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三十四話

 勝鬨を上げ盛り上がりを見せる国民の中で、クライヴは戸惑いを隠せなかった。

 余りにも圧倒的すぎた。魔族ロッカの実力は確かなものだった。余りある膂力も常識外れのスピードも、パンチ一つとってもどれもが必殺といっていい程の威力を誇っていた。


 しかし結果は完封、それどころかロッカの巨体をものともせず蹴り飛ばし、殴りつけ、投げ飛ばした。クライヴの見立てではレオンにそこまでの膂力はない、しかも体格差を覆すような体術を用いた訳でもなく、見ていた限りただ蹴飛ばしただ殴りただ掴んで投げただけだ。


「クライヴ、今のを見てどう思った?」


 隣にいたバフがクライヴに語りかける。


「正直に言って不自然な程に圧倒的でした。本当にレオン様かどうか疑ってしまうくらいに」

「そうだろうな、ではレオンに儂が何を教えたのかを説明するとしよう」


 バフはその場に腰掛けて話し始めた。


 レオンとバフの修行は、大地に根差す神の魔力を感じ取る事から始まった。これは魔法使い等であれば、魔法の行使の際意識的に行う事で普遍的だ。しかしレオンも多少の魔法を使えるとは言え、剣を振るい前衛に立つ事が主な役割で、覚えた魔法も生活に役立つ程度の物に限った。


「大地に流れる魔力は、この星に流れる血と言い換えてもいい。我々は星に流れる血から魔力と言う力を得て、自らの活力に変えたり魔法に使ったりと生活をしている訳じゃ」


 バフはそうレオンに語りかける。


「まず目を閉じて、意識を深く深く集中してみろ。目指すのは大地の底に流れる魔力の奔流じゃ」


 レオンは言われるがままに目を閉じた。そして意識を深い地の底へと向ける、地の底とは言っても深く掘れば見つかるという物ではない、流れる魔力はこの星を形作る一部分であり、世界の根幹であるのだ。


「目に見えるものではない、深く深く遠く遠く。でも確かに存在する力じゃ、それを探して感じ取れ」


 言葉通りにレオンの集中力は深くなっていく、意識が体から離れて、地の底を目指して大地に溶けていく感覚をイメージする。


「ドクン!!」


 心臓が大きく跳ねた感覚がしてレオンは目を開ける、ただ立って目を閉じていただけなのにレオンは汗みずくで息が上がっていた。


「その様子だと何か見えたようだな」

「ああ、何か大きな力の流れが見えた。不思議な温かさを感じて、それに触れてみた途端に体に大量の魔力が流れ込んできて、心臓の跳ねた感覚に目を覚ました」

「おお、あまり期待しておらんかったがそこまで行けたのか。やはりエクスソードの影響だろうな、あれは神と人とを結びつける力を持つからな」


 レオンは体の中に別の力の流れが出来たような感覚がしていた。異物感は無く、どちらかと言えば体にもう一つ新たな自分が出来たような感覚であった。


「どう感じる?」

「不思議だ、自分の中にもう一人の自分を感じる」

「それが力の一端じゃ、地脈の魔力に触れた事でそれを受け入れる器が出来た。それは神の魔力と自分の体を繋ぐ通路のようなもの、徐々にギャップは落ち着いていき本体と馴染むじゃろう」


 感覚の変化を感じても、体の変化は感じられない。レオンは何度か慣らすように体を動かしてみたが、特に身体能力の向上を感じる事は出来なかった。その様子を見てバフが笑う。


「今はまだ力の形を理解しただけに過ぎない、赤子が立ち方を覚えたようなもの。歩いたり走ったりするにはまだ足りない」

「バフ爺さん、足りないものって何だ?どうも変化らしい変化は感じられないんだが…」


 バフは落ちている小石を一つ拾ってレオンに手渡した。そして山の向こうを指さす。


「その石を投げて、あの山を越して見せろ」


 山の距離は遥か遠く、とてもじゃないが投擲で届くと距離ではなかった。


「バフ爺さんそれは無理じゃないか?」

「まあ無理だな」

「じゃあ何で言ったんだ?」

「儂には出来るからじゃ」


 バフはもう一つ小石を拾うと特に力を入れた様子もなく投げた。そしてレオンは信じられない光景を見た。バフが投げた石は目で追える限り遠くに飛んでいき、ついには山の向こうに消えて行った。


「レオン、お前は常に力を込めて生活しているか?」

「え、いやそんな事はないが」

「そうだろう、いつどこでどんな力か必要か、そんな事は言われずとも分かっているもんじゃ。しかし、ここで今必要な力は何かを正しく選択する事は難しい、お前は今地脈の魔力と繋がる術を得た。どんなタイミングでどんな力が必要かを覚える必要がある」


 それからバフは説明を始めた。火の力は人の闘争本能や膂力を引き出す事が出来る、本能で体の制限を取り払い、引き上げられた膂力で運動能力を高くする事が出来る。


 バフは物を投げる瞬間だけその力を使った。そして年齢を思わせない足取りも、歩く時地を蹴り上げる時、体重を移動させる時、その瞬間に力を使っている。


「レオン、エクスソードを持つお前さんは、それに加えて木の力も使う事が出来る。木の力は生命力や身体能力を向上させる事が出来る、森に住むエルフが長命で狩りに長けた者の身のこなしの軽さは無意識に木の力を使っているからじゃ」

