二十二話
レオン達一行がフィオフォーリを去る時が来た。
見送りには数多くの人々が訪れた。皆レオン達に感謝を述べたり、旅の無事を祈ったりして別れを惜しんだ。レオン達も同様にここでの戦いで得た絆を想い別れを惜しんだ。
「サラ、リラ、本当にありがとう。私は貴女達と一緒に居たから強くなれた」
ソフィアは二人と手を繋ぎながら言った。
「そんな事、こちらこそソフィアにどれ程力を貰った事か」
「私もよソフィア、神子としても友達としても私は多くを教えてもらったわ」
サラとリラはそう言ってソフィアに笑いかける。
「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しい。私はサラの戦う姿を、リラの神子としての立ち振る舞いを見て、自分に何ができるかを考えたの。そして分かった事がある、私は守られているだけじゃ駄目だって、サラのように勇ましく戦い、リラのように凛々しくある。私にはどちらも必要だって気付く事ができた。だからありがとう!」
ソフィアはサラとリラを抱きしめる、二人は突然の事に驚いたが、ソフィアを包むように抱きしめ合った。
「クライヴ殿!我々は自分達の旗を作りました!」
クライヴが剣や戦い方を教えていたエルフ達が、集まって布を広げる。旗には神樹と風に吹かれる木葉、そしてオールツェル王国の紋様が刺繍されていた。
「これは…」
「我々はフィオフォーリを守る騎士、そしてクライヴ殿を隊長とするオールツェル王国騎士団は一つ木ノ風隊であります!」
「勝手に決めてしまい申し訳ありません!しかし、我々はクライヴ殿に多くを教えてもらった身であり、王国騎士団の魂を受け継ぎたいのです」
「肩書に恥じる事の無いようにこれからも精進してまいります!我々の力が必要になったらいつでもお呼びください!」
クライヴは思わず感極まって涙が出そうになった。しかしそれをぐっと堪えると、顔を上げて言った。
「木ノ風隊に任を告げる。フィオフォーリの人々を助け、魔物の脅威から守り、人々の剣として盾として、常に騎士として斯く在れ!」
「はっ!!」
エルフ達はぴしりと真っ直ぐ立ち胸を張り、クライヴに敬礼をした。クライヴもそれを返して木ノ風隊の奮闘を願った。
ソフィアとクライヴがそれぞれの別れを惜しんでいる時、レオンは少し離れた所でそれを見つめていた。
そんなレオンの元にまだ子供のエルフの女の子が近づいて来た。
「レオン様、これあげる」
そう言ってレオンが渡されたのは小さな手帳だった。開いて見ると、フィオフォーリに咲く美しい花々が押し花にされて飾られていた。
「こんなに素敵な物貰ってもいいのかい?」
「うん、お母さんと一緒に少しずつ作ったの。お母さん、魔物に襲われて悲しかったけど、リラ様が教えてくれたの、レオン様達のお陰でお母さんは綺麗な花々になれたんだって、木々と風になっていつまでも見守ってくれてるって。レオン様、フィオフォーリを離れてもこれを見て思い出してね、私達の事助けてくれてありがとう」
話している途中から女の子の目からは涙が零れていた。寂しくてたまらないのだろう、それなのに母との思い出を手渡してくれた事にレオンは心の奥底が熱くなった。
「ありがとう、絶対に忘れないよ。君も忘れないで、フィオフォーリを守ったのは君達皆だって事を」
レオンの言葉に女の子は涙を拭って頷いた。小さな手と握手を交わし、レオンは別れの挨拶を告げた。
「じゃあ皆、俺達はそろそろ行くよ」
「また会いましょう。木神様と星神様のご加護が皆さまにありますように」
「本当にお世話になりました」
レオン、ソフィア、クライヴは別れの挨拶をして旅立つ、フィオフォーリの人達はその姿が見えなくなるまで手を振り続けた。レオン達も何度も振り返っては手を振って、互いの姿が見えなくなるまでそれは続いた。
「レオン達に会えてよかった」
サラがそう呟き、隣にいるリラも頷く。
「お姉ちゃん、私達も私達の戦いを続けよう」
「ああ、そうだな。行こうリラ」
戦いも悲しみも未だ終わりは見えなくとも、立ち向かう人々の心に刻まれた勇気は、前途を明るく照らしていた。
「レオン、あの子には何を貰ったの?」
ソフィアに聞かれてレオンは貰った手帳を取り出して見せる。
「フィオフォーリの植物を集めた押し花の手帳だよ。お母さんと一緒に作ったんだって」
「うわーすごく綺麗!こんなに良い物貰ったんだ」
ソフィアは目を輝かせて手帳を見つめる、クライヴもそれを覗き込んで言った。
「これは、とても見事な物ですね。美しいです」
「あれ?クライヴがそう言うのは珍しいね」
「ソフィア様、私を何だと思っているのですか…」
「いつもむいーって難しい顔してるから」
「そんな事ありませんよ!ねえレオン様」
クライヴが慌ててレオンに聞く。
「むいーってのは分からないけど、確かにいつも難しい事考えていそうな顔はしている」
「そ、そんな…」
「ほらほら笑って笑って!笑顔でいればそんな印象も持たれないよ」
クライヴはぎこちなく笑顔を作る、口元は引きつってぴくぴくとしていた。それを見てレオンとソフィアは笑った。
「これでも頑張った方ですよ!できていたでしょう?」
「むいーがぎいーに変わっただけだよ」
ソフィアに言われてクライヴはそんな馬鹿なとぶつぶつ呟きながら百面相をしている。そんな二人の姿を見てレオンは微笑むと、真っ直ぐと前を見据えて歩き始める。
次なる目的の場所は炎と火山の国ウルヴォルカ、レオン達の旅路はまだまだ続いて行く。




