三十七話
レオンの快復までまた数日が経ったが、完全に体調を取り戻す事が出来た。動きの勘を取り戻す為にクライヴと手合わせをする。
レオンの動きは軽快だった。地脈の力を使えるようになったことから、素早さは以前の比ではない、動き攪乱する時は木の力を足に集め、攻撃を当てる瞬発力には火の力を込めた。
一度痛い目を見た事からレオンの力の調整はバランスが取れ始めていた。手合わせをするクライヴは、その目まぐるしい成長ぶりに驚いていた。
傍で見ていたソフィアはその様子を固唾を飲んで見守っていた。その背後からゆらりと人の影が近づいて来る。
「ようソフィアちゃん、元気しとる?」
驚いて背後を振り返るとバフが片手を上げて立っていた。
「バフ様、驚かさないでください」
「ほほ、驚いてくれると楽しくてな。まあ年寄りの悪い趣味だと見逃しとくれ」
バフはソフィアの隣に立ってレオン達の手合わせの様子を見た。
「レオンの動き、様になってきおった。あれなら戦えば戦う程体に身についていくじゃろう」
ソフィアはバフに聞いた。
「バフ様、レオンはどうですか?」
「そうさなあ、元々剣士としては一級品で、努力も怠らないからどんどん強くなるじゃろ。だがまあやはりクライヴの方がまだ一枚上手だな」
レオンの剣戟をクライヴは的確に受ける、木剣とは思えない威力を物ともせずに防御する。袈裟に襲い来る攻撃を止めて上へ弾き、ぴたりと首筋に木剣を差し込んだ。
「まいった降参だ」
「はい、お疲れさまでした。レオン様、体はもう完璧のようですね」
手合わせを終えてレオンとクライヴはすぐに反省点を洗い出す。二人のやり取りの間にバフが今の手合わせについてソフィアに語った。
「レオンは木の力を使う事で身体能力を高くしている、一撃の重さも火の力を当てる瞬間に使う事で体への負担を減らし、速さも強さもまだまだ上がる。だがクライヴには積み重ねた研鑽と実戦経験がある。そこを補う必要があるだろうな」
バフはそう話した後ソフィアに伝える。
「星の神子たるソフィアちゃんが神の加護を受けた事で、レオンはエクスソードの力をどんどん引き出していく、ソフィアちゃんが鍵だ」
「私が?」
「そうだ、レオンの力はすべてソフィアちゃんを通じて引き出される。それが星の神子とオールツェル王の、神の力とエクスソードを繋ぐ絆なのじゃ」
そう言われてもソフィアにはいまいち実感がなくてピンとこなかった。バフは笑いながらいずれ分かるとだけ伝えて去っていった。
レオンの体調も戻り次の目的地へ向かう時が来る。ウルヴォルカの国民は総出で見送る為に集まった。
「レオン、今回の一件ウルヴォルカを代表して礼を言うぜ。ありがとうな」
バンガスはそう言ってレオンに手を差し伸べた。二人は固い握手を交わし、共に感謝の意を示した。
「ソフィアさん、ベリルはここで火の神子として頑張ります。いつかソフィアさんの力になれるようになります」
「ベリルありがとう。またいつか会いましょう」
ソフィアとベリルは別れを惜しんで抱き合った。また会えた時にはベリルはもっと立派になっているだろう、ソフィアにはそんな予感がしていた。
「それとクライヴさん、火神様の頼み事は多大な危険が伴うと思います。どうかお気をつけてください」
「ご心配ありがとうございます。十分注意します」
ベリルは不安そうな顔をするが、クライヴはにっこりと笑いかけて返す。あえて大丈夫だとは言わず、落ち着きを払った態度で大丈夫だと言外に伝える。
明言できる確証はなくとも、やると決めたのならやる。クライヴにはその覚悟があった。ベリルはそんなクライヴを見て、不安な顔をやめて笑顔で見送った。
「じゃあ皆世話になった。俺達は先に進む事にするよ」
レオンがそう言うと、国民は口々に感謝の声を上げてレオン達を見送った。感謝の声が重なり合って大歓声となり、レオン達は歓声に押されてウルヴォルカを発った。
ウルヴォルカの国民達はレオン達の背が見えなくなっても手を振り続けた。再び国に灯った火を消す事のないように、国民はレオン達に誓うのだった。




