謙遜したがソフィアは素直に褒めた。自分は手助けしただけ、金神からの情報を受け取る事が出来たのは金の神子であるエルだけであった。
「この情報をレイナ様に伝えましょう、私達には見当がつかなくても、あの方ならきっと何かを知っている筈」
ソフィアの言葉にエルは強く頷いた。掴んだ切っ掛けが希望になるか定かでなかったが、エルにとっては自信に繋がる確かな成果であった。




