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泥団子と公爵様  作者: 狐火
6/28

6 あ、やっぱりいたか。



◇◇


グラスの中のピンクの液体を眺めていると、グラスの向こうの視線と・・・ぶつかった!


そう、それは一瞬の事だった。朱色の前髪が邪魔していたけど、不思議な色の瞳。多分、この世界ではどうなのかわからないけれど、わたしのいた世界ではカラコン?

ピンクの液体の向こうの瞳は濃いピンクのような・・・・綺麗。


・・・・ってちがーーーう!


この人はこのお屋敷の主! んで、領主様!


気がついたら『気を付け』の姿勢で直立不動しちゃってました。

視線はテーブルの上に置かれたものに伏せられていて良く見えないのに、纏う空気が無機質で恐い。怒っているのか、表情が動かない。


褐色の肌に朱色・・橙色程黄色は強くはないかな、暗い照明のせいか炎の様にも見える前髪だけ長く上は立ち上がった短い髪型が尚一層絶対零度の空気を放している。目の前の主さまを不機嫌にしている要因を思いっきりもっているという自覚はある。有り過ぎていたたまれない。せめて挨拶と謝罪を。


「ごみぇわく……」


・・・噛んだ~。

初っぱなから噛んだよ⁉

恥ずかしすぎて瞼が熱くなり、視界が涙で霞んできた。霞んだ視界の先で公爵様と目があった。

やっぱ瞳のピンクだ。



レタスを千切ってせっせと口へ運ぶ。千切ってはむしゃむしゃ、千切ってはむしゃむしゃ……。瑞々しいレタスは美味しいなぁ!

現実逃避真っ最中です。

だって目の前の領主様 ずーっと肩を震わせて笑っているんだもん。

笑う? あれから何分 笑っているの?

ちょっと噛んだだけだし。

もぅ、無視ですね。


「リサさん、このレタスとっても甘くて美味しいです。有り難う御座います」


少し離れた壁に立っているリサさんへ感謝です。向こうじゃお野菜高いからね、独り暮らしで葉物を食べようと思ったらパックサラダ……それも見切り品ですわぁ。シャキシャキレタスのシーズンはやっぱり向こうと一緒かな? いやいや向こうはハウスが先行してたから冬でもお店に並んでたけど、春? 春だとしたら時系列は一緒なのかな?


「ハル様……… そうお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「はい。あ、でも、様なんて付けられたことないから」


「いいえ。ハル様は天界からの御使者のような尊き方です。是非 様付けはお願い致します」


悪戯っぽいウィンクは大人可愛いだよね。


「ふふふ… ハル様はレタスは大丈夫なのですね。苦手なもの等はございますか?」


咀嚼していたレタスをカップに入ったスープで流し込む。仰々しいカトラリーのマナーが無いみたいで良かったです。


「野菜は大体平気です。お肉も……あ、この世界のお肉は豚とか牛、鳥が一般的ですか?」


「そうですわね。牛は畜産農家が共同で放牧場を管理しています。乳牛は小ぶりですが食肉に適したものは子牛でもニメートルはあります。」


「え? 子牛でですか? 成牛はもしかしてこのお屋敷くらいだったりしますか?」


「いいえ、いいえ。大きさは三メートルちょっとかしら。ただし横にぼーんってね。」


うふふってリサさん笑ってますけど、横にぼーんが気になるところですよ。もしかしてまん丸っぽくなるのかな?


「あぁ、後で落ち着いてからでも牧場を見せてやる。ハルの言ってた豚は分からんが、この世界の肉は牧場の牛や鶏の他に、森の獣も狩っている。森に棲むものとの共存が望ましいが、数が増えすぎれば農作物が食い荒らされる。」


そうだね。数が増えすぎれば農作物が食い荒らされる。森が減少しなくても生物は餌の数に比例して増え続けるのだろう。餌がなくなれば弱肉強食の世界で森のヒエラルキーが確立されていくのかもしれないが、その領域に必ずしも人間が無関係でいられるわけもなく、寧ろ弱肉強食の中に人間が組み込まれることが生物の平等に沿っているのかもしれない。向こうの世界の場合それが星まで引きずり込んでしまっているのだから。


「ん? 少し難しかったかな?」


ここはコクりと頷くのが正解だと思います。

色々考えることが山盛り具沢山ですが、わたしの中では『あぁ!やっぱりいたか 規格外』な異世界アニマルに心が征服さているのです。

まん丸な牛ってどんなだろう?(いや、まん丸と言ってないぞ)ってか、領主様 人参残っていますよ。



◆◆


泥塗れのボロ布のような少年が見違えるように美しく変わった。一晩中泥の中にいたらしいが、さぞ心細かったであろう。首根っこを掴まえて引き抜いてしまったことへの謝罪をまだしていなかったが……明日にでも何かしら機嫌をとったほうが良いだろうか? その辺りはセハスに相談してみよう。


『時を跨ぐ者』としてこの先我が領地で暮らすことになるが、あの華奢で庇護欲を掻き立てるような姿では領地の外へは危なくて出すことができないだろう。早々に陛下へ謁見を伺って保護対象として内外に周知させていただかねばなるまい。

それにしてもハルを観察しているとなかなか面白い。メイドたちが面白がって飾り着せたのだろう公子服もなかなか似合っていた。いや、なかなか等ではないか。

ハルの居た世界はかなり発展した世界のようだ。あの所々に見える品性は余裕の現れのような気がする。手掴みでレタスを千切る所作などを見ていると 本来こうして食べるべきもの 等と思えてしまうから不思議だ。


昼寝を十分したと言うのに欠伸を噛み締めながら「おやすみなさい」って、あれは良い。


「旦那様、お顔が緩んでおりますよ」


煩いぞセハス。



私も今夜は久し振りにぐっすり眠れそうだ。





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