「じゃあ俺は、木の力と火の力を組み合わせて使う事が出来るのか?」

「そうじゃ、エクスソードは神の力を人と繋ぐ。しかし力をどう使うかは持ち手次第、覚える事は沢山あるぞ」


 それからレオンはバフから様々な事を教わった。どんな時にどの力を使う事が適切か、剣を振るう時、移動をする時、避ける時、戦いに必要な力の使いかたをみっちりと叩きこまれた。


 修行の終わり、レオンはもう一度バフから小石を手渡された。それを受け取ったレオンは遠くの山目掛けて振りかぶり投げた。石は遠く遠く飛んで行って、バフが投げた時とは比べようもないほどの飛距離で消えて行った。


「とまあこんな感じでレオンに力の使い方を教えたんじゃ、それに加えてあ奴は今や森羅の冠に火王の鎧まで手に入れた。神器が力の底上げをしたんじゃ」


 バフの説明を聞いてクライヴは納得した。


「成程、あの力は後に手に入れたというより元から備わっていたものと言う事ですか、だからレオン様本人には変化が見られなかった」

「そうじゃ、あの力こそエクスソードに選ばれた者の力。基本は教えたから、後は自然と身についていくじゃろ。レオンは根性もあるからな」


 バフはそれだけ言うと笑いながらクライヴの元を去っていった。クライヴも聞きたい事を聞く事が出来た。勝鬨を上げてウルヴォルカ国民に揉みくちゃにされているレオンの元に急いだ。


「まあちっとばかし無理したからな、明日は地獄を見るだろうがこれも勉強」


 バフは去り際にそれだけポツリと呟いた。


 魔王城ではボロボロにされたロッカの前にアラヤが立っていた。


 アラヤはロッカの姿を見て、内心で喜んでいた。レオンの急成長は嬉しい誤算であったからだ。力の使い方を覚えただけであそこまでの急成長を見せた。そして魔族の中でも強く頑丈に作ったロッカをここまで手玉に取るとは思いもよらなかった。


「うぐぐ…ぐぐ」


 うめき声を上げるロッカに気が付いてアラヤはパチンと指を弾いた。アラヤの魔法によって体を修復されたロッカは体を震わせながら立ち上がった。


「クソ!!クソクソクソ!!クソが!!!」


 ロッカは床をがすがすと何度も拳で殴りつけた。苛立ちと怒りに満ちた顔は、まさに鬼の形相であった。


「手酷くやられたなロッカ」


 アラヤは笑みを浮かべながらロッカを見下した。その様子に怒り心頭のロッカは魔王を睨み付けたが、アラヤの威圧感のある侮蔑の笑みを見て頭を冷やした。どかっと胡坐に座り込んでアラヤに話しかける。


「悔しいが完敗だ。でかい口叩いた癖に情けのねえ話だ」

「まあ無様は無様だが、そう悲観する事もない。お前との戦いに間に合わす為に半ば無理矢理に力を引き出させたようだ、レオンも無傷とはいかないだろう」

「そうなのか?」


 そうロッカが聞くとアラヤが頷いた。


「一朝一夕に身につくような力じゃないからな、あの時点でお前とやり合うには神器二つあっても足りなかった。それを危惧して突貫で身に着けさせたんだ。それでもお前を完封するとは我も思わなかったがな」

「面目ねえ」


 うなだれるロッカを見てアラヤは鼻で笑った。このまま順当に旅が進めば、レオンはさらに力を自分の物とするだろう、その時にぶつける魔族がこの体たらくでは困るとアラヤは考えていた。


 ランスのように改造して手を加える事も考えたが、備えた力との相性が悪い為それも難しいと至る。アラヤはため息をついて立ち上がるとロッカに言った。


「ついてこい」


 アラヤとロッカは揃って城内を歩いて行く、階段を下りて何度も扉をくぐりまた更に地下へと下りていく、一見するとただの壁に見える場所にアラヤが手をかざすと、壁が二つに割れて開いた。隠し扉の薄暗い道を歩いて行くと、突然広い空間に出てその部屋の中央に巨大な黒い塊が見えた。


「ありゃ何だ?」

「あれは古の魔族が作り出した傑作の魔物、名前は分からんが強力すぎて滅する事も出来ずここに封印された様だ。我はネームレスドラゴンと呼んでいる」


 そのドラゴンは死んでいる。もう動く事はないただただそこにあるだけ、朽ちる事なく体を横たえている。


「ロッカ、それを食え」

「あ?」

「二度も言わせるな、それを食って消化して力に変えろ。多少は時間がかかるだろうが、魔物ならお前がやろうとしていた食って力に変える方法が成功するかもしれん」


 成程とロッカが呟く、アラヤはそれだけ言うと興味なさげにそこから去ろうとした。


「おい、こいつ本当に食えるのか?」

「火を食ったんだからこれも食えるだろ、好き嫌いするなよ。何だったら塩でもかけろ」


 ロッカはネームレスドラゴンを前に呆然と立ち尽くした。しかし強くなる為に必要な事だと覚悟を決めると肉を引きちぎって少しずつ食べ始めた。

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