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二十一話

 フィオフォーリは戦いの傷を少しずつだが確かに癒し続けてきた。長シルヴァンを筆頭に代表達が駆け回り、避難民の慰労や各集落を回って被害の規模の把握に、どこに何が必要かを話し合いで纏め上げ、神子リラが尽力して張った結界の内にある集落に限っては、自分たちの家に帰す事が出来る者達も多くなった。


 汚染された土地には、すでに新しい木の芽が芽生えている。その逞しい姿はフィオフォーリの民を象徴するかのようだった。


 静養を続けるレオンの元には、戦いに加わったエルフの兵士たちが見舞いに多く訪れた。皆口々にレオンに礼を述べたり、あの戦いでのレオンの武勇を称える者が多かった。レオンは自分に対する称賛はやめて欲しいと心の中では思っていたが、皆の嬉しそうな活気に満ちた顔を見たら少しだけ嬉しくて暖かい気持ちになれた。


 ソフィアはレオンの回復を手伝いながら、リラと協力して結界の力を補強する為に星の神子としての力を存分に振るった。ソフィアもまた兵達から戦場での勇ましい立ち振る舞いを称えられていた。気恥ずかしさも多分にあったが、ソフィアは本心からこう答えていた。


「勇気を出したのは貴方達だ」


 誰か一人が戦った訳ではない、皆が同じ気持ちで戦った事がソフィアには重要な事だと思えた。ソフィアがそう言って微笑みかけると、皆顔を赤らめて下を向くが、最後にはありがとうと礼を述べて握手を交わし去って行った。


 クライヴは戦場での鬼神の如き戦いぶりから、剣を教えて欲しいとエルフ達から請われて稽古をつけていた。戦える選択肢は多ければ多いほどいい、そう言って頼まれれば技術のすべてを教えた。高潔なる立ち振る舞いに憧れを覚えた兵達は、フィオフォーリにも騎士団を作ると奮い立ち、クライヴもまた、自分がかつていた王国騎士団の魂を絶やしたくないという願いの元エルフ達に教え込んだ。


 徐々に活気を取り戻していくフィオフォーリの森に、レオン達が出来る事は少なくなってきた。次なる旅の予感をレオンは感じ取っていた。


 魔王城ではアラヤが液体に満たされたカプセルに浮かぶランスを見つめていた。レオンの剣は砕ききれなかった甲殻に阻まれ、ランスの体を両断する事は叶わなかった。仮に両断されたとしても再生自体は可能だが、それには長い時間がかかる。必要な時に足りない状況になればアラヤとしては好ましくない、この程度で済んで助かったなと思っていた。


「魔王様、こちらに居ましたか」

「ベルティラか、何の用だ?」


 ベルティラはコツコツと靴を鳴らしてアラヤの隣に立つ。


「ランス君は手ひどくやられたようですね、王子はそれほど強いのですか?」

「いや、大体はこいつの慢心が原因だ。それでも想定より急速に成長している事は否めないが、それはこちらにしてみれば好都合だ」

「そうですか?此方は恐ろしくてたまりませんが」


 アラヤはベルティラの言葉を鼻で笑った。


「心にもない事を言うな、お前は復活させた魔族の中でも幾分マシな部類だ。我がオールツェルの末裔の成長を望んでいる理由も察しがついているのであろう?」

「そんな事はございませんわ、魔王様の御心を測ることなど此方にはとてもできませんよ。貴方の心の中はとても複雑ですから」

「…まあいい、それより用事があって探していたのだろう?さっさと言え」


 ベルティラはそうでしたと言い、アラヤに向き直る。


「少しばかり魔物をお借りしていきます。水生生物を用いた個体をいくつか、少し試してみたい事がありまして」

「そうか、好きにしろ。我はお前達に今の所用はない、魔物も好きなだけ使え」

「それはありがたいです。では此方は行きます」


 ベルティラはそれだけ言うとアラヤに頭を下げて去っていく、コツコツ響く音が遠ざかっていくのを聞いて、アラヤもその場を去って行った。


 レオンの体調は完全に回復した。体に不調が残る事もない、クライヴ達に混ざって剣の稽古に参加していても問題なかった。


 ソフィアとクライヴを集めてレオンは言った。


「そろそろこの国を離れようと思う、次の国へ向かおう」


 二人共レオンの提案に異存はなかった。まだまだ旅はこれから長い、いくら名残惜しくともレオン達には前に進む道しかない。


「では私は旅の支度を整えて参ります。その間にレオン様とソフィア様はシルヴァン様にお会いしてください」

「ああ、出立の報せと感謝を述べてくる。支度をクライヴ一人に任せて大丈夫か?」

「ご心配には及びません、では調達しなければならない物もありますので私は行きます」


 クライヴに旅支度は任せて、レオンとソフィアは言われた通りシルヴァンの元に向かった。


 シルヴァンの机の上には大量の書類が積みあがっていた。処理しなければならない問題が目に見えて山積みだ、レオンは書き物を続けているシルヴァンに声をかける。


「おや、失礼しました。ここ最近やる事が多くて手一杯でして、みっともなくて申し訳ない」

「そんな事ありません。シルヴァン様と代表様達の御尽力あっての復興です。その働きには頭が下がる思いです」


 レオンの言にシルヴァンは笑って答える。


「レオン様は最初にここに来られた時と今とでは別人の様ですな、とても頼もしくなられました」

「そうでしょうか?自分ではよく分かりませんが」

「そうですとも、貴方の戦う姿を見て私も考えさせられました。この国を護る為に長として何をすべきか、貴方に教えられたようなものです。それで、どうされましたかな?」


 レオンとソフィアは事情を説明する。自分たちが旅立つ事、フィオフォーリでの数々の助力に感謝してると伝えた。


「そうですか、そろそろだとは思っていましたが、やはり別れとなると寂しいものですね」

「それは私達もです。この国では多くの事を学ばせてもらいました。その教えを胸に前に進もうと思います」

「シルヴァン様、最後にサラとリラに挨拶をしていきたいのですが」


 ソフィアがそう言うとシルヴァンは頷いた。


「皆さまが出立する際に見送るようにと言っておきます。ソフィア様、あの二人と仲良くしてくれてありがとうございました。貴女と一緒に居る時はあの子達も年相応の子のようで、親としてはとても安心しました」

