9 泥団子 牧場へ行く ③
◇◇
ふぅ、短いような長いようなな馬車の移動も終わり、牧場へ到着です。
ひっろ! なーにこれ?
牧場の平均の広さわかんないけど、多分 実家裏ひと山分あるかも。ひゃ~! 果てしなく先が見えませんよー。異世界スケール半端なぁい!
ってか、ここでひとつ質問良いですか?
なぜにわたしは領主様にお子さま抱っこされているのでしょう?
「まぁ、まぁ、領主様。時を跨ぐ者さま。ようこそお出でくださいました。」
此方の恰幅の良い女の人は女伯爵様です。てかてか日焼け? こっちの人が褐色の肌が一般的ですが、更に健康的な方のようにお見受けしますよ。伯爵様なのてすからこの牧場を経営している方なのでしょう。ほら、えーっと肝っ玉母ちゃん的な元気印な感じです。それでやっぱり大きいです。ユンナと並ぶと頭半分大きいです。
「うん、世話になる。ん? どうした。暴れると危ないだろう。」
なにかな? 何故にキラキラしい眼差しをしておられるのかな?
「領主様。ご挨拶したいです。下ろしてください」
そうです。無理を言って訪問させていただいたのですから、ちゃんとご挨拶をしたいです。
「ナビファス伯爵。聞いていると思うが異世界からの客人ハルだ。よろしく頼む。」
いやいや、下ろしてよ! 設定子供でも挨拶大事は民族の美徳だから。
「勿体ないことで御座います」
「ほらほら、ハル。暴れるでない」
チッ! 下ろすきないのかよ。
「ナビファス伯爵様。この様な場所からの挨拶申し訳ございません。この度異世界から落ちてきましたハルです。此方の世界の事はまだ分からないことが沢山あります。これから色々御教授願うことがあろうかと思いますがよろしくお願い致します」
ペコリ。
うん、お子さま抱っこで格好つかないけど挨拶できたよ。
「あらまぁ、こんなにお小さいのに御立派でいらっしゃいますわ。僭越ながらわたくしの事はこの世界の母とでも思っていただければ嬉しいですわ。分からないことがあったら、いいえ、無くてもいつでもお声をかけてくださいませ」
いきなり母できたぁ!!
「感謝する。ナビファス伯爵が付いていてくれれば、如何に王家だとて無理に手を出そうなどとは考えんだろうからな」
んん?
なんか不穏な言葉が聞こえましたが?
「そんな顔をするな。万が一だ。今世の王は思慮深い方だ。安心して良い。」
「そうで御座いますわ。それにもし万が一にも魑魅魍魎たちに惑わされることがあったら……ふふふ……カザフス領ごと独立してしまえば宜しいのよ」
怖っ! 変革とか勘弁してください。わたしは元の世界へ帰るまで穏やか~に暮らしていきたいだけですから。維新望んでませーん。
「ハハハ、これはまた物騒な提案ですな」
「あら、嫌ですわ。今世の王は思慮深いのでしょ。」
うふふ、アハハってこんなに黒いものでしたかな?
「さぁ、さぁ、。こんなところで立ち話もなんですわ。先ずは我が家の新商品をご賞味くださいませ。」
「あ、ホルスタイン」
ホルスタインです。乳牛ちゃんがどどーんと此方を見てますよ。おっきぃわ! え?おっきすぎない?
「あら、あれはクロシロですわぁ」
まんま? まんまなネーミング?
