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四十二話

 神の死骸は混乱に陥っていた。


 目の前の男は何故死なない、どれ程の猛攻の前にも膝を屈する事無く突き進む。


 目の前の男は何故引かない、どれ程剛腕を振るおうともすべてを受け止め足を下げる事が無い。


 どれ程手を変えて攻撃を繰り出そうとも、すぐに対処して前に飛び出てくる。巨体に押しつぶされそうになろうとも、怯むことなく大剣を振るう。


 死骸に記憶は残されていない、あるのは神々と人類への怨み。それ故恐怖を更に煽られていた。


 この超人的な男が人間の基本なのか、そう思い込んでいた。


 死骸は使うまでもないと思っていた口を開き、魔力を高集束させた光線を使ってしまった。自らの残り少ない力の核をすり減らす攻撃を使う事は、死骸にとってとても屈辱的だった。


 しかし、その攻撃に男は直撃した。至近距離で、目の前で、吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。初めて地に伏せた男の姿を見て、死骸は内心安堵してしまった。


 その一瞬後、男が見せた笑顔に死骸は戦慄する事となる。




 クライヴは確信していた。今までしてきた攻撃の中で一番強い威力の攻撃、それを何故今まで使わなかったのか、この攻撃をまともに食らっていたら自分がここまで死骸を追い込む事は出来なかった。


 使えなかったのだ、理由までは分からないが、今更全く新しい手の内を晒したと言う事は、出し渋る理由があった。


 そして狙うべき急所も相手は晒した。攻撃を受ける一瞬、口腔内の奥底に魔力を集束させている光が見えた。神滅ハヤギを撃ちこむ所はあそこだとクライヴは本能的に理解した。


 次は奥の手をもう一度使わせる方法を考えなければならない、何かを感づいたのか死骸の動きは鈍り始めている。あの攻撃を使わせる為に何か策がいるとクライヴは思った。




 男の表情を見て死骸は怯んでいた。


 どうしてあの状況で笑えるのか、攻撃をくらいダメージを負った。それなのに男は苦しむどころか、それが好機であるかのような表情をした。


 目の前の男が本当に人間なのか、死骸はいつの間にか怨みや怒りに支配されていた感情が、理解の及ばない恐怖に変わっていた。


 あの男をこれ以上近づける事は出来ない、死骸は徹底的に距離を取る戦法に切り替えた。手足のすべてを鋭い棘に変えて、遠くから刺し穿つ、そして近づこうとも全身を覆う棘に邪魔されて本体を傷つける事は出来ない。


 体裁や恰好、プライド等もう死骸には存在しなかった。目の前の異物を排除する、その一心に囚われていた。




 クライヴは駆け回り迫りくる棘から逃げていた。狙いをつけにくいようにジグザグと小刻みに変化をつけて動く、避けきれない棘は斬って捨てた。先端程強度が脆くなっていて斬り捨てるのは容易だった。


 対処をしながらクライヴは思考する、相手は接近を嫌った。クライヴにしてみればこの状況が答え合わせに近かった。


 弱点は確実に体の中にある。そして光線の攻撃を乱発してこない事はクライヴにとって僥倖だった。あの攻撃は速すぎて避ける事は難しい、しかし棘による刺突を狙うのなら捌ける。


 腹を決めたクライヴは足を止めた。襲い来る棘を斬り落とすと、地面に向けて左腕から光弾を撃ちこんだ。




 死骸は男が動きを止めたので、やっと体力が尽きたのだと思った。しかしそうではなかった。


 突然地面に何か攻撃を加えて土煙を上げた。視界から男が消えた事に混乱に陥る、すぐさま土煙に向かってすべての棘針を差し向けた。出鱈目に撃ちこまれた攻撃でも、攻撃を集中させた事で逃げ場は無かった。


