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泥団子と公爵様  作者: 狐火
25/28

25 もぉ、置いていかないで




リンバニアース王国の終焉は三日と経たずに世界が知ることとなった。

実は王族を含め宮殿にいた腐敗貴族たちは、サラン王国の軍隊が到着した時には王宮を囲む城壁に打ち付けられて事切れていた。その数54体。収集癖のある精霊が先人より聞いた女神さまが悲しむ方法での教育は行わず、生きるものの尊厳は大切にした結果 身許も分からぬ肉片 として綺麗に秩序良く城壁に打ち付けたのである。それらの周りにはその肉片が着けていたであろう金銀の宝石で飾られた装飾品が飾られていた。離れてみると夜会に出される料理のようにも見えなくはない。

夜には腹を空かせた魔物が匂いを嗅ぎ付けて来るだろうが、今少し形がなくなる前に生前には出来なかったであろう 他者を楽しませる そういった奉仕をするのも一興だろう。そのかなり人間の感覚からは心使いと言うもののぶれた精霊たちの行いは、サラン王国の兵士たちの心をポッキポキに折ることになってしまった。「女神さまの使徒 おっかねぇー」これが兵士たちの共通認識となるのにそれほど時間は必要なかった。


「おい、枢機卿の屋敷が燃えているぞ!」


「駄目だ。手が回らん。貴族街から隣の屋敷が裂け目に沈んだとの報告が入っている」


「何を言っている! サランの国王より『リンバニアースの愚か者には助力ならん』とお達しがあっただろう。女神さまの慈悲を受けたものは助かることになっている。我らがすべきは精霊様のお心のままになされることを見守る それのみである。」


「はっ!」


業火を浴びて燃え盛る腐敗貴族の屋敷。しかし不思議なことにこれ程の業火の中でも、全く被害のない屋敷もあった。これがこれからの処遇を分けるものとなる。


リンバニアース王国から南に二日の国ネメーリン王国でも災厄を迎えていた。サラン王国からの早馬が到着する前に既に事は始まっていた。そう、離れているから忘れられる訳ではない。意思には距離は関係ないのだ。正に第一王妃の故郷である。


『潰せ! 潰せ! 種のひとつも残さず 潰せ!』


女神さまの憂いとなったもの。その元凶は潰さねばならない。今後再び、女神さまが僕らを置いていってしまうことの無いように。


未曾有の災厄。精霊たちの教育的指導は三つの国を半壊させ、数えきれないほどの貴族をその貴族録から消すことになった。




『わーい。ここは見晴らしがいいね』

体の大きさを標準の獣モードまで戻した魔獣たちがヘィリアースの城壁の上を走り回っている。

小さくなってしまった魔獣たちを残念な瞳で見つめるハル。もふもふ思念の塊である。それでも少しだけ自分の置かれている現状を悟っているのか、見た目は冷静を保っている。城壁を速足で歩いているが。魔狐の三つ、五つに別れた尻尾から視線を離さず、見るものが見たらかなり怪しい素振りではある。


「この後我々は陛下への報告があるのだが、魔獣さま、ぁぁ、精霊さま、………… 申し訳ない、どのようにお呼びすれば良いのだろうか?」


真面目か!

ジェレッドは普段見せることのない瞳を魔獣の長老たちへ向ける。ジェレッドの瞳は魔力量に応じて色が変化する。幼い頃からその魔力欲しさに拐われ掛けたり、反王制派から命を狙われたりした。その為領地の中でも瞳を晒すことはなかったのだが、神聖なる者の前で己を隠すことは傲慢で無礼な態度であると考えたのだ。ジェレッドの瞳の色に長老たちはニヤリと口許を緩めただけで何も言わなかった。人族の中で魔力が桁外れにあったとしても、それが興味を引く対象にはなり得ないのだ。例え魔力の多いものであっても女神さまの心一つでその価値は変わるのだから。


『女神さまを保護していただいた有り難い御方ですゆえ、我らの事はお好きなように御呼び下され。』


城壁の上を走り回っている魔獣たち。キャッキャ、ウフフ。

その後ろを追い掛けるハル。かなり怪しい……。

そして城壁の下で万が一にもハルが落ちてしまわないようにと着いて歩くシロチャン。

長閑だ~。


城壁はヘィリアースの領地を全て囲んでいる。かなり広くアマオニーの屋敷から全て見ることは出来ない。自分達の視界の入らないところでハル……女神さまに何かあっては大変と、空からは龍とワイバーンが見張りをしている。ナビファス伯爵から借り受けたワイバーンは、マジ物の魔獣たちに萎縮してしまって屋敷の横で固まっている。

そしてもうひとつ、ヘィリアースの領地に変化があった。


『いい匂いがしたの。』


『甘くて、優しい匂い』


魔獣たちがリンバニアース王国から御持ち帰りしたものは《2階建ての離宮》とその中身だった。

中身の名はマルガリータ・ドルシュとその侍女たち。


「中に誰かいるとか確認しなかったの?」


マルガリータさんの侍女さんから貰った干した果実入り焼き菓子をポリポリ。立って食べるのはこの世界ではお行儀が悪いことだけど、ほわ~っと香る甘い匂いがたまりません。


『かくにん?』


『どうして?』


『女神さま りょうみんのお家欲しいって言った』


うん。言った。何かあったときの集会所的な、避難させられる建物とか欲しいって……確かに言ったね。


『お前たちは馬鹿なの? 建物にハル様を害するものが居るかもとか、想定できないの?』


シロチャン ちょっと声大きい。いや、言っている事は尤もだけどね。まぁ、そんな事はないとは思うけど、扉を開けたら敵兵がドドドーとか、最悪あるわけだから。シロチャンはそういうところを危惧しているんだろうね。ヘィリアースの領民の安全もあるわけだし。


『…… いい、匂いしたもん』


いやーん。魔狼の尻尾が!

なに! 萎縮しちゃうと本当にお股の間に尻尾を挟むんだ!


『大丈夫かどうか、匂いでわかるもん』


魔狐はあざと可愛い! チラチラこっちに助けを求める視線が可愛すぎるわー! 頭を撫でくりまわして、その今はへにゃりとした三角お耳をハムハムしたい。力業で(難しいけど)ひっくり倒してもふぁもふぁのお腹に顔を埋めたーいーーー!!



と言う心の叫びを大人な態度でグッと押さえてわたしは対処したよ。


「リンバニアース王国へ帰りたいのであれば、送り届けましょう」


ワイバーンとかに建物ごと運んでもらえば問題ないはず。そう思って言ったんだけど。


「女神さま、御面倒をお掛け致しますが、どうかわたくしたち四人をこのまま此方へ置いていだけませんでしょうか。」


淑女の礼とか言うのかな、凄くきれいなお辞儀です。侍女の方たちもブラボーざますぅ。


「あ、そこはハルでお願いします。女神云々は内緒で。」


異世界人ってだけで面倒なのに、また訳の分かんない二つ名ついたら命幾つ有っても足りないって未来しか見えないよ。それからここでの生活を望むのなら「アマオニーにきいて」なのです。だって、多分、恐らく アマオニーが領主様で国王様になるのだから。ね。



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