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四十五話

 アルフォンは悲しみに沈む三人に声をかけた。


「さて、それじゃあ土神様のご加護と神器を君達に授けようじゃないか!」


 努めて明るく振る舞って言葉をかける、アルフォン達精霊から見れば、間違いなくレオン達は英雄に違いなかった。


「そうだアルフォン、少し気になっていたんだが、土神様は純粋な力のみの存在となられたなら。どうやって対話するんだ?」


 土神は神の死骸を封じ込める為に、知性と理性を捨て去った。死骸が消滅した今、失われた力を取り戻していくのだろうが、そんな簡単に失ったり取り戻したり出来ないだろうとレオンは思っていた。


「それは僕が神子も兼任している事に繋がってくるね、ソフィアなら何か思いつくんじゃないかい?」


 アルフォンに話を振られてソフィアは少し考え込む、そして思い当たる事が浮かんで口にした。


「もしかして神憑りですか?」

「正解!よく勉強しているね」


 話について行けずぽかんとしている二人にソフィアは説明した。


「神憑りは、神子の身に神を憑依させる事。神々が居る神域と世界は隔絶されているけど、神憑りはその壁をなくして神様を世界に介入させる事が出来るの」

「その通り、そして僕の身を使えば土神様も君達と話が出来るって事さ」


 アルフォンは得意げに語るが、ソフィアの顔色は浮かなかった。


「でもソフィアの態度を見るに、何か代償があるんじゃないか?」


 レオンに指摘されてソフィアは頷いた。


「神憑りは知識としてはあるけど、神子の禁忌でもあるの。命と引き換えの一度切りの奇跡だから」

「なっ!?」


 レオンとクライヴは驚愕してアルフォンの顔を見る、しかしアルフォンはニコニコと笑顔を崩さずに、ソフィアの言葉を否定した。


「確かに人の身であれば一度切りの奇跡だが、僕は精霊だからね。人でも神でもない、自然現象に近い存在の僕は神憑りを使っても命が代償となる事はないよ。だからこそ土神様はここに精霊の国を興すように指示されたのさ」


 土神は自分が力だけの存在になってしまえば、人の世と神とを繋ぐ手段が無くなってしまうと分かっていた。


 それ故精霊をその任に就かせ、精霊は土神から大地の力の恩恵を受けて暮らしていた。グロンブに精霊が数多く住み着いているのはそう言う理由なのだとアルフォンは語った。


「成程、グロンブにはそんな歴史があったんだな」

「どの国もそれぞれに理由と歴史があるのさ、祀られた神様と人々との繋がりさ」


 レオンとソフィアが出会えたのも、初代王と星の神子が紡いだ絆によって定められた歴史のお陰であった。


「そういう訳で僕はちょっと準備してくるから、少しばかりくつろいでいてくれ」


 アルフォンはそう言うと奥へと行った。残された三人は疲労感から、取りあえずそれぞれに休む事にした。




 レオンは水辺で横になっていた。いたずら好きのシルフに何度か風でちょっかいをかけられたが、話をしてみると意外と気が合ってそよ風を心地よく吹かせてくれた。


「レオン、隣いいかな?」


 クライヴの怪我の治療を終えたソフィアが、横になるレオンの顔を覗き込んで言った。


「勿論、涼しくて気持ちがいいぞ」


 レオンがそう言うと、ソフィアは隣に腰を下ろした。


「本当だ、どうして洞窟内でこんな風が吹いているの?」

「シルフに頼んだんだ。楽しい子達だよ」


 風を纏って華麗に舞い踊るシルフは、笑顔でレオンに手を振った。


「クライヴの方はどうだった?」

「見た目ほどじゃないって自分では言ってたけど大怪我よ、深刻ではないから大丈夫だけど」

「そうか、それなら良かった。安心したよ」


 レオンとソフィアは暫く言葉少なに泉を見つめていた。洞窟内の魔石の光を水が反射させて、幻想的な風景が広がっていた。


「綺麗だね」


 ソフィアがそう呟いた。レオンもああと同意して、ふと自分の懐に仕舞ってある物を思い出した。渡したくてタイミングを逃していたネックレスだ。


「ソフィア、これを受け取ってくれないか?」


 レオンから綺麗な包を受け取ってソフィアは不思議そうに見つめる。


「これは?」

「あ、その、ソフィアに似合うと思って街で買ったんだ。開けてみてくれ」


 ソフィアが包を開くと、きらめく宝石で花が模られたチャームのついたペンダントが出てきた。


「これ、凄く綺麗…」

「フロルって名の宝石らしい、見方によって色が変わるって言っていた。ソ、ソフィアにはいつも世話になっているし、危険な旅にもついてきてくれたし、それにいつも」


 レオンは慌てながら色々とまくしたてるが、ソフィアは髪を手でかきあげてレオンに言った。


「つけて」

「え?」

「レオンがつけてよ、ほら」


 レオンはネックレスを受け取ると、恐る恐るソフィアに近づいて首にチェーンを回した。留め具をかけて出来たと声をかけると、ソフィアは髪を下ろしてどうかとレオンに聞いた。


「似合っているよ、凄く綺麗だと思う」


 レオンは慣れないセリフに自分の顔が耳まで真っ赤に染まっていると感じた。


「へへ、ありがと!こんなに素敵な贈り物をくれるなんて、私大切にするね」


 ソフィアの眩しい程の笑顔を見て、レオンも良かったと微笑んだ。喜んでくれた事も何よりだが、深い絆のようなものを感じ取る事が出来た。


「ねえ、嬉しいからクライヴにも自慢してきていいかな?」

「そ、それは恥ずかしいけど、でも自慢したいんだろ?」


 ソフィアの顔を見れば言われずとも分かった。レオンは気恥ずかしさを押し殺して、行ってこいと促した。


 急いで立ち上がってソフィアは駆けだした。レオンは恥ずかしくて顔を見れなかったが、ソフィアもまた茹で上がったかのように顔を赤く染めていた。それを気付かれないようにその場から立ち去ったが、嬉しくて顔がにやけてしまうのは抑えられなかった。

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