21 泥団子とシロチャン
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そういった話は何処にでもある。
自国の領土を広げるため後ろ楯の無い小国から立て前上、そう、外聞が悪くない程度に「国王の妻」若しくは「王族に仕える」という名目で姫を嫁とる。その後は「援助」という名の隷国として領土を奪うのだ。カーネル子爵の姪の領地も元は一つの国だったのだろうが、大国リンバニアース王国に喰われた国の一つなのだろう。
それよりも と、ジェレッドは目の前? 下?の少女に小首を傾げる。
顔、髪色、いや、その姿は確かに見覚えがある。恐らくは隣に立っているのはアマオニーという娘なのだろう。だがその横にしゃがみ込んで雑草を撫でているのは……。華奢な体に全くあっていない紫色のドレス(おいおい、半分肩が落ちているじゃないか)の少女。服が無かったのか? そういえば寝巻着のまま拐われたのだったか。
そんなジェレッドの思考を完全無視して少女の頭を撫でまわしているカチィーナとリサ。
「バぁールーざぁーばぁー! もぉ、心配いだじばじだだぁ」
「マオニー、あ、アマオニーだったかしら? あなたねぇ ハル様を拐ってただで済むと思っていますの!?」
半泣きのリサにアマオニーに噛みつくカチィーナ。しかし「ダメ、動かないでください。今、この子たちが種を飛ばします」
そう、アマオニーの話に大泣きした翌日からハルは木々の声が聞こえるようになったのだ。実は共鳴はこの世界に来てから既にあったのだが、外へ出る事もなかったハルは気がついていなかっただけだった。ハルが気がついていなかったのだから他の者が気が付くわけも無くーーーという具合で、ジェレッドの「実はハルは女の子?」と言う疑問、確認は、当然既に知っていたハル付きメイドには完全スルーである。完全スルーにしっかり載った執事長セハスは、内心のドキドキをしっかり隠しながらの何食わぬ顔と言うやつを決め込んでいる。感動の再会の筈なのに、何故かしっくりしないジェレッドだった。
勿論 そんなのはお構いなしのマイペースハル。
「もうすぐ、悪い奴らがここに来るんです。人の命を屁とも思って無い屑野郎です。」
いつそんな悪い言葉を覚えたのか。メイド頭であるリサはギリリとアマオニーを睨み付けるが、睨み付けられたアマオニーはなんの事か分からずキョトンである。ハルはカザフスでは口数が少ない『余計なことを言わない子』なだけで、今は至って通常運転。コレがハルである。そして目覚めてからずーっとそんなハルと居たアマオニーはこの感情のまま話すハルしか知らないのであった。
時を遡ること二日前。早朝。
領地を隔てた隣であってもここは他国。リンバニアース王国である。自国で保護していた異世界人が他国に拐われたとあっても、一つ一つ手順があった。
最初に自国の国王への報告とそれに伴う策略の検討、そして次に相手国への報告。相手国への勅使派遣。まどろっこしい事この上ない。
「それらには例外はありません。例え我が国の王妃が拐われようとも、いいえ、国と国が関わることであれば尚更慎重にしていただきたい。」
「ならばみすみすハルを奪われても指をくわえていろと?」
ワイバーンで国王へ『時を跨ぐ者』の拐かしを知らせて半日でやって来た勅使の顔色は悪い。城にワイバーンを使役しているわけもなく、ましてやワイバーンに乗るなど大半の者の人生にとって経験する必要の無いものだ。見た目40歳手前か、着いて早々くたびれておるのか「国王陛下からの遣い」と言うその男の呼吸はなかなか落ち着かないようだ。その横で座り込んでいるカーネル子爵は更に酷いことになっている。それはそうだろう。妹の忘れ形見である少女の身の振り方を考え、良かれと思って糸より細い伝を使って公爵家の使用人へと頼み込んだと言うのに、よもやの人拐い、加害者側である。それも神の使者である『時を跨ぐ者』様を
。逸そのことここでキュッとひとおもいに心の臟を握り潰してくれまいかーーー。「妻よ子よ、すまぬ」涙も出んが!
まぁ、そんなところだろう。
勅使との話はいつまで経っても平行線。「国としては認められん」の一点張り。次第に痺れを切らしたジェレッドの瞳の色が変わり始めてーー泡を吹いて気を失うまでのカウントダウンに入った頃「そうだわ。わたくしのお友だちが帰省していますの。主様 皆様御一緒に如何でしょう。是非 ご紹介したく思いますわ(友達に会いに他国へ行くなら問題ないでしょう。ついでに主も連れていくよ)」
カチィーナ 頑張った‼
その後は大忙しだった。
「ご苦労さん」とさっさと勅使を部屋へ通して、疲れを癒すための調味料(安眠作用あり)をたっぷり入れた料理を振舞いーーー部屋へと案内。勿論 外側からの鍵は忘れない。
その後翌朝にかけて私兵を組み諸々の手筈を整える。目立つわけにはいかないので、私兵80名は二組に別れてカーネル子爵領へ向かわせる事にした。勿論 一見商隊として偽装してである。その刷り合わせのためと準備に一日を要することになったのは後の反省として鍛練に活かすべき所である。
ナビファス伯爵からワイバーンを追加で借り受ける許可を貰えたのは僥幸であった。それでも伯爵がワイバーンを呼び寄せるのに半日近く掛かってしまったことを大層恐縮してしまっている様子には、逆に申仕分けなく思ってしまった。
そして漸くジェレッド、セハスに加え「不測の事態」に備えてメイド頭のリサ…… と、置いて行かれることに気が付いたカチィーナの「わたくしのお手柄ですのに!」と大暴れの時間を得て、ワイバーンに乗った四人は先陣を切ることになった。
【先陣に大将って有り得ないでしょう】
と、ここまでがこの二日間の話である。
「ハル様、そろそろ日が高くなって参りましたわ。奥へ入ってお茶でも如何でしょう」
かれこれ一時間も6人は外で睨み合っていた。いや、睨み合っていたのはリサとカチィーナがアマオニーとであるが。そんな空気をものともしないハルは、森からトタトタとやって来た魔熊のシロチャンの毛繕いを始めてしまっている。
「それは大丈夫なのか?」
同じように大森林を背に暮らしているカザフス領地であっても…………シロチャンは居なかった。そもそも白毛の魔熊は魔熊の中でも滅多に人里へは降りてこない貴重種。そして魔獣の中でも神経質で気難しい。詰まりは獰猛と言われる魔獣にカテゴライズされているのだ。
うちにはシロチャンは居ない。
「お家の中にずーっと居ると体に良くないので」
こうして…………と、始めたのは輪投げならぬ、花輪投げ。
「ほら、シロチャンは賢いからちゃんと受け止めてくれるの」
確かにハルの投げる花冠を上手いこと額から突き出た一角で受け止める白魔熊。お見事‼
「ーーッ! ぅぅーっぐわー!! や、やめっ!」
「ヒッ! な、なんっ、ーーーや、ゆる、じてぇー、ーーぎ、ぎゃぁぁぁーー」
「なにをするかっ! こ、このぉーー、、ば、ば、ばけものめがぁぁー!」
「ぎぇーー! た、たふけてくれぇー!! 熱い! っあ、ついーー! 痛いよお!!」




