16 泥団子 不思議貴族とあう
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ダダダダーン! 脳内決起集会♪
いや、いや、音符なんか飾ってる場合じゃないよ。このまま怠惰な生活の中にいたんじゃ、その内わたしは歩くこともままならない子になっちゃうよね。ってことでストレーーーッチ!
幸いこの部屋には手頃なお道工が沢山です。ほら、この無駄に大きな花瓶とか「ハッ!? ハールさーまぁ、それ壊しちゃったらメイド頭の首二つは必要です」…………うん、花瓶は止めよう。ぁぁ、ほら、このなんの目的でここに鎮座してますか?的な球体。こいつを使って上腕二頭筋からの……ウーン、この球体やたら固そうだよね。高さがあるから脚をのせて「ハッ!? ハールさぁーまぁー! そちらの水晶は魔素を聖純化合させるための貴重なもので御座います‼ 何卒、な~にとーぞ 足掛けなどなさいませんよーうーに~ー!!」こっわ! ユンナどこで見てたの?
ウン、この球体も駄目ーーーっと。
今わたしはお庭に居ます。
あの後(ユンナの否定のあれこれ)領主様にお手紙を書いて渡して貰うことになったのです。え? 字は大丈夫ですかって? もちろん……読めると思います。『領主様。お仕事お疲れ様です。お庭の散歩をユンナとしたいです。ハル』メモ程度ですが頑張りました。ペンも紙も初めてのものなので時間は掛かりましたが、大丈夫でした。
お月見予定のお庭は準備で立て込んでいるようなので、今回はお客さん用のお庭です。はい。お客さん用なのでフルフェンス装備です。中東圏の女性がこんな感じだったかな? 頭から白い布を被せられ、目の部分だけ開いてる的なね。いつもより隠されてる面積が大きいような気がするんだけど、多分これもお客さん用のお庭という理由からだと思います。
「ーーーったく。あなたたち母子は御方のために何か役に立つ努力をしようとは考えないのですか? まぁ、母親はあんなで事故で消息不明なので今更ですが、御方の庇護を無償で恥ずかしくもなく受けていられるその神経が信じられません。」
後継人の代理と名乗る男の自分を捉える視線は最初こそは無表情であったが、時間の経過とともに明らかな蔑みと苛立ちに満ちていた。こちらが頼んだ訳でもないと言いたかったが、では、後見人と言われる母の実家の援助がなくなった場合の生活を考えると口から言葉が出てこなかった。パンひとつ、下着ひとつ買うにもいちいち連絡を取らなければいけない生活の中で、母の墓参りのための費用など無心できるわけか無かった。漸く就職先が決まってお墓参りが出来たと思ったら異世界転移…………。でも、なんだろう わたし今楽しいかも? 弁護士と名乗る代理人さんには悪いけど、虎の威を借りてわたしにお仕事のストレスぶつけまくってた人たちに会わなくても良いんだって思うだけで、元の世界へ帰れないことなんて本当に些細なことに思えてしまうの。
「これはユンナ嬢ではないですか」
何を求められるわけでもなく、居てくれるだけで名誉なこと とまで言って貰えるのだからこれって凄く幸せなことだよね。振り替えってユンナへニッコリです。
「……………………」
あれ? ユンナったら難しいお顔。うん、ニッコリは自己消化の脳内完結ピリオドな訳だから、ユンナったら戸惑ってるね。それで『おいおい、ハル様ったらまた訳の分かんない共有を求めてきたよ。』くらい思っちゃったかな?
「ああ! なんて素晴らしいの。こんな所でユンナ嬢にお会いできるなんて」
ん?
「ご機嫌よう。ワーゲン卿。」
「素晴らしい。ユンナ嬢の瞳に映していただける僕の強運。ああ! やはり僕は太陽神に愛された男なのですね。」
なんだろう。
突っ込みどころが有りすぎて、ここは聞かなかった事にしようと薄く眼を閉じる。目の前の大男は大鉈が似合いそうな上腕二頭筋に大事そうに藤で編んだような篭を抱えている。うん、繊細すぎる篭が上腕二頭筋に隠れちゃってるね。
「ユンナ嬢、どうか見てやってください。初採れの馬鈴薯です。公爵様よりお預かりしている農地から ほら、この様にご立派な馬鈴薯が育ちました。そして夜の神と太陽神のハーモニーによって生まれた白アスパラ! 素晴らしいでしょ! 素晴らしいですね! 僕の敬愛してやまない公爵様よりお預かりしている農地なのですから、その辺のお野菜たちを植えるわけにはいかないのですよ。この白アスパラは西の国へ学者を忍ばせて知識を習得させましたのです。いいえ、種を不法に入手するなどという不名誉な事は決してしてませんよ。敬愛してやまない公爵様の名に誓って、正当な技術的搾取です。そして何よりもこちら! 瑞々しいですわよねぇ。こちらは早採れのトマトちゃんですの」
次第に言葉がお嬢系になっていっているみたいだけど、異様な腹筋の割れ方をしてそうな目の前の男の唇が動いてるってことなので、この男の人の口から出ている言葉ってことで間違い無いと思う。う~ん、マペットではなさそう……。
『公爵様から預かった土地』という言い回しですが、少しだけこの国の貴族について勉強をさせてもらって分かったことは、王様は国の施政を決定するヒエラルキー型組織とした場合のトップ。ここまでは元の世界で歴史等で大まかに理解できた。面白いと思ったのは公爵の権限。王様が貴族や何かしらで成功した平民に与える爵位の他に、公爵家は自領で管理している貴族の爵位を変えたり与えたり出来る権限を持っていること。過去にはおイタをした伯爵家が廃爵になったり、面白い研究をしていた学者さんが「これは領地のためになりそうだ」って爵位と土地を貰ってということがあったみたいです。
きっとこの人もそんな感じ?
「ユンナ嬢、聞いてください。これからのシーズンはベリーちゃんたちが大活躍してくれますの。カシスやグーズベリー、ああ! そうです! 三年前に苗からお取り引きしたブルーベリーが実を着けましたの! 今はまだ初々しい緑色をていますが、これから沢山の光を受けて濃い紫色になります。是非 ユンナ嬢にも食べて頂きたいと。~ーーー!」
え? 散々スピーチ(マシンガントーク?)してしていたのに、急に身悶え始めましたが? なんのスイッチかな。
「どうなさいました、ワーゲン卿」
うっわー! 言葉とは裏腹のなんの関心もありませんよなユンナの棒読み! おまけにうんざりを隠しもしない半目って貴族相手に許されるものなの? あ、ユンナも貴族なのか。
「ハ~ー! 今 僕の瞼の裏庭にユンナ嬢のぷるんとした唇がブルーベリーをーーー ……………… うっ! なんて罪深い人」
「さ、ハル様。御目汚しの後は美しいお庭で癒されましょうね」
あ、ユンナ大明神様ったらぁ、ワーゲン卿の話を途中でバッサリ切っちゃったよ。
いいの? これってマナー的にセーフなの?
チラッとユンナを上目使いしたら、キュッと繋いでいた手に力を入れられました。
うん、きっと大丈夫なんだね。うんうん。




