四十九話
結晶の国クリスタルの魔法研究塔に辿り着いたレオン達は、そこに居たのは竜王妃レイナと生き残りの避難民、そして研究塔の職員達であった。
レオン達は一度レイナが居る部屋に通された。そこには少数の女王の側近と、研究塔に入る魔法を使った白衣を着たエルフが居た。
「改めて自己紹介を、私はレイナ、そして白衣の彼女は研究塔の最高責任者のエクストラだ」
「どうも~エクストラちゃんですよ。仲良くしてね」
エクストラは三人にそれぞれ握手をした。しかしぶかぶかの白衣から手は出ておらず、白衣越しの握手だった。
「側近の二人はアガツとウガツと言う、寡黙だが勇猛な竜人だ」
紹介された二人は黙って頭を下げた。常にレイナの後ろをついて回り、警戒を怠らなかった。
「私はオールツェル王国の王子レオンです。彼女は星の神子ソフィア、そして彼は騎士クライヴです」
レオン達は自分達の自己紹介をする、レイナはオールツェル王国の生き残りがいる事を素直に喜んだ。
「よくぞ生きていたレオン、噂では聞いていたがこうして対面出来た事喜ばしく思うぞ」
「噂ですか?」
「そうだ。オールツェルの王子が、宝剣エクスソードを手に魔族魔物と戦っていると聞き及んでいた。魔族復活の報せは絶望的であったが、お前達の活躍を聞いて我々も希望を捨てずにいられたのだ」
自分達の行動が遠くクリスタルの地に及んでいたとは思いもしなかった。
「しかし、一体クリスタルに何があったのですか?」
それだけにレオンはこの惨状の原因が気になった。
「そこが問題だ。エクストラ、説明する記録水晶をだせるか?」
「もっちろん、今の今まで役立たずだった分頑張らせてもらうよ!」
エクストラは小さな鞄から、それに入りきらない大きさの水晶玉を取り出した。水晶玉を撫ぜると宙に映像が映し出された。
「事の始まりは一人の魔族、リインと名乗った少女のような見た目の悪魔が作り出した魔物が、この最悪の状況を作り出したのさ」
リインが現れた事を察知したレイナは、すぐさま討伐隊を纏め上げて事に当たった。
魔族リインの狙いはクリスタルで産出される貴重な資源だった。水晶や鉱石、使いようによってはどんな事にも応用できる。
資源を簡単に渡す訳にはいかないレイナは迅速だった。国の精鋭を集めてすぐさま討伐した。
リインは呆気ない程簡単に討ち取られた。犠牲になったのは数人、それは手ごたえがなさすぎて不気味なほどだった。
しかしそれがリインの狙いだとは分かる由もなかった。
倒れた兵の一人が立ち上がって隣の兵士を斬り殺した。すぐさま制圧されたかと思うと、斬り殺された兵士が起き上がって後ろから襲い掛かった。
現場は大混乱に陥った。味方である筈の犠牲者が起き上がって襲い掛かってくるのだ、そして仕方がなく始末された味方がまた立ち上がり襲い掛かってくる。
味方が敵に転じて味方を殺しまた敵を増やしていく、そんな負のループから統率は崩れ去り兵は散り、敗走した。
そしてリインは起き上がった。致命傷を負った筈の体はすっかり元通りに治っていた。しかし起き上がったリインを討伐する筈の兵はすっかり消え去った。
リインが持つ能力は蘇生と治癒再生能力であった。死傷した兵士を密かに蘇生させ、治癒能力を使って歪に体を再生させた。脳や神経を過剰に回復させ理性の暴走を引き出した。
死傷した兵士は、生き返ってはいるがそこに感情や人間性は無く、見境なく襲いかかるだけの魔物へ転じた。
そしてはた目から見ると、死んだ兵士から襲われると魔物に転じるように感じる。実際はリインによって歪に再生されているだけだが、伝搬する混乱が正常な思考を奪う。
兵士たちのリインに対する警戒は高まった。手を出そうにも出せない状況はリインにとって好都合だった。
復活させた兵を使って次々と人々を襲い始めた。人が死ねば死ぬほどリインの手駒は増えていく、討伐されてもまた歪に蘇生させ再生させる。そうして出来上がった異形のゲル状の魔物は、クリスタルを恐怖の底に突き落とした。
さらに蘇生や再生を繰り返し使ったリインは、どんどんその力を使いこなしていった。自分が思うままに力を使い人々を操れる、より歪により異形に、殺しては再生を繰り返しスライムゾンビを作りだしていった。
襲えば襲う程増える手駒相手に、クリスタルは多勢に無勢に陥った。王城は陥落し、生き残りはどんどんと数を減らしていった。
レイナは生き残りをかき集めて魔法研究塔に避難した。研究に没頭していて外の様子に気が付かなかったエクストラは、すぐさまレイナ達避難民を保護した。
そして国はスライムゾンビに覆い尽くされていき、その労働力を使ってリインは資源を奪い、国を荒らしつくして去っていった。
荒廃した国土と残されたスライムゾンビが跋扈する、クリスタルは滅びかけの国となった。
「とまあこんな具合で、クリスタルに今残されたのは荒れた国土と数少ない生き残り、そしてあまり役に立たない研究塔の我々という訳だ」
エクストラは自嘲気味に笑い、現状の説明を終える。
余りにも悲惨な状況にすぐには言葉は出なかったレオン達だが、それでも人が生きているのなら諦めるつもりはレオンには無かった。
「考えましょう、皆で。この国を救う方法を」
どれだけ絶望的だとしてもレオンは諦めない、それがエクスソードに選ばれた自分の使命でもあり、レオンが願う事であった。




