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四十六話

 アルフォンの準備が整った所で、レオンとソフィアが呼び出された。クライヴは傷の治療は済んだが、体力回復の為に休んでいる事になった。


 呼び出された場所は神の死骸が封じ込められていた場所だった。元々のこの場所は交信の為にある場所だが、土神の力が強く及ぶ場所でもあった。


 だからこそこの場所に神の死骸は置かれていた。


 アルフォンはまずレオンに神器を渡した。


「それは神器大地のグリーブ、地に巡る魔脈からの力をより体に取り込む助けとなり、他の神器と共鳴してその力を増幅させる」


 神器を受け取り装備したレオンは、バフに指導された時に感じた魔力とは比べようもない程の力が体に流れ込んでくるのを感じた。


 グロンブに流れる魔力量が多い事もさることながら、大地のグリーブを身に着けた事により、それをより多く吸い上げて体に行き渡らせた。


「どうだい?何か不調はあるかい?」

「いや不調はない、ただ流れ込む力に戸惑っているんだ」


 バフから基礎を教わって力を取り込み利用する術を得たが、その許容量がさらに増えたようにレオンは感じた。


「徐々に慣れていくさ、エクスソードもそれを助けてくれるし、星の神子であるソフィアが土神様の加護を授かればもっと力は強まる」


 アルフォンは驚いて体を動かし確認をしているレオンに気付かれないように、こっそりソフィアに近づいて耳打ちした。


「嬉しそうな感情に溢れているけど、何かいい事でもあったかい?」


 指摘されてソフィアは体をびくりと反応させる。


「ど、ど、ど、どうして?」

「僕は感情を司る精霊でね、万物の感情の機微を感じ取れるんだ。その胸元に光るネックレスが関係しているのかい?」


 ずばりと指摘されてソフィアは慌てる、そんな様子を見てアルフォンは笑った。


「いいじゃないか、とても素敵だよ。そして掛け替えのない感情さ、誰しもがそれを求め、手に入れられなくとも憧れる。大事にすることだ」

「…はい」


 ソフィアはネックレスを触りながら答えた。返事を聞いてアルフォンは満足そうに頷いた。


「さてレオン、ソフィア、そろそろ神憑りを行おうか」


 アルフォンがそう声をかけて神憑りを始める事となった。




 一息ふっと吹いてアルフォンは目を閉じる。集中して呪文を唱えると、周りの空気が一変した。


 神秘的で神聖な雰囲気が辺りを包み込む、場所こそ神域へと変わりはしないが、明らかにアルフォンには別の何かが降りてきているのが分かった。


「宝剣を持つ者、星の神子よ、そしてここには居ないが神の死骸を滅した強者、此度の働き、土神として感謝申し上げる」


 アルフォンの目が黄金色に変わる、声も中性的な声色から、深く低く唸り声のような声が発せられる。


「私は今まで、消滅せしえぬ神の死骸をここに繋ぎおく為に力のみの存在となっていた。その力はすべてそちらに使われていた。ここも大分荒らされてしまい、神でありながら不甲斐ない事だ」


 土神が頭を垂れてうなだれる。


「そんな、土神様がここをお守りになってくれたからこそ、魔王の企みを事前に阻止する事が出来たのです」


 ソフィアの言葉に土神が言う。


「そう言ってもらえると多少救われる。必要な事だったとは言え、長い間ここに住まう精霊達には苦労を掛けた。これからは少しでも皆と世界の為にこの力を使おうぞ」


 土神は決心の言葉を口にした。そしてソフィアに手をかざす。


「星の神子よ、我が加護をそなたに授ける。宝剣を持つ者の力となりなさい」


 アルフォンを通じて土神の加護がソフィアに与えられる。神授の杖が黄色に輝き、痛みと共にソフィアの右手の甲にまた一つ土神の紋様が刻まれた。


「ありがとうございます土神様」

「土の加護はそなたに大地を操る魔法をもたらし、人々に活力を与え、眠りし力を呼び覚ます。お前の力となろうぞ」


 土神はレオンに向き直って言った。


「宝剣を持つ者よ、悲しみや怒り、憎しみを忘れる事は出来ない。しかしそれは物事のほんの一面に過ぎない、お前は最初にその剣を手にした者とよく似ている。希望を背にして人の前に立つ素質がある。しかし、そこに一人で立つ事はないのだ。孤独を捨てて人の手を取りなさい、皆で並び立つのだ」


 土神の言葉をレオンは黙って聞いていた。自分が目指すべき道は何か、先代オールツェル王の様に痛烈に輝き人々を引っ張る流れ星の様になるか、それとも星々を繋ぎ合わせ夜空を描く共に輝く星となるのか。


 答えはまだ見つからなかった。しかし、人々が手を取り合い、互いを生かし時には抑え合う事が出来たなら、それはどんなに強い個にも勝る力になると、今までの出会いからそう思っていた。


「お言葉胸に刻み込みました。私は必ずや魔王を倒します。しかしそれは私の勝利ではない、私に手を差し伸べてくれて、共に笑い泣いた人々の絆の勝利です」

「うむ、その気持ちゆめ忘れる事のないよう願う。星の神子、彼を支え導け、暗闇を照らす星の如く」


 土神が言葉を言い終えると、アルフォンの体がガクンと崩れそうになった。


 慌てて二人はアルフォンの体を支えて、意識のないアルフォンに声をかけた。はっと眠りから突然起こされたように目を覚ますと、レオンとソフィアの顔を交互に見た。


「神憑りは成功?」

「ああ、土神様からご加護とお言葉を頂いた。アルフォン、ありがとう」


 レオンがそう言うと、アルフォンはふらつきながらも自分の足で立って応える。


「これがグロンブの王であり、土神の神子でもある僕の使命さ。無事果たす事が出来てホッとしているよ」


 アルフォンはそう言って二人に笑いかけた。レオンとソフィアも笑みを返して、グロンブでの勝利の喜びを、一時だけでも共に分かち合った。

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