「そんな!私の方こそ仲良くしてもらえて嬉しかったです」


 シルヴァンは柔らかな笑顔をソフィアに向けてもう一度礼を述べた。


「して、次なる行先はどうするおつもりですか?」

「次はウルヴォルカに向かおうと思っています。国王バンガス様には小さな頃よりお世話になっていました。フィオフォーリと同じように魔物や魔族の被害に遭われているのなら行かなければ」

「分かりました。少々お待ちいただけますか?」


 そう言ってシルヴァンは机の引き出しから封をされた書状を取り出す。


「お願いするのは心苦しいのですが、この書状をバンガス王にお届けください。実は私達フィオフォーリとウルヴォルカは少し折り合いが悪くて、繋がりがある者がいないのです。いつもオールツェル王の取り成しで交流していたので、甘えた事を言いますが頼みたいのです」

「勿論お任せください、そういう事ならオールツェル王子である私の仕事です」

「よかった。正直助かりました。では旅立ちに必要な物などあれば何でも仰ってください、用意できる物はすべて用意させますので」


 シルヴァンの申し出に取りあえず礼を返してレオン達はその場を離れた。そして旅の支度をしているクライヴと合流すると、食料や物資等必要な物を手に入れてから、地図を広げてウルヴォルカへの旅路の検討を始めた。


 その夜、レオンはフィオフォーリを周って歩いていた。


 人々の活気は一過性のものであるだろうとレオンは思っていた。悲しみはそう簡単に癒える事はない、今は皆悲しみを忘れたくて無理矢理にでも元気であろうとしている。それは心を守る為の必要な事で、復興の為に着実に歩んでいる証左でもある。


 それでもレオンは心配であった。今の気持ちがぷつりと切れた時、その寂しさにフィオフォーリの人々は耐える事が出来るだろうかと。それはレオン自身が、自分も同じように走り続けていないと耐える事が出来ないからだった。思考を止めてしまうと暗闇に飲み込まれそうになる、手足が止まれば足元から沈んでいき溺れてしまいそうになる。


 だからレオンはフィオフォーリの人々の姿を見て周っていた。明るく笑い合う姿、楽しくふざけ合う姿、慰め合い励まし合う姿、人々の営みを見ているとレオンは力が湧いて来た。皆今を一生懸命に生きている、その未来を守りたいとしっかりと確信する事が出来る。その気持ちがレオンの今を支えていた。


「レオン、探したぞ」


 急に後ろからの声掛けに振り返ると、サラがひらひらと手を振りながら近づいて来た。


「サラ、どうしたんだ?」

「父上からレオン達が発つと聞いてな、明日の見送りにも行くが個人的に話しておきたい事もあったからな」


 サラはついてきてくれとレオンに言って前を歩く、その後をレオンがついて行くと、フィオフォーリが一望する事の出来る巨木の展望台に案内された。


「私はここからの眺めが好きだ。レオンも見て見ろ、国だけでなく広大な樹海もよく見えるぞ」

「これは、本当に見事なものだ。とても美しいな」


 そこからの一望は見事という他無かった。月夜に照らされた森は神秘的に輝き、所々に集落の明かりが見える、虫の声獣の遠吠え、風にそよぐ枝葉のささやきは自然と一体である気分にさせてくれる。


「レオン、実は私はフィオフォーリの事を嫌いになりかけていた」

「え?」

「父上と代表達は、盟友であるオールツェル王国の危機に森を守る事を選んだ。私はそれがどうにも納得がいかなかった。ここだけが世界のすべてか?確かに私達は森と共に生きているが、この森を作っているのはここにある力だけではなく、この世界すべてが作っている筈だ。だから私は父上や代表達は自分たちの事だけしか考えていない臆病者だと思った」


 サラは風になびく自分の髪をかきあげて遠くを見つめる。


「サラそれは…」

「大丈夫今なら分かっているよ。森を守る為に出来る事は一つだけじゃない、色々な方法を皆で探して協力し合う事こそが本当に必要な事だったんだ。誰かが間違っているとか、何かが足りないだとか、それは重要じゃなかった。それを理解する事ができたのはレオンのお陰だ。君の戦う姿を見てそれを知った」

「そんな事ないさ、サラも他の皆も元々持っていた強さだったんだ。俺はただ前に出て戦う事しか出来なかった」

「それでいいんだよレオン、見ろ君が戦ったから守られたフィオフォーリの姿を。私達は君の雄姿を決して忘れる事はない、君はボロボロに傷つきながらも魔族に対して一歩も引かなかった。君が守ったんだ、君が私達に力を教えてくれた。だからありがとう、私はこの恩をずっと忘れない」


 サラはそう言ってレオンの前に手を差し出した。レオンはその手をしっかりと握り返した。自分に何が出来たのか、その答えは分からなくとも今目の前にあるサラの感謝と友情の念は確かに本物だと思った。一緒に戦えた事はレオンにとっても宝物といえる大切な思い出となった。

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