表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/80

四十八話

 グロンブの商人街で必要な物を買い揃え、レオン達は結晶の国クリスタルに向けて出発した。


 結晶の国クリスタルは、世界で採れるすべての鉱石を産出する国で、ウルヴォルカの鍛冶師はここで採れた鉱石を使って鍛冶を行っている。


 国中に生えた結晶は、魔石と違ってそれ自体は力を持たないが、魔法と魔力との親和性が高く、魔法の威力を強めたり弱めたり、魔法の性質を変化させたりすることが出来る。


 それ故に魔法の研究を大々的に行う、魔法研究塔という巨大な建物と組織があり、新たな魔法の開発や、失われた呪文の再現等の研究を魔法の扱いに長けたエルフと共に行っている。


 クリスタルに主に住んでいる竜人は、竜と人間の血が混ざりあい出来た種族で、人の姿と竜の姿を持つ。


 力強く頑強、身体能力も高く、竜の姿になればブレスと呼ばれる、火炎や凍える吹雪を吐き出す事の出来る、単身での戦闘力に長けた種族だ。


 その中でも、クリスタルの王である竜王妃レイナは、類稀な竜としての高い資質を備えていて、魔法についての理解も深く、国と研究塔の発展に大きく貢献した賢王であった。


 クリスタルで一体今どんな事が起きているのか、レオン達は旅路を急いだ。




 長い時間をかけてクリスタルに入国できる手前までやってきた。


 国の関所の門は開け放たれ、人の姿は無い。恐ろしくなる程静かなその場所に、一行は恐る恐る近づいて行く、建物内には何の気配も無く、人も物も何も残っていなかった。


「これはただ事ではありませんね」


 クライヴが様子を見て呟く、レオンもソフィアも同じ感想を持った。そこに人が居たと思える痕跡が残っていない、その事が恐ろしかった。


「取りあえずここはまだ入り口に過ぎない、国内の中枢に行ってみよう」

「ええ、研究塔も中心部にあると聞いたから、急ぎましょう」


 レオン達は頷いて歩き始めた。情報に聞く国内の様子を目で確認してみなければならない、そう覚悟を決めて足を踏み入れたのだが、そこで目にした事柄に全員絶句する事となる。




 レオンがまず感じたのは、多すぎる程の魔物の気配だった。総数が把握できない程の大量の魔物、そして確認した外見は信じられないものだった。


 大小様々な緑色のゲル状の魔物が、国中を彷徨い歩いていた。


 人型をかろうじて保つものもいれば、完全に溶け落ちた塊が地を這っている。竜の姿のまま体が溶けかけていて、所々がゲル状になって体からぼとぼとと落ちているものもいた。


 そして魔物同士が食い合いを始め、襲い合い、取り込んだ魔族から分裂して、新しいゲル状の魔族が生まれる。そんな光景が繰り返されていた。


「話には聞いていたが、これは…」


 レオンの呟きに誰も答える事は出来なかった。人の姿もなく、不気味な魔物が国中を覆い尽くしている。


 クリスタルが滅んだと言われても納得してしまうような惨状だった。実際レオンに人の気配は感じられなかった。


 クリスタルにある王城にも人が居そうな様子は無かった。明かりも灯っておらず、ソフィアの遠見の魔法で確認しても姿は無かった。


 レオン達は一度話し合う事にした。


「見た限り人は居ないな」

「ええ、何処もかしこも魔物だらけで人の姿は見当たりません」

「ソフィア、一応聞くが魔物の正体は分かるか?」

「駄目ね、どんな魔物とも似ても似つかない、判別はつかない」


 見た限りの様子からも、国内をゲル状の魔物で制圧された事は間違いなさそうであった。


「ただ、商人達から話を聞くに、魔法研究塔には何かしら人の気配があるって言っていたな」

「念話の魔法の反応があったと言っていました」

「研究塔は危険な実験や、重要で秘密裏な研究を行う事もあるから、頑丈で複雑な作りになっているって聞いた事があるわ。もしかしたらそこに住人が避難しているのかも」


 三人は話し合いの末、魔物達の中を突っ切り魔法研究塔を目指す事にした。


 魔物の数が多すぎる為、すべてを相手取るには手が足りない。火力を集中させて、研究塔まで必要最低限の戦闘で進む事となった。




 クライヴが左腕を構えて前に立つ、その後ろにレオンがエクスソードを構えて待ち、ソフィアが魔法を唱えていた。


『燃え盛る火神の加護よ、力集いてかの身に宿り、その火を灯せエンチャントファイア!』


 神授の杖から放たれた火の魔力がクライヴの左腕に宿り、義手の魔石が赤熱していく。


「行きますよっ!!」


 クライヴの掛け声と共に左腕から放たれた火炎光線が、進む先の魔物を焼き尽くし蒸発させる。


 密集していた魔物に出来た隙間をレオンが飛び出して突っ込んで進む、その後をソフィアとクライヴが続いた。


 襲い掛かる魔物を斬り捨てながら進んで行く、倒す事が出来なくとも構わず前に進む、兎に角研究塔に辿り着く為に走った。


 左右から竜型のゲル状魔物が、口を開いてブレスを吐く構えをする。ソフィアは咄嗟に魔法を唱えた。


『隆起せよ大地、我が身を守る盾と化せ、ロックシールド!』


 地面から大岩が盛り上がり、ブレス攻撃の通り道を塞いだ。レオン達が走りきるまでブレスを防ぐと、大岩は魔物の方へと倒れて、その重さで何体かを押しつぶした。


「見えたぞっ!」


 レオンが後ろをついて来る二人に声をかける、研究塔の入り口の大きな扉が見えた。


 急いで駆け込んでレオンは扉を開けようとする、しかし押しても引いても扉はびくともしなかった。


 当てが外れた事に焦り、後方からはゲル状の魔物が大挙して押し寄せてくる。絶体絶命かと思ったその時、レオン達の足元に魔法陣が現れて光ると、気が付いた時にはレオン達は塔の中へと移動していた。


「いやあごめんごめん、外の扉は偽物なんだ。ここに入るには専用の呪文が必要でね、間に合って良かったよ」


 そう話しかけてきたのはぶかぶかの白衣を着て眼鏡をかけた一人の女性エルフだった。突然の出来事に全員ぽかんと口を開けていると、美しい女性の竜人がすっと現れた。


「皆さまをお待ちしておりました。私はクリスタルの女王レイナ、まずは無事ここに辿り着けた事を喜びましょう」


 レオン達はクリスタル最後の砦、魔法研究塔へと辿り着いた。これから滅びかけの国クリスタルを救うため奮闘する事になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