「あの子達は恐らく生まれて半年くらいかと思いますよ」
びっくり! そうだよ。ユンナも居たんだった。ねぇ、気配消してた? やめて。足音とか呼吸音とか消さないで。色々人外さんなんですが。
「半年? 成牛じゃなくて?」
「はい。」
そうなんだ。赤ちゃん牛さんなのね。わたしより大きいけど。迫力も半端ないけど……
「あかちゃん……」
「可愛いですね」
可愛いんだ。ユンナの中ではこの巨大だけど赤ちゃん牛なシロクロはほっぺた染めるほど可愛いんだね。
「この仔たちは来年の春には我が領地の稼ぎ手になるのですわ」
「素晴らしいね。ナビファス伯爵領は実直健全な領地経営だから順風満帆かな。それで新商品はクロシロ関連かね?」
「ええ、先ずはこちらへ」
案内されたのは牧場脇にある四阿。サンルームとかそんなじゃなくて、公園にあるような屋根に柱がボンボンってあるシンプルな感じのです。木のベンチが丸太を半分にしたもので、テーブルもログハウスにあったら理想的ってものでした。
ここで再び質問です。
ベンチは広くて大きいです。向かい合って座るにしてもひとつのベンチに三人は座れます。ユンナはお世話係のメイドなのでこういう場所では後ろに控えています。勿論護衛の方たちも座ることはなく少し距離をとって立っています。さて、わたしは何を言いたいのかお分かりでしょうか? そうでふっ! この広いベンチで沢山スペースがあるというのに、何故にわたしは領主様のお膝に座らされているのでしょうか?
「領主様、領主様。一人で座れます。下ろしてください」
なんかデジャブなお願いですが。
「ん? だが、ハルは小さいからテーブルへは届かないだろう。これから新商品を試食するのにテーブルに届かなければ話にならないのではないか?」
「え? でも、こうすれば」
「まさか他所の屋敷で立ち膝を? ハルの元居た世界では食事のマナーは厳しかったといっていた記憶なあるが」
ええ、食事のお残しは勿体無いから好き嫌いしたらいけません とは言いました。でもマナーがどうこうは言ったか? え? 言った?
「…… マナー?え?」
「であろう? それならコレが正解だと思うぞ。私の膝へ座ることで、ほら、テーブルの高さが丁度良い。まるで私の膝がハルの為に誂えられた椅子のようではないか。」
いす……。領主様のお膝は椅子……ん? これが正解なの? ちっちゃい民族の異世界ルールなの?
「ちょうと……いいでふ、か?」
領主様 笑ってます? お膝が揺れるのですが。
「さぁ、お待たせいたしました。これら夏に向けて売り出す予定の氷菓子ですわぁ。」
「わっ! アイスクリーム」
テーブルの上に置かれたのは元の世界でお馴染みのアイスクリームでした。小さな硝子の器に半円乗ったそれはサーティワンさながらの色鮮やかなものです。
「まぁ、ハル様の世界ではアイスクリームと言うのですか? わたくしどもまだ商品名決まっておりませんの、ふふふ、その名前頂いちゃおうかしら。」
「なるほど、異世界の名前となればハルとの相乗効果が期待できるな。ナビファス伯爵、是非それで勧めて欲しい。」
「嬉しいですわ。それには先ず召し上がっていただいてハル様の意見を伺いたいですわ」
うん。結論から言おう。
あーんってなぁに?
何のためにお膝に乗ったのかよく考えて。自分でマナーを守って食べるためだよね?(そもそも、膝に乗る時点でマナー違反な気もするけど……)
完食したよ。お膝であーんの給餌でアイスクリーム完食しましたよ! 味? ええ、そんな状況でありましたがしっかりお仕事できましたよ! こういうのは恥ずかしがったら敗けなのです。ええ、保育園研修で嫌って程叩き込まれましたから。求められる空気に染まれ でしたかセンパイ! ハルはやりましたよ。羞恥は狭い世界の観念だ。パーターパンになれ! 拒否はなぜ起こるか、それはくだらない矜持からだ! 殻を脱ぎ捨てろぉぉ!!
手を合わせて「ご馳走さまでした」ペコリ。
「美味しかったです。口溶けも滑らかで職人さんの頑張りが伺えます。」
「そうなの。最初はとっても苦労したんですよ。撹拌機が出来るまでは大変で、厨房の者たちは皆肩をやられましてね。漸く念願の撹拌機出来て見通しが立ちましたのですわ」
撹拌機あるんだ。凄いなー。馬車が交通手段の世界に撹拌機。なんだろう、この良い感じのチグハグ。産業革命で世界が急展開とかないのかな?
「撹拌機とは? 見せて貰うことは可能だろうか?」
「ええ、勿論ですわ。でも、あれは特許をとっておりますので我が領地からは出す気は御座いませんのよ。職人へも契約をしましたものですからね、呉々も御内密に。」