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泥団子と公爵様  作者: 狐火
20/28

20 泥団子 途方にくれる


不定期更新ですみません

気が付いたときにでも 可愛がってください。



◇◇


目を覚ますと見慣れぬ天井…………なんて、この世界に来て何度目の感想?


馬車でマオニー改めアマオニーさんの膝枕で我ながらうっかり眠りこけてしまったらしく、目覚めて一転綺麗な天井……。蜜蝋と言ってたかな、ほんのりと柔らかい明かりに天井に描かれた花弁たちが浮かんで見えます。


この世界では小さな灯りには蜜蝋を使うのが一般的だと『生活』の授業で教えてもらいました。教鞭を取るのはメイド頭のリサ。「この屋敷では必要になることはありませんが」と前置きをしてから「生活の細々したことを知っていた方が不安無く過ごせますからね」と、本当にリサは心にちょこんと鎮座している小石を軽くしてくれる天才です。

蜜蝋はその質によって価格も違って、安価なものは雑多なものが混入していて嫌な臭いがするそうです。ここは……うん、嫌な匂いはしない。多分お高いヤツだね。


それにしても静か。

アマオニーさんはわたしを膝の上に載せて(膝枕よ!)スピスピ眠っているし、この部屋に漏れてくるような外の気配は無い。領主様の屋敷から出ることの無かったわたしには勿論この世界の建築物の基準が分かる筈もなく、それでもこんなに部屋の外の物音が聞こえないところを見ると掘っ立て小屋とか言うものじゃないな くらいは悟れるかな。


ヨッコラショ は心の加勢として、腹筋を使って体を起こす。

思った通りお手頃な部屋の広さです。そう言っても恐らく向こうで言うところの子供部屋二部屋分くらいね。石造りの暖炉が壁に埋まっているところから、壁の厚さも結構ありそう。そこだけ見ても物音が容易に漏れてこないのは頷ける。


「もう少し、おやすみなさい」


「狸寝入り!?」


「………… それは異世界の言葉? ねぇ、どういう意味ですの?」


貴族の子女か壁に凭れて眠る図というのもレアな感じですが、片目を開けて眉をあげるという何やら親父臭い様も顔面偏差値が高い分……ご免なさい 笑えるわ。


「あなたねぇ ご自分の置かれている立場お分かりになっていて?」


身分の低いものは高いものへの疑問系の言葉はマナー違反だと教わった。それは向こうの世界での事であるが、そういうものはこの世界でも通じると思う。『イエス』or『ノー』。時間は有限なのだから。それならば片眉を上げて一見保護者顔をしているアマオニーさんは指示をする側、それになれた層の人ってことなのかな。それとも単純にわたしが異世界人だからなの。


「でも驚きましたわ。まさかカザフス領地降り立ったのが女神様だったなんて。もしかしてその公子様のお姿は女神様であることを隠すためのものだったのかしら?」


色々突っ込みどころが有りすぎて、どこから修正してよいのやら。


「ーーっと。ココハドコデショウ?」


そう、現状確認大事。現在地の確認からよね。


「そんなところに立っていないで、此方へ座って。」


いやいや、自分を浚った人間の隣とか無理でしょう。「あなたが欲しい」なんて、まともなシチュエーションならちょこっとポッとか頬染めちゃうかもだけど、これは無いわ。うん、無い。


絶対無理の意思表示に、一歩後退でふ~っと。


「ふぅ~。まぁ、いいわ。わたくしはソファで眠りますから、ハル様は此方を使ってください。少しでも体を休めていただかなければ、ニ~三日後の戦では体が持ちませんわよ」


ん?

20世紀わたしが居た星では多くの戦がありました……。しかーし、21世紀生まれの御身には戦は大河ドラマか映画の中だけ。時々ニュースでやるそれも遠い遠い異国のもので、幸いにも隣の席の○◯さんのモノでもなかった。向こうに居た頃の最悪は防ぎ用の無い、いつまで経っても予知できない天災や馬鹿野郎の煽り運転くらいでーーー 戦? それは関ヶ原ですか? あ、それともーーアリス! 聖戦ってやつでふか? か!か?


「え? キラキラの意味が分からないのだけど?」


キラキラ 漏れてましたか。不覚です。


いや、冷静に考えようか。

戦が2~3で。

「あれ、戦争ってことですか?」



アマオニーは呆けてしまっていた。

自分の生い立ちを話、それに巻き込んでしまったことへの謝罪を口にしようとして居た矢先に突然シクシクと泣き出し、挙げ句に……今は床に突っ伏し欷泣から嗚咽混じりの慟哭に過呼吸を起こし掛けている少年……否、少女を呆然と見下ろしていた。


跨ぐ者が現れたと耳にしたとき、アマオニーの中で漠然とした計画が思い浮かぶだけであった。そう、それは実行にはあまりにも荒唐無稽、誰が考えても上手く行く筈の無いものとして。したがって叔父であるカーネル子爵にも「母も身内すら亡くなった後の領地を経営していくのは、自分一人では難しいので他国とはなるがカザフス領地の公爵様の使用人奉公へのお口添えを願えないだろうか」そう願ったの半分は本心であった。本当に漠然としたものだった。それがハルという異世界人を目にした途端鼓膜を揺すって脳の中へ声が響いてきたのだ。『上手く行く! 全ては神の思し召しなのだ』と。勿論 魔女として王妃たちの権力争いの見せしめとして殺された母の無念の前に 神 等と言う言葉は使いたくなかったが、ハルという世界の価値観を超越した姿を見てはそれを動表現するべきか? やはり『神の具現化した姿』としか思い至らない。


ハル様…… 屋敷の者のごく一部の者にしかその姿は知らされていない。しかし『時を跨ぐ者』がカザフス領地へ降り立ったことは一月と経たずに近隣の国へ知れることとなった。カザフス側が慌てて間者を始末してもサラン王国への使者を放った時点で既に後の祭りとなっていたのだ。しがない辺境の地に住む叔父の耳にも入るほどには、その秘するべき情報は意味の無いものとなっていた。只それは年端もいかぬ少年であるとあったため、荷馬車に揺られ汚れて不憫に思ったこの屋敷の只一人の使用人に着替えを頼むことになって初めてそれが少女であることを知ったのだった。


「うぅぅっ。わたくしが、わたくしがしたかったですわぁ!」という心の叫びは勿論涙と一緒に非開の間へ封印した。第二王妃の子と言えど王女教育は受けているアマオニー。表情筋の操作くらいできるのだ。


「あ、ーーー」


いけない、いけない。泣きつかれてカピカピに干からびたまま寝入ってしまったハル様をこのままには出来ないわね。

それにしても軽すぎるわ。公爵家のメイドたちも言っていたけど、どんなものを食べ続けたらこんなに軽量のまま生き続けられるのかしら。

軽いからアマオニー一人でも裏口まで運ぶ事ができたのであるが。流石に荷馬車へ乗せる時は従者の手を借りることになったのだが、余りの華奢な体に馬車の揺れに耐えられるのかと心配になってしまったほどにその体は細く弱々しかった。



夜の闇はまだまだ開けることはない。


時々 思い出したようにすすり泣き嗚咽を漏らすハルの声を載せて、蜜蝋の微かな煙は壁に沈み、壁は風にその声を運び、森の木々は耳を傾け、木々で休む鳥が、獣が、そして魔獣たちが、純粋に悲しみその理不尽さに涙するハルの心の代弁者となりリンバニアース王国王都へ向かう。


さわさわさわーーー


ーーー ざわざわざわ



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