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泥団子と公爵様  作者: 狐火
12/28

12 泥団子 伯爵令嬢と会う ②



◇◇


ズルい、ズルいと愚図る姿も可愛いですね、カチィーナさん。でも彼女こんな風で大丈夫なんですかね?


「このお茶はマスカットの香りがするね。柔らかな甘さが凄く良い。」


落ち着こう。

うん、この世界マスカットってあるのかな? そう言えば領地の産業ってなんでしょ?


「ねぇ、ユンナ。ここの主な産業って何か教えて貰える。」


「はい。ハル様のお知りになりたいのは『どういった物を作っているか』ということでしょうか?」


う~ん、視界の片隅でうるっとして見つめられると気になりますよ カチィーナ。


「そうだね。ボクの居た世界では、一次産業、二次産業、三次産業と大きく分けられていて、一次産業は主に作物の生産ね。麦や果物を作るのがそれに当てはまるよ。二次産業って言うのはその延長線にあってナビファス伯爵様の所がそれだね。他には鉱山から採掘したものを装飾品や食器、武器なんかに加工したりする仕事もそれに当たるね」


「はい、はい。スイツィール領では織物を作っております。これもそうでしょうか?」


ああ、この子は外見よりずっと幼いのかもしれない。キラキラの眼差しで片手を挙げてる姿は純粋な好奇心。純粋な好奇心を伸ばしてやるのは大人の責務です……。主任先生 わたしはこの子を受けとめられるでせうかぁ?


「はい。カチィーナ。お話を遮ることはマナー違反だね」


「あ、申し訳ございません。」


「ハル様。すみません。この子はこんなですけど、悪気はないんです。ちょっと、その、何て言うか……そう! おめでたいところがあって。そうなんです。綺麗なのに色々残念で、大人しくしていれば高嶺の花系なのに、それを上回る台無しなお口で。本当に申し訳ございません。」


手を引かれて頭を押さえられている様子からユンナの庇護対象なの? 良い関係なのは分かるけどこの世界ではどうなのかな?


「うん。大丈夫だよ。カチィーナの所は織物産業が盛んなんだね。勿論 ボクの居た世界ではってことだからね。三次産業というのはお店やさん……商会や運送業、娼館なんかもそうかな。」


「しょっ、しょうかん!」


「カチィーナ! いい加減にしなさいっ」


「え! え! だって娼館よ。」


「娼婦は卑しい仕事?」


「それは そうですわっ」


そうかもね。

でも、あの時 後継人って人が現れなかったら。

あの時 まわりに助けてくれる人たちが誰もいなかったら……生きるために自分だってそうしたかも。明日も今日と同じ日常が訪れると疑わない事のなんて幸せなことか。


苛々する。

ねぇ、少し意地悪して良いかな?


「歴史上傭兵と娼婦がもっとも古いお仕事らしいよ。カチィーナ、もし貴女が家からも友人からも見捨てられたら…… 貴女には何が残る? 」


「え? お父様はわたくしを捨てたりしませんわ。そ、それにドレスも……少しですが宝石もありますわ。」


「ドレスも宝石も無くなって、住むところも食べるものもなくて…… 貴女は生きるために必要な何かを持っている? ボクはね 自分じゃ何も出来ないくせに、身に付けているもの全て自分で手に入れたような顔をしている勘違いさんが心底………… ん、見ていて痛いよ。寧ろ 自分の技量で精一杯生きてる娼婦を潔いとさえ思うのだけど。貴女にその潔さを理解する日が来ないことを祈るよ。」


「ハル様?」


「そう、そう。貴女が朝から怒っていた理由を考えたんだ。朝はボクが呼ぶまで誰もお部屋には来てくれなくて良いから。以上。申し訳ないけど一人にして貰える?」


「あ、あの、ハル様?」


ユンナにそんな顔をさせたい訳じゃないの。でも、醜い自分は見せたくない。






困った。そう言えば領主様が居ないとお部屋から出られなかったんだ。へへへ……、鈴を鳴らすのがかなり気まずかったりするのですが?


考えたらカチィーナは何も悪くないのよね。いや、無知で世界が狭いことは彼女の罪ではないけど、どうしてかなぁ…… 残酷なまでの無邪気さに苛立ってしまう。

八つ当たり だよね。

そう、やり込められる程度に反抗してくる彼女の戸惑う姿に一瞬でも溜飲が下がったじゃない。そういうところだよね。ああ、やっぱり わたしは醜い。



あ、そう言えば視点が逸れちゃったけど、この領地の産業ってなんだったんだろ?



◆◆


私の朝は早い。

明け方になるとハルはぎゅっと小さくなって掛布へ潜り込む。初めそれを単に寝相が悪いだけかと思っていたが、どうやら違ったようだ。

ハルの体温が低いことを知ることになったのは、そうしたことが続いて少ししてからだった。小さく折り畳まれたハルの脚が私の脚に絡み付いたとき(丁度 森で保護された子猿がこうだったか)その冷たさに掛布の奥を覗き込んでしまった。


「…………ん……ッン」


あぁ、すまない。

寒かったのだろう。

ハルの小さな手が私の寝間着の腹をきゅっと掴む。なんだろう、この幸福感。私に子は無いが世の中の父親とはこの幸せを味わっているのだろうか? 羨ましい。何と羨ましいことか。


ジェレッド、なんか色々ずれてないか?


冷えた体を私の体で暖をとる。無意識なのだろうが、それが良い。無意識でしがみついたのが私だということが良いのだ。

幼い頃 森ではぐれていた犬の子を保護したことがあった(元居たところへ戻して来いと母には叱られてしまったが)。怯えて最初こそ側へ寄ることもなかった子犬が、流石に小さな体では自分で体温調節すること事も出来なかったのか、夜になると冷たくなった体でベッドの中へ入ってきていた。アイツは直ぐに暖かくなったが(なんなら暑いくらいだったぞ)ハルはすりすり脚を擦り付けて暫くしてから漸く暖かくなるのか体の強張りを解く。


ハルには寝間着のズボンも必要かもしれないな……等と考え このしがみつかれる感触を手放せなくてメイド頭へ伝えず仕舞いでいる。



そして、やはり今朝も早起きだった。





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