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五十話

 クリスタルの魔法研究塔に辿り着いたレオン達、国で起きた事柄を聞いて、次なる手を欠きこまねいている現状を打破するべく、出来る事を探す為に行動を開始する。


「ちなみにエクストラさん」

「エクストラちゃんね」


 質問しようとしたレオンの言を遮ってエクストラが訂正する。逡巡の後レオンは言い直して聞いた。


「エクストラちゃん、スライムゾンビって名称は?」

「便宜上の名称だね、名前が無いと不便だから。見た目はスライム、生き返るからゾンビ、まんまだけど分かりやすいでしょ?」


 レオンは得心がいって頷いた。


「では俺達もスライムゾンビと呼ばせてもらおう、あの魔物の事で分かっている事は?」

「元はクリスタルに住む国民だ、逃げ遅れた保護しそこねた人々が殺されて復活させられた。復活と再生を繰り返された結果体の殆どがゲル状になり、歪に治療された精神は、見境なく目についたものを殺す。魔物同士で食い合い、分裂して増えるようになったのは理由は分からない」


 聞くほどに魔族の醜悪なやり口にレオンは気分が悪くなった。尊厳を奪い生命を侮辱する、オールツェルで行われている事を知っているレオン達に対して、クリスタルの女王レイナはそれを目の前で行われた。心中は察するに余りある。


「レオン、私は最悪この国を救えなくとも、彼らは静かに眠らせてあげたい。私が不甲斐ないばかりに被害を広げてしまった。せめて、せめて苦しみから解き放ってあげねば」


 レイナは神妙な面持ちで言った。現状を打破するにしても最悪の場合を考えてしまうのだろうとレオンは思った。


 今生きている人の命を危険に晒してしまう事は避けたいとレイナは考えていた。


「兎に角、私達は生き残る事に必死だった。しかし今、宝剣を持つレオンと三神の加護を得た星の神子、そして最強と名高いクライヴが来てくれた。行動を起こすなら今じゃないかい?」


 エクストラがレイナに向かって言う。


「それは私も同意する。ソフィア、我が国の金の神子と協力して金神と交信を試みて欲しい」

「分かりました。すぐにでも取り掛かります」

「うむ、アガツよソフィアを神子の元へ案内しろ」


 命令されたアガツと共にソフィアは神子の元へ向かった。


「レオン、我が国の神器オリハルコンのガントレットを授けたいのだが。神器を保管してあるのは王城なのだ。スライムゾンビが溢れかえる今、確保するのは難しいだろう」


 レイナはすまないとレオンに謝罪する。


「そんな、謝る事はありません女王様。今はこの国の危機が先決です」


 レオンの言葉にレイナは礼を述べるが、その表情は暗く重い、事態の責任を感じているのだとレオンには分かった。


「レイナ、取りあえず今出来る事からしたいから、レオンとクライヴを借りていくよ」


 エクストラはそう言うと二人について来るように手で指示した。出来る事があるのならと二人はエクストラについて行った。




 エクストラに連れられて来たのは自らの研究室だった。様々な水晶や薬品の瓶、大量に積まれた本が乱雑に置かれている。


「いやあ汚い部屋で悪いね、しかし今から頼む事をレイナに聞かれる訳にはいかなくてね」

「エクストラ様、それはどういう事ですか?」

「エクストラちゃんね、エクストラちゃん」


 エクストラはクライヴに訂正をしたが、クライヴはそれを断固断った。性格上それは出来ないと、懇々と説明して納得させた。


「まあ仕方がない、クライヴは特別に許してあげよう」

「感謝します。それでエクストラ様、レイナ様に聞かれてはならない事とは一体?」


 クライヴに聞かれてエクストラは頷く。


「二人には外に居るスライムゾンビの捕獲を頼みたい、どうあれ敵を知らなければならない」

「それは構わないが、どうしてレイナ様に知られたらいけないんだ?」


 レオンが聞くとエクストラは俯いて答えた。


「私達研究塔にいる人間達は、自らの知的好奇心や探究心のみを追求する事ばかりを考えている。言ってしまえば変人ばかりだ、融通は利かないし、社会に馴染む事の出来る奴の方が少ない」


 エクストラは机の上に置かれた水晶を手に取って続けた。


「そんな私達を、魔法学の発展に必要不可欠と言ってくれて、この研究塔と魔法の触媒に最適な水晶を提供してくれた。私たちを必要としてくれたレイナに皆恩義と感謝を感じているんだ」


 そう言ってエクストラは真剣な眼差しで二人を見つめた。


「だから私達はレイナに協力がしたい、だけど自分達に出来る事と言えば研究と実験だけなんだ。その過程で非道な事をする事もあるかもしれない、私はそれを必要な事だと断言できるが、レイナは今そう思えるか分からない…」


 エクストラが言いたい事が分かった。外に居る魔物スライムゾンビの元はクリスタルの国民であり、姿形が変わっていようと、究明の為に割り切れるエクストラ達と、現在追い詰められているレイナでは受け止められないだろうと、エクストラは考えていた。


「エクストラちゃん、言いたい事は分かった。協力もする」

「あ、ありが…」

「でも!レイナ様に相談しないのは駄目だ。気持ちは分かるけれど、俺はちゃんと話し合って進めるべきだと思う」


 レオンの言葉にエクストラは俯く。


「しかし、私達がする事にレイナは…」

「確かに割り切る事は難しいかもしれない、だけどエクストラちゃんはレイナ様と国を思って行動しようとしているんだ。その気持ちをちゃんと伝えよう」


 エクストラはレオンに言われて狼狽える。


「私も賛成です。エクストラ様、やるならば皆で力を合わせましょう。その方がきっとエクストラ様の負い目も消えましょう」


 研究塔の人々は、研究に熱心するあまり国の異変に気が付く事が出来ないと言っていた。クライヴはエクストラがその事を負い目に感じている事に気が付いていた。


「一緒に行こうエクストラ」


 差し出されたレオンの手を取って、エクストラは覚悟を決めた。

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