8泥団子 牧場へ行く ②
◇◇
空は青いな大きいな~♪ 鳥はデカイし~♪ 馬もデカイ~♪
青い空を泳ぐ…………あれは二次元魔獣アイバーンなのかしら?な鳥さんが馬車の上を旋回してますわ。
「りょ、領主様。あれは何でしょう?」
「ん? ああ、あれはワイバーンだなぁ」
ヤッパリー、
「領主様。ワイバーンは魔獣と記憶してますっ!(ゲームでですが)」
「そうだな。今日は良い天気だからね、散歩でもしてるんだろうな」
なんて長閑な。
「散歩ですか? 村を襲撃…… スタンピードとかそういうのじゃなくてですか?」
「んん? ハルの世界ではワイバーンは狂暴なのか?」
イエイエ、居ませんから。あれはファンタジーの住人ですよね? 力一杯首を横に振りました。間違った先入観持たれて魔獣狩りの勇者御一行へ加えられたりでもしたら、瞬殺ものですからね。囮にもならないと思うんです。
「ああ、あれは迷い子らしい。見ろ。脚に飼い主の札がないだろ? 領主が保護している場合は黄色か赤の札が足首に付いている。だが、あれはここから見る限り無いな……。」
領主様は走っている馬車から護衛の騎士さんへって、走っている馬車の扉って開けちゃって良いものなの?
「あっぶな! 領主様、領主様! 危ないです。揺れて、馬車走ってます!」
「迷子らしいんだ。何人かと確認するように。
ん? ハハ……、驚かせたか? 大事ない。それより迷い子をそのままに捨て置く方が心配だ。素直に森へ帰ってくれれば良いが、でなければ農作物に被害が出てしまう。ハルはあれが気に入ったか? ハルのにするか?」
なんですか、それ。この飴ちゃん美味しそうだ。どれ、気に入ったんならオイチャンあげるよ ってか? わーい ありがとー♪ってノリで飼えるものじゃないからね。
これは今日の出来事 記憶のお部屋へちゃんと処理しとかなければ。
あー、この先の牧場 恐怖しかないんだけどぉ。
◆◆
なんだろうな。このちっちゃい生き物は。
馬車に乗るなり履いていた靴を脱いで座りだした。足を折り曲げて、ぁ、なんだ、もしかして馬車に乗るのは初めてなのか?
飽きることなく外の景色を眺め、流れる風景に忙しなくユンナに説明を求める姿は、飽く無き好奇心を覗かせ知識への欲求の強さを伺わせ好ましく思う所だ。
「わっ、わっ。おじいさんが荷馬車に……かぼちゃ? ねぇ、あれカボチャなの⁉ おっきぃ。おっきいね。パンプキンパイにしたら何人分かな? はぁ、それにしてもお馬さん 大きいね~。人間大きいから当たり前なのかな。」
ざっと10人分だぞ。
「ふふふ……。おうまさんって。ハル様の世界は馬にも敬称付けるんですね。」
「ううん。固有名詞化するとお馬さんは馬でしょ。でも馬が好きな人もいてそうした愛玩嗜好の人への配慮があったりするので、公共の場所では馬はお馬さんとなって、犬はわちゃん、猫はねこちゃんやにゃんこちゃんかな。」
「え!? 魔犬を飼っているんですか?」
「違う、違います。このくらい。大きいのもいますけど、それでもわんちゃんはこんな感じ。ねこちゃんはこんなですよ」
ハルの手 ちっちゃ⁉
「あら、ちっちゃい。猫や犬はちゃん付けなんですね」
「はい。犬猫を愛玩している人が多いので。ボ、ボクのいた国では結婚に興味のない人が多くて、それでも癒しは欲しいという人が犬や猫を飼っているんですよ。猫ちゃん 犬ちゃんの専門の病院や美容室もあったり」
「美容室……ですか? それはどのようなものでしょう?」
「美容室は髪を整えたり、爪やお肌のお手入れをするところです。人と一緒ですが、わんちゃん、ねこちゃんは毛を洗ったりカラーリング……色を変えたりということもあるみたいです」
なんだろ。二人仲が良いな。
苛々するぞ。
「結婚をしないとなると家の継続問題なんかはどうしていたんですか?」
「わっ、わっ。すっご、ワイバーンに騎士さん乗り込みましたヨ!! あ、ご免なさい。えーと、継続問題てすね。ボクの居た国に限定すると貴族制度はなくて民主主義国家といって選挙で代表者を決めるんです。だから会社……ええっと伝統のある小数の家以外は結婚の有無は自由です。勿論 血の継続の拘りも薄いです。あ、きゃっ! ワイバーンこっちに来ます! ユンナ! ユンナ! スゴッ、来るよ、オーイ、オーイ!」
「こ、こらっ。そんなにはしゃぐんじゃない。ワイバーンなら獣避けに牧場にも居るぞ」
「え? 本当ですか?」
ああ、漸く此方にも顔を向けてくれた。
「あぶない‼」
多少揺れたか? いや、生えた雑草に車輪が乗った程度だろ?
ハルが床へ転がるのは早かった。ポンっと飛んでコロンって……。危ない。これは軽すぎてこの程度でも転がって馬車から落ちてしまうかもしれん。この世界でもっとも安全なヴィサワーゴの馬車に乗って転げ落ちるとかあり得ないことだ。気をつけよう。
「エヘヘヘ、失敗しちゃった。ご免なさい」
良い 許す。
馬車は初めてだと言っていた。失敗は学習の種とも言うしな。うんうん。そうだ!
「ハル、此方へ来い。こうすれば万が一にも落ちることはないだろ」
床に座り込むハルを抱き上げて驚いたが、これは中身が入っているのか? あまりに軽い。え? 大丈夫なのか?兎ももう少しあった気がしたぞ。
「はひっ。領主様。領主様の席は上座です! 領民さんに叱られまふっ!」
おい、まふってなんだ。腹いてぇわ。
「ハルは私より身分が上なんだ。私がしっかり保護していることを領民らに見てもらった方が都合が良いのだぞ。それにこうしていれば膝をつかなくてもちゃんと見えるだろ」
えっ、あり得ないんですけど。領主様の片膝の上にお座り? いや、確かに窓向きになるし、ちょっと筋肉張ってかたいけど座り心地良いよ。え、でもこれ大丈夫? 後で不敬者めって断罪案件にならない? 余計なフラグは立てたくないのですが。チラッとユンナを見るとニコニコ頷いてた……大丈夫? なのか?
「有り難う御座います」
こういう時は色々気が付かないことにするが正解として。ええ、何やらわたしの乙女な部分がガリガリ削れて行く感じはありますが……あ、忘れてた。わたしはボクで少年です!
「わが主様、どさくさに紛れて美味しい位置拾いましたね」
「ほーら ハル。領民らが手を振って居るぞ。ハルも こんちは しようか。手を振ってみると良い」
微妙に領主様とユンナが噛み合ってないようですが、手を振ってとの指示に応えることにします。
恥ずかしいけど両手をふりながら馬車に平行して走る子供たちの喚声、癖になるかもですよ。