 仕留めた。そう確信した。逃げようがないのだからそう考えるしかない。


 しかし土煙が晴れて、そこにいた男の姿を見て死骸は驚愕した。




 クライヴは攻撃を集中させる為にあえて身を隠すように派手な土煙を上げた。見た目より臆病な性格をしている相手なら確実に攻撃をすべて向けると踏んでいた。


 だからこそ敢えてクライヴはそこから動かず防御を固めた。アルフォンから授けられた土神の加護をすべて使いきって防ぎきった。


 土煙が晴れるまで動きを止めた死骸に突撃する為に、まとめて突き刺してきた棘針を纏めて叩き斬った。すべての攻撃を向けていた死骸は次の手が無くなった。


 好機を逃さずクライヴは突撃した。再生を繰り返す棘をまとめて斬り飛ばしながら進み続ける、死骸は棘針を引こうとするが、その前に斬り落とす。再攻撃の隙は与えず前に進む。


 そしてとうとう本体まで肉薄した。目の前で大剣を振りかぶった。斬りつけられると判断した死骸は攻撃の手がもう光線しかない、口を開いて魔力を集束させた。


「もうそうするしかないのは分かってたよ」


 クライヴは振りかぶった大剣を手から離した。この局面で武器を手放す暴挙に、死骸は戸惑い光線を撃ちこむタイミングを逸した。


「神滅ハヤギ、解放!」


 死骸が開け放った口に左腕を突っ込み、クライヴは神滅ハヤギを撃ちこんだ。


 一閃。極光の光線が神の死骸を貫いた。神滅ハヤギにより撃ち抜かれた死骸は、神を焼く光線に体内から焼き尽くされ灰になり消えた。


 クライヴの義手は、ハヤギを行使した為排熱に音を立てて煙を上げる。それが収まるのを待ち、手放した大剣を拾い上げるとクライヴはゆっくりその場所から立ち去って行った。




 魔王城にてアラヤが回収に動いていた死骸の消滅を感じ取った。


「やられたか…」


 魔王アラヤの呟きに城を訪れ謁見していたリインが反応する。


「何がやられたの?」

「我ら魔族を生み出した遺物が消滅した。回収に向かわせていたが、恐らくレオンについているクライヴにやられたのだろう」


 神の死骸、自らの復活と共に何かしら動き始めたと踏んでいたが、消滅させられたという事は推測通りだったのだろうとアラヤは思った。


「それにしては魔王様平気そうね」

「ん?何がだ?」

「回収に動いていたんでしょ?それがご破算、いいの?」


 リインの質問にアラヤは嘲笑しながら返した。


「別にアレが手に入ろうとも使い道は特になかったよ、精々知能の低い無駄に強力な魔物に作り変えるか、処分に困って研究材料にするしかなかったからな」

「無駄だと思っていたのに回収しようとしたの?」

「興味があったのは本当だ。古臭いカビの生えた愚か者がどんなものかとな、所詮敗北者の亡骸なんて大したものじゃないとは思っていたが、高々強いだけの人間に消滅させられるとは滑稽だな」


 アラヤは元から興味の薄かったそれに、輪をかけて興味を失った。


「まあゴミ処理の手間が省けた事は喜ばしい、それよりお前の管轄のクリスタル国はどうだ?」


 アラヤが話題を変えたのでリインも報告に戻った。


「もう殆ど滅ぼしたけど、魔法研究塔に王と生き残りが立てこもって抵抗してるわ。しぶとく戦いを続けているけど、まあ何とかなるでしょ」


 リインが結晶の国クリスタルをほぼ制圧した事によって、貴重な資源を大量に確保する事が出来た。役に立たない能力だと思っていたが、意外な使い方で有能さを示したリインにアラヤは満足して告げた。


「よくやった。もうクリスタルから手を引いてもいいぞ」

「滅ぼさなくていいの?」

「目的は達した。滅ぼしてしまえば、金神の加護と神器も失われる可能性がある。もう十分だ」


 アラヤの目的の為にレオンと星の神子には、神々の加護と神器を集めてもらう必要がある。


 リインを下がらせるとアラヤは誰も居なくなった王の間で、玉座について目を閉じる。堕とされた神の出来損ないは消滅した。


「しかし我々魔族はその出来損ないから生まれた。怨みと憎しみに呪われた魔族が存在する意味はなんだ?」


 アラヤの呟きに答える者はいない、空虚な空間に響いた疑問は、静かな闇に溶けて消えた。

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