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四十三話

 クライヴが神の死骸を滅した時より少しだけ遡る。


 残されたレオンとソフィアは、クライヴの無事を祈りながら待つ他なかった。もどかしく時間だけだ過ぎ去っていく、その時一人のノームが隠された最奥の地に駆け込んできた。


 息を荒げて怪我をしている、ソフィアはすかさず駆け寄って回復魔法をノームにかけた。


「あ、ありがとう、助かった」


 ノームはソフィアに礼を述べる、そして怪我をして只ならぬ様子をレオンが問うた。


「何があったんだ?魔物に襲われたとか?」

「いや違う、何だか訳の分からない人間にやられた。咄嗟に照明石を砕いて逃げてきたんだが」


 照明石とは光の魔力が溜め込まれた魔石で、砕くと強烈な光を放つ事が出来る。宝石や魔石に詳しい精霊ノームは、襲われた時にそれを砕いて逃げてきたと言う。しかし人間に襲われたと言う状況が特殊だった。


「洞窟内にいた人間に襲われたのか?」


 洞窟内にはグロンブの外に街を築く商人達が主だ、そして商人達が精霊を害する事はありえない、積極的でないにしても商人とノーム達は協力関係にある。


 レオンには自らの利を害する事を商人がするとは思えなかった。魔物が住み着いたグロンブにも傭兵を雇って商品を収集するような性根の持ち主が、商品が手に入らなくなる可能性を作るとは考えられない。


「そいつら黒い装束を身に纏っていなかったか?」


 レオンが思い当たったのは、ソフィアが聞き込みで聞き出し、アルフォンが存在を示唆したグロンブ内部を動き回っているという一団だった。


「おお、そうだそいつらだ。今まではうろついて魔石やらをごっそり持ち去っていくだけだったが、何故か急に襲われたんだ」

「そうか、分かった」


 レオンは立ち上がりエクスソードを手に取ると腰に下げた。ソフィアもノームの回復を済ませると神授の杖を手に付き従う。


「おいあんた達どこ行くんだ?」


 レオン達の答えは決まっていた。


「グロンブ内で精霊が傷つけられて異変が起きているなら、ここで手をこまねいている訳にはいかない。俺達で様子を見てくるよ」




 洞窟内を警戒しながら進む、レオンは森羅の冠を常時展開し、感覚を研ぎ澄ませる。


 後ろを歩くソフィアも索敵魔法と光源魔法を杖にかけてついて行く、黒い装束の一団は突然襲い掛かってきたとノームは話していた。警戒のし過ぎという事はない。


「ソフィアッ!居たぞ」


 レオンがソフィアを手で制する。ソフィアは杖の光を消してレオンの指さす先を見た。


 黒い装束の人物は六人の集団だった。レオンがよく観察して見ると、その集団はやけに統率が取れていた。動く時にも隊列を乱さず、その様子はさながら兵隊のようであった。


「どうやら商人の雇った傭兵とかでもなさそうだな」


 傭兵は大体戦えるだけの寄せ集めの集団だ、統率のとれた動きをする者は少ない。


「それに何だか様子が変だよ」


 ソフィアが指摘したように、集団は時たま不可解な動きをする。規律よく辺りの警戒に当たっていたと思えば、突然体を奇妙にくねらせたり、頭をがくがくと振り回したりと、一貫性が見られなかった。


 レオンは剣を抜き放ち構えた。ソフィアに目配せをして、戦闘準備を促す。ソフィアはいつでも魔法が使えるように杖を構えた。


 頃合いを見計らってレオンは瞬時に飛び出した。相手はこちらに気が付いていない、完璧な奇襲だった。


 しかしレオンが斬りかかった相手は攻撃を受け止めた。


「なっ!?」


 レオンもソフィアも驚いた。完全に攻撃が入ったと思ったからだ。


 そして攻撃を受け止めた時に装束のフードがとれて顔が晒されると、それを見たレオンは驚愕した。


「オスカー?」


 それはオールツェル王国で騎士団の副長を務めていた男だった。クライヴと同じ年齢で若くして騎士団の副長まで登りつめた実力者で、近衛となったクライヴとは好敵手で、実力を高め合う相手だった。


 クライヴと行動を共にする事が多かったレオンとソフィアは、オスカーとも仲が良かった。それだけにこの状況にショックを受けていた。


 レオンの剣を受け止めたオスカーは、そのまま腕力でレオンを弾き飛ばした。レオンは足に木の力を集めて体制を立て直す。


 オスカーは手信号で周りに指示を出し、素早い動きでレオンを取り囲んだ。ソフィアと分断されたレオンは窮地に立たされる。


 すかさず魔法を撃ちこもうとするソフィアだが、撃てばレオンに当たるように位置取られてしまっている為に、撃とうにも撃てなかった。先行を取った筈のレオン達は一気に追い詰められた。




 取り囲むうちの二人が同時にレオンに斬りかかる、その重なり合う斬撃から避ける術は少なく、避けられる場所は後ろしかなかった。


「クソッ!」


 レオンは後ろに跳んで避けながら体を捻り防御する、回避した先にはまた別の敵が居た。振り下ろされた剣を受け止めるも、また別の一人が動きを止めたレオンに斬りかかった。


「誘導されている」


 避ける方向を絞られ、逃げ場には敵。さらに左右からまた別の敵が斬りかかってくる。かろうじて攻撃を防ぐも、がら空きになった脇腹を蹴り飛ばされてまた中央に戻された。


 次の攻撃は四人がかりだった。避け様の無い完璧な連携同時攻撃に、レオンは咄嗟の判断で足に火の力を集めて強く地面を蹴って跳んだ。


 上に跳んだレオンを狙って、敵は弩を取り出して狙いを定める。レオンは全身に木の力を回して空中で身を捻り、天井を蹴って矢が届く前に避けた。


 何とか包囲から抜け出しソフィアと合流したレオンは、息を整えてまた剣を構えた。


「レオン!大丈夫?」

「ああ、何とか大丈夫だ。それよりも、こいつらの正体が分かった」


 淀みのない連携に乱れの無い波状攻撃、レオン達が相対しているのは、かつてオールツェル王国の守護を担っていた騎士団だった。

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