14 いや、いや、月は3つに決まっているだろうって、決まっているの?
いろいろと残念なジェレッドです
はい。
◆◆
「おつきみ?」
中庭に急拵えで仕度されたテーブルには色とりどりの小さな丸いものが皿の上に並んでいた。
これは何かと尋ねる私に、ハルはクンッと顎を上げて「おまんじゅうです」と答えた。実に嬉しそうにニコニコと。その横で自慢げにフンスと胸を張るチャチャの何と憎らしいことか……あ、いや、ハルの求めに確りと応えることが出来た彼女の努力は評価に値する。しかしな……しかしだ、何故 私へ一言声を掛けてくれなかったのかと、大いに不満である。そこへのドヤ顔からのニヤリってどうなんだ。
「はい。そうです。チャチャありがとう。小豆の話を聞いたとき凄く嬉しかったんです。ボクの居た国ではお月見と言う風習があるのですが」
「おつきみ?」
皿の上に手を伸ばすチャチャを制して。お前 死ぬほど味見したよな?
「はい。季節…… えっと、春には花を楽しみながらお団子ですね。夏は……団子はないか。アハハ。秋は月を眺めながらお月見団子です。冬は雪の地方では団子を入れた鍋があります。」
「これを鍋にするのか?」
恐らく鍋にしたらドロドロになると思うが? 風習とは稀に我慢比べの要素もあるらしいからな。
「いいえ。流石におまんじゅうは入れません。団子はお米と言うボクたちの主食にしているものを潰して丸くしたものです。」
良かった。これは鍋にはしないのだな。
いや、ハルの世界のものであれば食べて食べられぬものではないが、寧ろ喜んで馳走になる覚悟はある。
御馳走になるのに覚悟が必要?
「おまんじゅうは母がお月見に合わせてよく作ってくれたんです。月が綺麗に顔を出した頃を見計らって縁側の窓を開けて、おまんじゅうと温かいミルクで夜食を摂るんです。あ、ボクの世界では月には兎がいて餅つきをしている なんて言われているんですよ。面白いでしょ」
餅つきは良く分からないが、月の兎はこの世界でも良く言われている。月の明るい夜は魔兎が悪戯をしに来るから、子供は遅くまで出歩いてはいけない。夜遊びを戒める話ではあるが、ハルの世界でも似たものがあるのかもしれないな。
こんなに幼いのに母と離れて、それでも泣き言も言わず気丈にーー!
「あ、こらまてっ!」
はやっ! チャチャ お前 こんなに食べ物に執着してたか? 折角 ハルの心情に浸っていたと言うのに、私の情緒を返せ! それにしてもなんなんだ。給金足りてるよな? シェフにちゃんと食わせてやってるか確かめた方がいいのか?
「うっわぁ! やっぱ あたし天才! ね、ね、ハル様も早く食べてっ。」
なんなんだ。初めては私が食べたかったぞ。ま、ハルが美味しそうに食べてるからいいか。チャチャが居てくれたからハルの嬉しそうな顔が見られたわけだし……だよな。
「それで、ハル様。お月見は秋でなければダメなんですか?」
「え?」
小豆が口の端についてるぞ ハル。
「いいえね。秋に行うお月見を春や夏にやって良いものかな? なんて思ったんです。」
「あぁ、秋に行うのは農作物の豊穣の感謝も込めてだと思うんです。でも、ボクたちの頃には慣習の一つってだけで、商業的な意味合いが強くなっていたように思います。それに月や自然を愛でて詩にする事が古来から高貴な人たちにあったようなので、季節は気にしなくていいと思うんです。」
「素晴らしいな。月を見て詩を書くのか。」
「はい。著名な作家が他国の言葉で 愛しています と書かれたものを国の言葉で訳すのに、より国の気質に合わせてそれらしく 月が綺麗ですね としたという話があります。」
月が、きれいですね…… 。いや、綺麗なのはハルだろう。
あ、小豆がほっぺたに移動したぞ。これは教えてやるべきか?
「ハル様。それはどの月ですか?」
「へ?」
へ?って。なんだったんだろ、間抜け顔も可愛いぞ!
「………… えーっと、この世界では月は幾つあるんですか?」
いやいや、月は3つに決まっているだろう。逆にハルの世界の月は幾つあると言うのだ。
「あかでひょ、はほ、ひいりょ」
チャチャ、おまんじゅう入れすぎ。ほっぺたがパンパンじゃないか。
「チャチャ、そんなにお口に入れちゃうと危ないよ。はい、お茶で流そうね。」
「うん、……………… グキョッ。……………… もう少し皮が薄くても良かったですね。ハル様 ありがとうございます。命拾いしました。」
「グキョッ」っていったぞ。あんな鈍い喉の音 初めて聞いたぞ。大丈夫なのか? チャチャ お前実は 色々凄いもの持っているんじゃないか?
「んん、あ、月でしたね。赤の月は欠け始めています、今は黄色の月が面に出ていますよ。見頃はここ2~3日って所ですね。逆にその後青の月が顔をします。あたしは青の月生まれなので青の月が。好きなんです」
「ハルはどの月に生まれたのだ」
因みに私は黄色の月だが。黄色が薄くなり始めた朝方オンギャーと産声を上げて、一時して産婆が悲鳴を上げて逃げ出したらしい。
「えー、3つも月があるんですね。この星はどの位置にあるのか天体望遠鏡で見たいです」
ハルがまた不思議な言葉を言っている。次にお茶に誘う口実に聞いてみるのも良いな。
「ハル様の所は3つじゃないんですね」
「はい。ボクの所は一つです。濃い黄色の時もあれば薄い時もありますが、それは一つの月で見られる現象です」
一つの月。ハルの世界の月は一つで色が変化するらしい。何とも忙しいことか。あぁ、だから一つの月を大切にして称賛の詩を作っているのかもしれない。
って、おい!!
「ハル様、小豆が着いてますよ~」
「えっ? どこ?」
「もぉ、可愛いんだから。はい、こっち向いてください」
「あ、ありがとうございます。恥ずかしぃです」
くっそ!
なんなんだ、なんなんだ!
あの「恥ずかしぃ」は、私が貰う言葉だった筈なのに。おかしいよな。何故だろう、今日はチャチャに全敗した気分なんだが? ちびっこ相手に大人気ないが、粉骨残らず殲滅された気分だわ。何気にハルとチャチャがお似合いに見えるから尚腹立つわ。
ハル、ハルもそこで真っ赤にならない!




